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トランプ大統領は10日、すべての鉄鋼とアルミニウムの輸入に25%の関税を課すと発表した。トランプ大統領は、この関税はすべての国からの輸入に適用されると発表したが、発効日については言及していない。
 
第一期目のトランプ政権は、2018年3月23日に鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課している。中国、日本、EU、カナダ、メキシコなど主要国もその対象に含まれた。今回の鉄鋼とアルミニウムの輸入に25%の関税を課すというのは、前回25%の関税の対象となっていなかった国からの鉄鋼輸入に新たに25%の追加関税を課すこと、前回10%の関税の対象になっていた国からのアルミニウム輸入に新たに15%の上乗せ、前回関税の対象となっていなかった国からのアルミニウムの輸入に新たに25%の関税を課すことと、解釈できるだろう。
 
2024年の対米輸出額で、鉄鋼は3,027億円に対して、アルミニウムは約246億円と計算される。鉄鋼と比べてアルミニウムの対米輸出規模はかなり小さく、対米輸出全体の0.12%に過ぎない。このことから、日本からの対米アルミニウム輸出額に15%の上乗せ関税が課せられても、日本経済全体に与える影響は限定的と考えられる。
 
また、2020年8月時点の日本経済新聞社の報道によると、2018年3月に発動された鉄鋼とアルミニウムの追加関税について、約7割の日本製品が適用を除外されていることが分かったという。自動車用の高機能な鋼材などの分野については、米国では十分な量を作れず、引き続き日本から輸入に依存しているためだ。こうした状況がアルミニウムについても言えるのであれば、15%の上乗せ関税が課されても、それほど大きな輸出減少要因とはならない可能性があるのではないか。
 
ただし、今回の鉄鋼とアルミニウムの輸入の関税が日本企業、経済に与える影響はそれほど大きくないとしても、2月10日あるいは11日に発表される相互関税や2月18日にも発表される半導体、医薬品の関税、4月以降とされるすべての国あるいは多くの国からの一律関税の対象に日本がならないかについて、なお大きな懸念が残る。あるいは日米首脳会談で石破首相が約束したLNGの輸入拡大だけでは対日貿易赤字を減らせないことが分かれば、トランプ政権が日本の対米自動車輸出に関税を課す可能性が残るなど、トランプ政権の関税政策については、今後も日本の不安は尽きない。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。