2018年の鉄鋼、アルミニウム関税はバイデン政権下で「骨抜き」にされたとの不満
トランプ米大統領は2月10日に、すべての国を対象に米国への鉄鋼・アルミニウム輸入品に25%の関税を課す、と発表した。3月4日に発効する。
トランプ大統領は政権第1期の2018年3月に、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課したが、今回の措置はそれを修正するものである。日本の鉄鋼製品には形式上は既に25%の関税が課されている状態であるが、それに新たに25%上乗せされて関税率が50%になる訳ではないようだ。
2018年3月の鉄鋼、アルミニウム関税では、中国、日本、韓国、欧州連合(EU)、カナダ、メキシコ、オーストラリアなどがその対象となった。しかしその後、カナダ、メキシコ、韓国、オーストラリアなどについては、輸出抑制などを条件に関税が免除されていった。また、関税が課せられた国からの鉄鋼、アルミニウムについても、適用除外措置、例外措置が多く設けられていった。
2020年8月時点の日本経済新聞社の報道によると、2018年3月に発動された鉄鋼とアルミニウムの追加関税について、約7割の日本製品が適用を除外されていることが分かったという。自動車用の高機能な鋼材などの分野については、米国では十分な量を作れず、引き続き日本から輸入に依存していたためだ。
さらに日本やEU、英国の鉄鋼製品に対しては、バイデン政権下で「関税割当」と呼ばれる無税の輸入枠が設けられた。日本については年間125万トンまでは関税ゼロで鉄鋼を輸出できるようになった。
2024年の日本からの対米鉄鋼輸出量は112万トン(財務省、貿易統計)であることから、事実上関税は免除されていたとみられる。
バイデン政権のもとでいわば「骨抜き」にされた鉄鋼・アルミニウムへの関税措置の実効性を復活させることが、トランプ大統領の狙いなのだろう。
トランプ大統領は政権第1期の2018年3月に、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課したが、今回の措置はそれを修正するものである。日本の鉄鋼製品には形式上は既に25%の関税が課されている状態であるが、それに新たに25%上乗せされて関税率が50%になる訳ではないようだ。
2018年3月の鉄鋼、アルミニウム関税では、中国、日本、韓国、欧州連合(EU)、カナダ、メキシコ、オーストラリアなどがその対象となった。しかしその後、カナダ、メキシコ、韓国、オーストラリアなどについては、輸出抑制などを条件に関税が免除されていった。また、関税が課せられた国からの鉄鋼、アルミニウムについても、適用除外措置、例外措置が多く設けられていった。
2020年8月時点の日本経済新聞社の報道によると、2018年3月に発動された鉄鋼とアルミニウムの追加関税について、約7割の日本製品が適用を除外されていることが分かったという。自動車用の高機能な鋼材などの分野については、米国では十分な量を作れず、引き続き日本から輸入に依存していたためだ。
さらに日本やEU、英国の鉄鋼製品に対しては、バイデン政権下で「関税割当」と呼ばれる無税の輸入枠が設けられた。日本については年間125万トンまでは関税ゼロで鉄鋼を輸出できるようになった。
2024年の日本からの対米鉄鋼輸出量は112万トン(財務省、貿易統計)であることから、事実上関税は免除されていたとみられる。
バイデン政権のもとでいわば「骨抜き」にされた鉄鋼・アルミニウムへの関税措置の実効性を復活させることが、トランプ大統領の狙いなのだろう。
日本からの輸出についても例外措置が大幅に縮小されることは避けられない
日本からの鉄鋼、アルミニウムの対米輸出についても、今まで認められていた例外措置が大幅に縮小されることで、対米輸出に影響が出ることは避けられないだろう。ただし、例外措置が果たして完全に認められなくなるのかどうかは明らかではない。米国では容易には作れない鋼材などについて、輸入を完全に止めてしまえば米国内での生産活動にも大きな支障が生じることを踏まえると、一部の例外措置は残るのではないか。発効日が3月4日と1か月後に設定されているのも、残すべき例外措置を精査する時間を準備したとも考えられる。
2024年の対米輸出額で、鉄鋼は3,027億円に対して、アルミニウムは約246億円と計算される。鉄鋼と比べてアルミニウムの対米輸出規模はかなり小さく、対米輸出全体の0.12%に過ぎない(鉄鋼は1.4%)。このことから、日本からの対米アルミニウム輸出額に15%の上乗せ関税が課せられても、日本経済全体に与える影響は限定的と考えられる。やはり大きな影響が生じる可能性があるのは、鉄鋼関税の例外措置縮小なのではないか。
2024年の対米輸出額で、鉄鋼は3,027億円に対して、アルミニウムは約246億円と計算される。鉄鋼と比べてアルミニウムの対米輸出規模はかなり小さく、対米輸出全体の0.12%に過ぎない(鉄鋼は1.4%)。このことから、日本からの対米アルミニウム輸出額に15%の上乗せ関税が課せられても、日本経済全体に与える影響は限定的と考えられる。やはり大きな影響が生じる可能性があるのは、鉄鋼関税の例外措置縮小なのではないか。
米国内での物価高がトランプ関税の歯止めになるか
ちなみに、2024年の米国の鉄鋼の輸入額は317億ドル、鉄鋼製品の輸入額は496億ドル、アルミ・アルミ製品の輸入額は266億ドル、合計で約1,079億ドルだった。鉄鋼、アルミニウムの輸入品に対して課される25%関税が、仮に完全に製品価格に転嫁される場合には、米国の国内GDPデフレータは0.1%程度上昇する計算となる。
この先、トランプ政権が関税の対象をさらに拡大させていく中、貿易相手国の経済への打撃が広がる一方、米国内での物価上昇がより顕著になっていくだろう。そうなれば、国民の間でバイデン前政権に代わってトランプ政権が物価を安定させてくれるとの期待が失望に変わり、2026年の中間選挙で共和党に逆風となる可能性が出てくる。それが、トランプ政権による関税対象の拡大にいずれ歯止めとなっていくことも考えられるところだ。
(参考資料)
「トランプ米大統領、鉄鋼・アルミの25%関税発表 3月4日に発動」、2025年2月11日、毎日新聞
「米政権、鉄・アルミに25%関税 例外停止で日本も対象か」、2025年2月11日、日本経済新聞電子版
この先、トランプ政権が関税の対象をさらに拡大させていく中、貿易相手国の経済への打撃が広がる一方、米国内での物価上昇がより顕著になっていくだろう。そうなれば、国民の間でバイデン前政権に代わってトランプ政権が物価を安定させてくれるとの期待が失望に変わり、2026年の中間選挙で共和党に逆風となる可能性が出てくる。それが、トランプ政権による関税対象の拡大にいずれ歯止めとなっていくことも考えられるところだ。
(参考資料)
「トランプ米大統領、鉄鋼・アルミの25%関税発表 3月4日に発動」、2025年2月11日、毎日新聞
「米政権、鉄・アルミに25%関税 例外停止で日本も対象か」、2025年2月11日、日本経済新聞電子版
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。