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CPIショックで金融市場は動揺

12日に発表された米国1月分消費者物価指数(CPI)は事前予想を上回り、金融市場を混乱させた。CPIショックの再燃である。
 
総合CPIは前月比0.5%上昇と、事前予想の0.3%上昇を大きく上回った。これは、2023年8月以来の上昇率だ。前年同月比も事前予想の+2.9%を上回る+3.0%となった。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアCPIは前月比0.4%上昇と事前予想の0.3%上昇を上回り、前年同月比も事前予想の+3.1%を上回る+3.3%に達した。
 
1月の総合CPI上昇率の上振れは、食料品価格上昇の影響が大きかった。その3分の2は卵の価格上昇によるものだ。卵の価格は前月比15%余り上昇し、2015年6月以来の大幅上昇となった。
 
コアCPIでは、処方薬、自動車保険、航空運賃の価格上昇が目立った。ホテル宿泊料金と中古車の価格も上昇したが、これはロサンゼルス近郊の火災が影響したと考えられる。さらに、サービス分野で最大のウエイトである住居費は、1月に前月比0.4%上昇した。
 
金融市場では米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ期待が一段と後退し、長期国債値回りは大きく上昇した。またダウ平均株価は一時500ドルに迫る大幅下落となった。金利スワップ市場に織り込まれる年内の利下げ確率は、CPI発表前には0.25%幅で2回程度であったものが、発表後には0.25%幅で1回程度へと低下した。
 
米国の長期国債利回りの上昇を受けて、日本の長期国債利回りも上昇し、10年国債利回りは14年10か月ぶりとなる1.37%台に乗せた。

トランプ大統領はFRBに関税引き上げと連動した利下げを要求

前日の上院での証言に続き、12日にFRBのパウエル議長は下院での証言に臨んだ。物価上昇について、「目標値に戻すために大きな進歩を遂げたが、まだ完全に達成されていない」と述べた。そのうえで「引き続き経済に制約的な政策を維持したい」と語り、前日の上院での証言と同様に、利下げを急がない姿勢を改めて示した。
 
一方、トランプ大統領はSNSに”BIDEN INFLATION UP!” と投稿し、CPIの上振れは、バイデン前政権のせいだとアピールした。さらに、「インフレ率は引き下げられるべきで、それは今後の関税率引き上げと連動することになる。ロックンロールをしよう、アメリカ!!!(Interest Rates should be lowered, something which would go hand in hand with upcoming Tariffs!!! Lets Rock and Roll, America!!!)」と投稿した。
 
関税が引き上げられ、輸入品の価格が上昇すれば、FRBはさらに利下げに慎重になるはずである。この点からトランプ大統領の発言の真意は明らかではないが、追加関税と同様に輸入品を割高にし、その競争力を低下させるドル安を誘導するためにFRBは利下げを進めるべき、という主張が発言に込められている可能性が考えられる。
 
パウエル議長は下院での証言で、このトランプ大統領の発言について議員から質問されたが、「人々はFRBが引き続き冷静に仕事をし、経済動向に基づいて決断を下すと自信を持っていい」と軽く受け流す回答をした。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。