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時代の変化に合わせて暗号資産の規制見直しを検討

日本経済新聞社が報じたところによると、金融庁は暗号資産(仮想通貨)を有価証券並みの金融商品として新たに位置づけたうえで、開示ルールなどの規制を強化することを検討している。
 
金融庁は2016年に暗号資産を資金決済法で規定し、取引所にも分別管理(顧客資産と自己資産を区別して管理すること)など、厳しい規制をかけてきた。これは、世界に先駆ける取り組みであったが、暗号資産は実際には資金決済ではあまり使われない一方、投資対象として多く使われるようになった。さらに、暗号資産投資で大きな損失を被る個人投資家が多く出てきたことから、投資家保護の必要性も高まってきた。
 
このような情勢の変化を受けて、暗号資産を有価証券並みの金融商品と位置づけたうえで、その規制の中心を資金決済法に基づくものから金融商品取引法に基づくものへと移していくことを、金融庁は検討しているとみられる。
 
暗号資産は、株式や債券といった有価証券と比べると、情報開示などの規制は厳しくない。そこで、暗号資産取引業者への開示規制を強化することが、まず検討されている。情報開示が拡大すれば、暗号資産の投資家は暗号資産取引業者の経営状態をより理解できるようになり、不適切なサービスにより不利益を被るリスクを減らすことができる。暗号資産取引業者の信頼性を高めることもできるだろう。また、仮想通貨への投資助言に対して登録を必要とする規制強化も検討されているという。

暗号資産ETFの承認も視野か

金融庁が暗号資産への規制強化を検討する背景には、暗号資産ETF(上場投資信託)の承認を準備する目的があるとの指摘もある。
 
米国では2024年1月に現物ビットコインETFが承認され、株式と同様にビットコインを証券会社から購入できるようになった。それは、個人のビットコイン投資のすそ野を広げることにもなった。そのため、日本でもビットコインなど現物暗号資産ETFの上場承認を求める声が高まっている。
 
暗号資産の規制見直しは、日本でも個人の取引が拡大する暗号資産を、信頼性の高い投資対象として育てていくという考えに基づいたものだろう。育成と規制が同時に進められることになる。

米国では暗号資産規制は緩和の方向に転換

こうした日本の動きとは対照的に、暗号資産の規制緩和を急速に進めようとしているのが米国のトランプ政権だ。バイデン前政権下で米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー前委員長は、暗号資産取引業者などに対して訴訟を起こすことで、間接的な規制強化を進めてきた。しかし、トランプ大統領は米国を暗号資産の首都にすると宣言し、暗号資産への支援を明確に打ち出している。
 
そのもとでSECは、暗号資産への規制政策を一変させようとしている。SECのヘスター・パース委員は、「ここ数年は、訴訟が規制政策を策定する手段として利用されてきた。これは極めて異例だ」とした上で、「政策の策定のために他の手段を活用する方向に戻ることを目指している」と述べた。つまり、これまでSECが暗号資産取引業者らに対して起こした訴訟を見直す考えを示している。
 
実際、SECは2月10日に、暗号資産取引業者で世界最大手のバイナンス・ホールディングスに対する訴訟の一時停止を申請した。SECは2023年に、バイナンスと共同創業者の趙長鵬氏を証券規則に違反したとして提訴していた。
 
金融庁には、米国で行われた訴訟を通じた異例な規制強化手法、及びその方針転換が、取引業者の経営の信頼性、投資家保護、暗号資産取引の実態などに与える影響を慎重に見極めたうえで、日本での新たな暗号資産の規制に取り組むことが求められる。
 
(参考資料)
「仮想通貨、有価証券並み扱い 金融庁検討 開示規制、準ずるレベルに ETF解禁へ道も」、2025年2月11日、日本経済新聞

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。