日本とオランダの半導体製造装置メーカーが中国で行うメンテナンスの制限を協議
トランプ米政権は、中国の半導体産業への規制強化を主要同盟国に迫っており、同時に米国独自の半導体規制を厳格化する案も検討していると、25日にブルームバーグ社が報じた。これを受けて25日の東京株式市場では、関連する半導体製造装置大手の東京エレクトロンの株価が下落した。
中国の技術力を制限する取り組みは、バイデン前政権の下で開始されたものだが、それをトランプ政権が拡大・強化を図ることになる。
トランプ政権の当局者らは、日本とオランダの当局者らと最近会談し、東京エレクトロンとASMLホールディングのエンジニアが中国で行う半導体装置メンテナンス(保守・点検)の制限を協議したという。米政府がラムリサーチやKLA、アプライド・マテリアルズなど自国の半導体装置メーカーに課す対中規制と同等の対応を求めることが検討されているという。
バイデン政権のもとで、米国はオランダとの間で中国での半導体装置メンテナンスの制限に関する合意に達していたが、トランプ氏が大統領選で勝利した後は、オランダ側が難色を示していたという。
定期的な保守や修理が行われなければ、半導体製造装置は、半導体生産の厳しい品質水準などの要求に応える能力をすぐに失う恐れがある。
中国の技術力を制限する取り組みは、バイデン前政権の下で開始されたものだが、それをトランプ政権が拡大・強化を図ることになる。
トランプ政権の当局者らは、日本とオランダの当局者らと最近会談し、東京エレクトロンとASMLホールディングのエンジニアが中国で行う半導体装置メンテナンス(保守・点検)の制限を協議したという。米政府がラムリサーチやKLA、アプライド・マテリアルズなど自国の半導体装置メーカーに課す対中規制と同等の対応を求めることが検討されているという。
バイデン政権のもとで、米国はオランダとの間で中国での半導体装置メンテナンスの制限に関する合意に達していたが、トランプ氏が大統領選で勝利した後は、オランダ側が難色を示していたという。
定期的な保守や修理が行われなければ、半導体製造装置は、半導体生産の厳しい品質水準などの要求に応える能力をすぐに失う恐れがある。
ディープシーク・ショックも影響か
さらにトランプ政権は、人工知能(AI)向け半導体で圧倒的シェアを占める米エヌビディアの半導体製品について、ライセンスなしで中国に輸出できる数量と種類をさらに制限することを検討しているという。また、中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)の主要な半導体製造パートナー、中芯国際集成電路製造(SMIC)への制限強化も検討しているようだ。
エヌビディアの半導体の輸出規制強化を検討するきっかけの一つとなったのは、先月に起こったディープシーク・ショックだろう(コラム「ディープシーク・ショックはなぜ起こったのか?」、2025年1月29日)。
中国の生成AI企業ディープシーク(DeepSeek)が安価で高性能なAIモデルを開発したことを受け、米国の大手IT企業の優位性に疑問が生じたことが、このディープシーク・ショックだ。その背景の一つに、バイデン前政権が導入した、中国への先端半導体関連の輸出規制が有効に働いていないという可能性が指摘されたのである。ディープシークが、米国から中国に対して行っている先端半導体の輸出規制の影響を一部回避し、先端半導体を入手してAIモデルを開発した可能性がある。
バイデン政権は2022年に、中国向け先端半導体及びその製造装置の輸出規制を導入した。規制の対象となる先端半導体かどうかは、データ転送スピードを左右する相互接続帯域幅を基準にして判断された。そこで、AIチップの設計で世界をリードするエヌビディアは、相互接続帯域幅を抑えた中国向け新製品GPU「H800」を開発したのである。この製品は、規制の要件を満たしつつも他の点では高い性能を維持し、当時のエヌビディアの最先端GPU(画像処理半導体)とほぼ同等の性能を持つ製品が生まれたとされる。これを用いて、ディープシークがAIモデルの開発を進めた可能性が考えられている。
トランプ政権は、バイデン政権が打ち出した政策の多く、例えば脱炭素政策、DEI(Diversity(多様性)、Equity(公正性)、Inclusion(包括性))政策、国際協調路線などを一気にひっくり返したが、AI技術で中国に追い付き追い越される可能性については、例外的にバイデン政権とその危機感を共有しており、一層の規制強化に乗り出そうとしている。他方、日本企業にとっては、トランプ関税とともに輸出環境などを制約しかねないリスクである。
(参考資料)
“Trump Team Seeks to Toughen Biden’s Chip Controls Over China(トランプ米政権、日蘭に対中半導体規制強化で圧力-東エレク株下落)”, Bloomberg, February 25, 2025
エヌビディアの半導体の輸出規制強化を検討するきっかけの一つとなったのは、先月に起こったディープシーク・ショックだろう(コラム「ディープシーク・ショックはなぜ起こったのか?」、2025年1月29日)。
中国の生成AI企業ディープシーク(DeepSeek)が安価で高性能なAIモデルを開発したことを受け、米国の大手IT企業の優位性に疑問が生じたことが、このディープシーク・ショックだ。その背景の一つに、バイデン前政権が導入した、中国への先端半導体関連の輸出規制が有効に働いていないという可能性が指摘されたのである。ディープシークが、米国から中国に対して行っている先端半導体の輸出規制の影響を一部回避し、先端半導体を入手してAIモデルを開発した可能性がある。
バイデン政権は2022年に、中国向け先端半導体及びその製造装置の輸出規制を導入した。規制の対象となる先端半導体かどうかは、データ転送スピードを左右する相互接続帯域幅を基準にして判断された。そこで、AIチップの設計で世界をリードするエヌビディアは、相互接続帯域幅を抑えた中国向け新製品GPU「H800」を開発したのである。この製品は、規制の要件を満たしつつも他の点では高い性能を維持し、当時のエヌビディアの最先端GPU(画像処理半導体)とほぼ同等の性能を持つ製品が生まれたとされる。これを用いて、ディープシークがAIモデルの開発を進めた可能性が考えられている。
トランプ政権は、バイデン政権が打ち出した政策の多く、例えば脱炭素政策、DEI(Diversity(多様性)、Equity(公正性)、Inclusion(包括性))政策、国際協調路線などを一気にひっくり返したが、AI技術で中国に追い付き追い越される可能性については、例外的にバイデン政権とその危機感を共有しており、一層の規制強化に乗り出そうとしている。他方、日本企業にとっては、トランプ関税とともに輸出環境などを制約しかねないリスクである。
(参考資料)
“Trump Team Seeks to Toughen Biden’s Chip Controls Over China(トランプ米政権、日蘭に対中半導体規制強化で圧力-東エレク株下落)”, Bloomberg, February 25, 2025
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。