&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

トランプ関税への不安から米国で景況感が下振れ

米国でにわかに景気減速懸念が浮上している。コンファレンス・ボード(CB)が25日に発表した2月消費者信頼感指数は予想外に下振れ、先行きの景気への不安を金融市場に生じさせている。
 
消費者信頼感指数は98.3と、事前予想の102.5を大幅に下回り、2024年6月以来の低水準となった。前月からの低下幅は7ポイントと、2021年8月以来で3年半ぶりの大きさとなった。さらに短期的な見通しを示す「期待指数」は72.9と前月から9.3ポイント低下し、8か月ぶりの低水準となった。この期待指数が景気後退の兆候とされる80を下回るのは、2024年6月以来のことだ。
 
他方、向こう1年のインフレ期待は6.0%と、前月の5.2%から急上昇し、2023年5月以来の高水準となっている。
 
前週21日に発表された米ミシガン大学の2月の米消費者態度指数(確報値)も2023年11月以来の低水準となり、同日に米S&Pグローバルが発表した2月の米国購買担当者景気指数(PMI、速報値)も下振れた。ここにきて、米国企業・消費者の景況感の下振れを示す指標が相次いで発表されている。
 
その背景にあるのは、トランプ政権の経済政策だ。トランプ大統領が就任直後から打ち出している関税政策は、米国企業のサプライチェーンを混乱させ、また輸入物価の上昇を通じて企業の収益を圧迫し、個人消費を悪化させる。さらに、連邦職員の大幅削減や政府支出の削減も、先行きの景気への不安となっている。

進む「トランプ・トレード」の巻き戻し

こうした経済指標は、米国金融市場にも大きな影響を与え、長期金利の低下、ドル安傾向を生じさせている。10年国債利回りは25日に、一時4.28%と2024年12月中旬以来およそ2か月半ぶりの低水準を付けた。
 
昨年10月以降は、トランプ政権発足とその経済政策の影響を織り込んで、長期金利の上昇とドル高が進展した。いわゆる「トランプ・トレード」である。その「トランプ・トレード」の相当部分は既に巻き戻されてしまった。トランプ政権の経済政策が米国経済にもたらす悪影響がより注目されるようになったためだ。
 
現在確認されている経済指標の下振れは「ソフトデータ」であるが、今後雇用統計、小売統計など「ハードデータ」でも下振れ傾向が見られれば、米国景気の減速懸念はより強まることになるだろう。

昨年夏の歴史的日本下落と似た環境に

こうした米国金融市場の変調は、日本の市場にも影響を与えている。25日の米国市場でドル円レートは1ドル148円台半ばと昨年10月中旬以来の水準まで円高が進んだ。これを受けて、26日には日経平均株価は3万8千円を割り込んだ。それがリスク回避傾向を生み、10年国債利回りは1.3%台前半の水準まで低下している。
 
10年国債利回りの低下は、米国長期金利低下、国内株式の下落に加え、前週末の植田日銀総裁による長期金利上昇への牽制ともとれる発言の影響が重なったものだ。一時は1.5%に接近した10年国債利回りの上昇傾向は一服している。
 
1月24日の日本銀行の利上げ以降、金融市場は日本銀行が追加利上げに前向きとの見方を強めており、それが日本の長期金利の上昇を促してきた。他方、それが米国の長期金利低下傾向と相まって、為替市場で円高傾向を生み、株価を下落させている。
 
米国景気への不安、日銀利上げ観測の高まり、円高進行は、昨年8月に日本株が歴史的な下落を演じた際の3条件である。現状もこの3条件が揃ってきている。日米金融政策が逆方向に動くなか、国際資金フローには不規則な動きが生じやすい環境だ。今回は、それにトランプ関税への不安も重なっている。日本の株式市場は、下方リスクに十分注意することが必要な局面にあるのではないか。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。