2019年日米貿易協定締結時の日本車関税に関する日米間での合意
2月26日の日本経済新聞は、2019年9月にトランプ大統領と安倍首相が合意したとされる「日本の自動車に追加関税を課さない」という約束が、今でも有効なのか、2期目のトランプ大統領はそれを守るのかどうか、経済産業省や自動車業界が一縷の望みを持ってこの点を注視していることを報じている。
日本経済新聞ではここでの合意について、以下のように説明している。「日米貿易協定が誠実に履行されている間は、日本の自動車および自動車部品に対して、米国通商拡大法第232条に基づく追加関税は課されることはない」
しかし、これは協定に正式に盛り込まれたものではない。協定内容を盛り込んだ当時の共同声明によると、日本側はコメの無関税輸入枠導入を見送る一方、米国産の牛・豚肉の関税率を環太平洋連携協定(TPP)と同水準まで引き下げるとした。他方米国側は、産業機械や化学品、鉄鋼製品など自動車を除く工業品について関税を撤廃、削減することで合意した。
ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は両首脳の会談後に、「現時点で日本車に追加関税を課す意図はない」とし、自動車は今回の日米合意に含まれない、と説明した。さらに声明では、「協定が誠実に履行」されている間、「共同声明の精神に反する行動を取らない」とした。
さらに安倍首相は記者会見で、「日本の自動車あるいは自動車部品に対して追加関税を課さないという趣旨であることは私からトランプ大統領に明確に確認をし、大統領もそれを認めた」と述べている。
日本経済新聞ではここでの合意について、以下のように説明している。「日米貿易協定が誠実に履行されている間は、日本の自動車および自動車部品に対して、米国通商拡大法第232条に基づく追加関税は課されることはない」
しかし、これは協定に正式に盛り込まれたものではない。協定内容を盛り込んだ当時の共同声明によると、日本側はコメの無関税輸入枠導入を見送る一方、米国産の牛・豚肉の関税率を環太平洋連携協定(TPP)と同水準まで引き下げるとした。他方米国側は、産業機械や化学品、鉄鋼製品など自動車を除く工業品について関税を撤廃、削減することで合意した。
ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は両首脳の会談後に、「現時点で日本車に追加関税を課す意図はない」とし、自動車は今回の日米合意に含まれない、と説明した。さらに声明では、「協定が誠実に履行」されている間、「共同声明の精神に反する行動を取らない」とした。
さらに安倍首相は記者会見で、「日本の自動車あるいは自動車部品に対して追加関税を課さないという趣旨であることは私からトランプ大統領に明確に確認をし、大統領もそれを認めた」と述べている。
「米国通商拡大法第232条に基づく追加関税は課されることはない」
このように、「日本の自動車に追加関税を課さない」という約束は、協定に正式に盛り込まれたものではなく、いわば口約束である。「協定が誠実に履行」されている間、「共同声明の精神に反する行動を取らない」としているが、USTRなどが日米貿易協定の履行状況を調査したら十分に履行されていなかったとして、トランプ大統領がこの口約束を反故にすることは容易に考えられるところではないか。
さらに注目されるのは、冒頭の日本経済新聞の説明によれば、米国が自動車関税を課さない条件として、日米貿易協定の誠実な履行に加えてもう一つ、「米国通商拡大法第232条に基づく追加関税は課されることはない」とされている点だ。
米国通商拡大法第232条は、国家の安全保障上にリスクがある場合に、相手国からの輸入に追加関税を課すなどの措置を講じることを米政府に認める法律だ。2018年にトランプ大統領が日本を含む多くの国からの鉄鋼、アルミニウムに関税を課した際の根拠となった法律が、この米国通商拡大法第232条だ。トランプ大統領が2月20日に発表し、3月12日に発動するとした鉄鋼、アルミニウムへの25%の追加関税も、この法律を根拠とするのだろう。
さらに注目されるのは、冒頭の日本経済新聞の説明によれば、米国が自動車関税を課さない条件として、日米貿易協定の誠実な履行に加えてもう一つ、「米国通商拡大法第232条に基づく追加関税は課されることはない」とされている点だ。
米国通商拡大法第232条は、国家の安全保障上にリスクがある場合に、相手国からの輸入に追加関税を課すなどの措置を講じることを米政府に認める法律だ。2018年にトランプ大統領が日本を含む多くの国からの鉄鋼、アルミニウムに関税を課した際の根拠となった法律が、この米国通商拡大法第232条だ。トランプ大統領が2月20日に発表し、3月12日に発動するとした鉄鋼、アルミニウムへの25%の追加関税も、この法律を根拠とするのだろう。
日本車に関税を課す場合には通商法第301条を根拠とする可能性が高いか
しかし、米国が日本の自動車に関税を課す際に、仮に通商法を根拠とするのであれば、それは米国通商拡大法第232条ではなく、通商法第301条の可能性が高いのではないか。
通商法第301条は、貿易相手国の不公正貿易を理由に追加関税を課すことを米政府に認めるものだ。米国は、日本の自動車市場は閉鎖的であり、米国車を締め出しているとの不満を持っている。それは、厳しすぎる環境規制、安全規制、あるいは日本車に有利な補助金制度などだ。こうした米国が言う「非関税障壁」に対する報復、あるいは「相互関税」として日本からの自動車に追加関税を課すのであれば、通商法第301条の方が自然だろう。
トランプ大統領が2月1日に、中国、メキシコ、カナダに一律関税を課す大統領令に署名した際には、国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠にした。IEEPAは、米国の安全保障、外交政策、経済に対する異例かつ重大な脅威を受けて大統領が緊急事態を宣言した場合、大統領にそれに対処する権限を与えるものだ。日本の自動車関税を課す際にも、これを根拠とする可能性もあるだろう。
いずれにせよ、米国通商拡大法第232条以外に法律に基づく自動車関税であれば、日米間の口約束に反しないことになる。
通商法第301条は、貿易相手国の不公正貿易を理由に追加関税を課すことを米政府に認めるものだ。米国は、日本の自動車市場は閉鎖的であり、米国車を締め出しているとの不満を持っている。それは、厳しすぎる環境規制、安全規制、あるいは日本車に有利な補助金制度などだ。こうした米国が言う「非関税障壁」に対する報復、あるいは「相互関税」として日本からの自動車に追加関税を課すのであれば、通商法第301条の方が自然だろう。
トランプ大統領が2月1日に、中国、メキシコ、カナダに一律関税を課す大統領令に署名した際には、国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠にした。IEEPAは、米国の安全保障、外交政策、経済に対する異例かつ重大な脅威を受けて大統領が緊急事態を宣言した場合、大統領にそれに対処する権限を与えるものだ。日本の自動車関税を課す際にも、これを根拠とする可能性もあるだろう。
いずれにせよ、米国通商拡大法第232条以外に法律に基づく自動車関税であれば、日米間の口約束に反しないことになる。
米国の自動車輸入先で国別第2位の日本を特別扱いしない
このような点を踏まえると、トランプ大統領が2019年の日米貿易協定締結時の日米間の口約束を守って、日本車に関税を課さないことを期待するのは、楽観的過ぎるのではないか。2024年の米国の自動車輸入先で日本が国別で第2位であったことを踏まえても、日本車だけ特別扱いをするとは思えない。
仮に、日米間での交渉の末に自動車関税を免れることがある場合には、厳しい対米自動車輸出数量規制の導入など、関税に匹敵する経済的打撃を生む施策を日本側が受け入れることが条件となるのではないか。
(参考資料)
「『車への追加関税ない』安倍氏との約束」、2025年2月26日、日本経済新聞
仮に、日米間での交渉の末に自動車関税を免れることがある場合には、厳しい対米自動車輸出数量規制の導入など、関税に匹敵する経済的打撃を生む施策を日本側が受け入れることが条件となるのではないか。
(参考資料)
「『車への追加関税ない』安倍氏との約束」、2025年2月26日、日本経済新聞
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。