&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

既に7万5千人の連邦職員が自主退職

2月20日で就任から1か月が経過したトランプ米大統領は、選挙公約通りに連邦職員の大幅削減を断行している。
 
トランプ大統領は22日に、連邦政府を縮小するために「無能で腐敗した官僚をすべて排除する」と述べた。在宅勤務禁止に従えない職員に退職を勧め、今までに7万5, 000人以上が応じたとしている。
 
また、連邦政府の無駄な支出の削減を進める「政府効率化省」を率いるイーロン・マスク氏は22日、連邦政府職員に対して、「前の週にしたこと五つ」を箇条書きにしてメールするよう指示し、従わなければ解雇すると告げた。これに対して、一部の政府機関トップがマスク氏のメールに従わないよう職員に指示しており混乱が生じている。マスク氏は、24日までに返信がない場合は、従業員が辞職したものとみなされるとした。25日までに返信した連邦職員は100万人程度と230万人程度の半分以下にとどまったとされる。その後マスク氏は、返信がない職員に再度メールを送り、2回目も返信がない場合には解雇する、としている。
 
米内国歳入庁(IRS)は20日、約6,000人の職員の解雇を発表した。解雇数はこの先6,700人程度にまで達する見通しだという。またトランプ政権は23日に、対外援助事業を担う国際開発局(USAID)について、海外に駐在する幹部や必要不可欠な職員を除き、米国内で1,600人を削減すると発表した。

連邦職員の削減と政策転換は一体

トランプ大統領が連邦職員を削減するのは、単に行政の効率化を目指すだけでなく、バイデン前政権下での政策を転換させることと強く結びついている。IRSの職員で主に削減の対象となるのは、富裕層の納税強化を進めたバイデン前政権下で採用した職員だという。
 
また、バイデン前政権が何千億ドルもの資金を投入したクリーンエネルギープログラムに携わる職員の約4分の1が削減された。米エネルギー省の融資プログラム局(LPO)では、過去数年間に採用された数十人の試用期間中の職員を含むおよそ60人が、トランプ大統領の就任以降に退職、あるいは解雇されたという。
 
また、トランプ大統領は、バイデン前政権が進めたDEI(多様性・公平性・包括性)重視の施策を廃止し、責任者の職を解いた。
 
このように、政策転換を行うのに、その政策を担ってきた職員を解雇するのは、民主党寄りの官僚が政策を水面下で動かす「闇の政府(ディープ・ステート)」があるとトランプ大統領が信じているからとみられる。職員を解雇しない限り、政策転換を確実なものにできないと考えているのだろう。

連邦職員の削減は米国経済に逆風

連邦職員の削減では、既に大きな混乱も見られている。ロイター通信は22日に、政府は食品医薬品局(FDA)は最近千人規模の職員に解雇を通告したが、そのうち300人前後の職員に復帰を呼びかけていると報じた。復帰を促したのは、医薬品の審査や食品安全に関わる職員で、マスク氏が設立した医療ベンチャー「ニューラリンク」の審査に当たった職員も含まれるという。
 
また、核兵器などの管理にあたる国家核安全保障局(NNSA)の職員を誤って解雇し、慌てて復職させた事例もあったという。
 
USAトゥデー紙によると、第2次トランプ政権発足後に、約1万人の連邦職員が解雇され、約7万5,000人が早期退職プログラムに応募したという。トランプ政権は連邦職員約230万人のうち最大10%、つまり23万人程度の削減を目指しているとされる。入省年次の若い職員が当面の解雇対象となるという。
 
連邦職員の削減は、米国経済にも逆風となるはずだ。トランプ政権の4年間で、連邦職員が10%削減され、それと同率の10%連邦支出が削減されると仮定すると、それはGDPの2.5%程度の規模に達する。
 
他方でDOGEを担うマスク氏は、無駄な連邦支出を毎年5,000億ドル、4年間で2兆ドル削減するとしている。その場合、支出削減は名目GDPの8%程度にも達する計算だ。仮にこうした政策が実施されれば、連邦職員の削減数は70万人を超える計算となり、連邦支出の削減と合わせてかなりの景気抑制効果を生むことになるはずだ。
 
トランプ大統領は、節約される政府コストの一部について、国民への直接給付を検討しているとし、「米国民に20%還元、20%を債務返済に充てることを考えている」と発言している。その場合は連邦政府の支出削減の景気への悪影響は一部緩和されるだろうが、それでも相当規模の悪影響は免れない。
 
(参考資料)
「「無能な官僚、全て排除」 トランプ氏、政府縮小へ」、2025年2月24日、産経新聞 
「<トランプ2.0>「無能な官僚全て排除」*トランプ氏*政府縮小に意欲」、2025年2月24日、北海道新聞
「トランプ氏、DOGE節約資金の一部 国民への直接給付を検討」、2025年2月20日、ダウ・ジョーンズ債券・為替情報
「「民意」盾に強引な治政=性急な政府縮小で混乱も―第2次トランプ政権1カ月」、2025年2月19日、時事通信ニュース
「米内国歳入庁も約6000人削減、郵政公社は商務省に吸収か」、2025年2月21日、ロイター通信ニュース
「トランプ政権、クリーンエネルギー融資の職員50%削減も」、2025年2月17日、ダウ・ジョーンズ米国企業ニュース

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。