国民民主党は所得制限を認めなかった
昨年から協議を続けてきた「103万円の壁」対策は、与党と国民民主党が合意できずに、事実上破談となったようだ。与党は最終期限としている26日時点で国民民主党が与党修正案に反対の姿勢を示したことから、事実上協議を打ち切った。28日にも与党案を国会に提出して年度内の成立を目指す構えだ。
与党は高校教育無償化、社会保障改革で合意した日本維新の会の協力で予算案の可決に目途を立てたが、「103万円の壁」対策を含む税制改革の関連法案についても、今後は日本維新の会の協力で成立させることを目指す。
国民民主党は所得税の課税最低限を現行の103万円から178万円に引き上げることを主張してきた。一方与党は、国民民主党案では7~8兆円の大規模な税収減になるとして、当初、123万円までの課税最低限引き上げ案を示した。その後、国民民主党内では、東京23区の単身者への生活保護支給額を基準とする156万円案も浮上するなど、課税最低限の引き上げ水準で、両者間に歩み寄りも見られた。
しかし最終的に両者の協議が破談となったのは、国民民主党が所得制限を認めなかったからだ。
与党は高校教育無償化、社会保障改革で合意した日本維新の会の協力で予算案の可決に目途を立てたが、「103万円の壁」対策を含む税制改革の関連法案についても、今後は日本維新の会の協力で成立させることを目指す。
国民民主党は所得税の課税最低限を現行の103万円から178万円に引き上げることを主張してきた。一方与党は、国民民主党案では7~8兆円の大規模な税収減になるとして、当初、123万円までの課税最低限引き上げ案を示した。その後、国民民主党内では、東京23区の単身者への生活保護支給額を基準とする156万円案も浮上するなど、課税最低限の引き上げ水準で、両者間に歩み寄りも見られた。
しかし最終的に両者の協議が破談となったのは、国民民主党が所得制限を認めなかったからだ。
相応規模での課税最低限の引き上げと大幅な税収減回避を同時に実現する
与党は、相応規模での課税最低限引き上げを目指す一方で、大幅な税収減を回避しようとした。この双方を同時に実現するためには、所得制限が必要だった。
最終的な与党案は、非課税控除を、年収850万円を上限に4段階で上乗せし、課税最低限である「壁」を160万円へと引き上げるものだ。
年収200万円以下では、基礎控除が現行の48万円に47万円上乗せ、給与所得控除が10万円上乗せされ、課税最低限は現行の103万円から160万円となる。これは、恒久措置である。
他方、年収200万円超では段階的に基礎控除の上乗せ額が縮小され、年収850万円超に関しては基礎控除の上乗せ額は現行の48万円に10万円の上乗せにとどめる。ただし、これらは2年間の時限措置となる。全体で減税規模は1兆2,000億円程度になるという。
「103万円の壁」の問題の本質は、低所得層の労働調整による人手不足の深刻化、物価高による低所得層の生活環境悪化だ。従って、低所得層の課税最低限の引き上げが重要だ。国民民主党は、すべての所得層の課税最低限の一律引き上げにこだわったが、その場合、減税規模が高所得層ほど大きくなり、所得格差を拡大させてしまうことと、大幅な税収減を生じさせてしまうという2つの問題を生む。
最終的な与党案は、非課税控除を、年収850万円を上限に4段階で上乗せし、課税最低限である「壁」を160万円へと引き上げるものだ。
年収200万円以下では、基礎控除が現行の48万円に47万円上乗せ、給与所得控除が10万円上乗せされ、課税最低限は現行の103万円から160万円となる。これは、恒久措置である。
他方、年収200万円超では段階的に基礎控除の上乗せ額が縮小され、年収850万円超に関しては基礎控除の上乗せ額は現行の48万円に10万円の上乗せにとどめる。ただし、これらは2年間の時限措置となる。全体で減税規模は1兆2,000億円程度になるという。
「103万円の壁」の問題の本質は、低所得層の労働調整による人手不足の深刻化、物価高による低所得層の生活環境悪化だ。従って、低所得層の課税最低限の引き上げが重要だ。国民民主党は、すべての所得層の課税最低限の一律引き上げにこだわったが、その場合、減税規模が高所得層ほど大きくなり、所得格差を拡大させてしまうことと、大幅な税収減を生じさせてしまうという2つの問題を生む。
与党修正案にも4つの問題
他方、国会に提出される与党修正案にも問題はある。非課税控除を所得別に4段階に設定したことで、非常に複雑な制度になってしまったことが第1の問題だ。
第2の問題は、年収200万円超の非課税控除上乗せを2年間の時限措置としたことだ。景気対策として所得減税を実施する場合には、2年間の時限措置も選択肢となるだろうが、「103万円の壁」は構造的な問題であり、恒久的な制度見直しで対応すべきだ。
第3の問題は、その制度の問題として特に重要なのは、足もとの物価高によって課税最低限の実質的な水準が切り上がり、実質増税となってしまっていることだ。これは、国民民主党が「103万円の壁」問題で提起した重要な論点だ。
そうした構造的な制度の見直しを十分にしていない点が、与党修正案の問題点の一つだ。例えば、課税最低限や所得水準による税率区分を物価に連動させる制度とすることで、物価高による実質増税が低所得者の生活を圧迫することを回避できる。
そして第4の問題は、減税措置の財源が曖昧である点だ。与党は、恒久的な歳出拡大や減税措置には恒久的な財源を確保する必要があるとしており、国民民主党にも恒久的な財源を確保するように求めてきた。
しかし、今回の与党案で年収200万円以下を除けば、2年間の暫定措置であることから、恒久財源の確保が必要ないとの立場であるかもしれない。しかし、1兆2,000億円程度の減税になるのであれば、2年間であってもその財源を確保すべきであるし、それを明確に示すことが責任のある姿勢だろう。
このように、「103万円の壁」対策を巡る与党と国民民主党の協議は、後味の悪い幕切れとなった感がある。しかし、「103万円の壁」に限らず、「年収の壁」問題への対応はこの先も進めていく必要がある。また、物価変動への対応など、恒久的な所得税制度の見直しも、残された重要な課題だ。
第2の問題は、年収200万円超の非課税控除上乗せを2年間の時限措置としたことだ。景気対策として所得減税を実施する場合には、2年間の時限措置も選択肢となるだろうが、「103万円の壁」は構造的な問題であり、恒久的な制度見直しで対応すべきだ。
第3の問題は、その制度の問題として特に重要なのは、足もとの物価高によって課税最低限の実質的な水準が切り上がり、実質増税となってしまっていることだ。これは、国民民主党が「103万円の壁」問題で提起した重要な論点だ。
そうした構造的な制度の見直しを十分にしていない点が、与党修正案の問題点の一つだ。例えば、課税最低限や所得水準による税率区分を物価に連動させる制度とすることで、物価高による実質増税が低所得者の生活を圧迫することを回避できる。
そして第4の問題は、減税措置の財源が曖昧である点だ。与党は、恒久的な歳出拡大や減税措置には恒久的な財源を確保する必要があるとしており、国民民主党にも恒久的な財源を確保するように求めてきた。
しかし、今回の与党案で年収200万円以下を除けば、2年間の暫定措置であることから、恒久財源の確保が必要ないとの立場であるかもしれない。しかし、1兆2,000億円程度の減税になるのであれば、2年間であってもその財源を確保すべきであるし、それを明確に示すことが責任のある姿勢だろう。
このように、「103万円の壁」対策を巡る与党と国民民主党の協議は、後味の悪い幕切れとなった感がある。しかし、「103万円の壁」に限らず、「年収の壁」問題への対応はこの先も進めていく必要がある。また、物価変動への対応など、恒久的な所得税制度の見直しも、残された重要な課題だ。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。