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4日にメキシコ、カナダ、中国に関税実施を明言

3月3日の米国市場で、ダウ平均株価は前日比649ドル安となった。また、ナスダック総合指数も500ドル近く、2.6%の大幅下落となった。
 
同日に発表された2月ISM製造業指数が50.3と事前予想の50.6程度を下回り、足もとで燻ぶる米国景気悪化観測をさらに助長したことが、株価下落の一因となった。関税による物価高への懸念などが、指数の下振れの背景にあるとみられる。
 
さらに、メキシコ、カナダ、中国に対する一律関税への懸念も株価下落を促した。トランプ大統領は3日、中国からの輸入品への関税率を一律に10%上乗せする大統領令に署名した。米国時間の3月4日に発効となる。2月に導入された10%の一律関税と合わせて、中国からの輸入品には一律20%の関税が上乗せされる。ホワイトハウスは、中国が合成麻薬フェンタニルに対処していないことが理由としている。
 
さらに、1か月実施が延期されていたメキシコとカナダに対する25%の一律関税についても、3月4日に導入する、とトランプ大統領は説明した。両国と猶予を交渉する「余地は全くない」とも述べている。
 
この3か国共に米国の追加関税に対しては報復措置を講じる考えを示しており、報復の応酬が始まる中、世界経済へのリスクが高まっている。

日本が通貨安政策をとっていると批判

3月4日の日本株も大きな下落が避けられない情勢だ。日経平均株価は寄り付き直後に500円を超える下落となった。3日に米国株が大きく下落したことに加えて、円高が進んだことが日本株にとって2重の打撃となっている。ドル円レートは3月4日の東京時間の朝方に一時1ドル149円程度へと1円近く一気にドル安円高が進んだ。このドル安円高は、トランプ大統領の別の発言がきっかけで生じている。それは、日本や中国などが通貨安誘導策をとるならば、米国は関税引き上げを検討する、との趣旨の発言だ。
 
具体的には、トランプ大統領は、「日本の円であれ中国の人民元であれ、彼らが通貨を下げると我々に非常に不公平な不利益をもたらす」と述べた。また、「私は中国の習近平国家主席や日本の首脳たちに電話をして『通貨を切り下げ続けることはできない』と伝えてきた」とし、「関税率をやや引き上げなければならなくなるだろう」と語った。
 
この発言は、日本の当局にとっては見過ごすことはできないものだ。2022年以降、日本は急速な円安に見舞われてきたが、それは日本の当局が誘導したものではなく、日米金融政策の差などによって生じたものである。円安は物価高リスクを高めることから、政府は2022年以降、数回にわたってドル売り円買いの為替介入を実施し、円安抑制に努めてきた。
 
トランプ大統領の円安けん制発言が、こうした日本側の対応を理解した上でのものかどうかは不明だ。また、日本の首脳たちに電話で「通貨を切り下げ続けることはできない」と伝えてきたというが、それがいつの話であるかも不明だ。トランプ発言を受けて、加藤財務大臣は即座に「日本は通貨安政策をとっていない」「先般の為替介入を見ればそれは理解できるだろう」と応じた。
 
トランプ大統領は不規則発言を繰り返しており、今回の発言についてもその真意は明らかでない面がある。ただし、米国からの輸入品に高い関税率を掛けている相手国に米国も高い関税率を掛ける「相互関税」導入を説明する際に、トランプ大統領は、相手国の為替政策も「非関税障壁」の一つと認識し、関税適用の根拠になると説明している。
 
円安を口実にしてトランプ大統領が日本を関税の対象とする可能性もある。いずれにせよ、今回の発言では、トランプ大統領が就任後に初めて日本を名指して関税の可能性に言及した点は見逃せない。
 
(参考資料)
「トランプ氏「日本は通貨安誘導」 関税の導入理由で言及」、2025年3月4日、日本経済新聞電子版

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。