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野党がガソリン税の暫定税率廃止法案を提出

2025年度予算案と税制改正案を巡って、自民・公明・維新は修正案の早期成立で合意した。これを受けて、3月4日に予算案は衆院で可決され、参院に送られた。
 
一方、立憲民主党と国民民主党は3日に、今年4月からガソリン税の暫定税率を廃止する法案を提出した。ガソリン税の暫定税率廃止については、自公国3党の幹事長が2024年12月に「103万円の壁」を2025年から引き上げて178万円を目指すのと同時に、ガソリン税の暫定税率の廃止でも合意していた。しかし、与党と国民民主党による「103万円の壁」対策を巡る協議は決裂し、ガソリンの暫定税率の廃止についても折り合うことはなかった。
 
そこで浮上したのが、立憲・維新・国民の3党による法案の提出だった。与党が過半数割れしている衆院では、立憲・維新・国民に加え、他の野党も賛成に回れば可決される可能性がでてくる。
 
しかし日本維新の会は、準備などの時間が足りず、現実的ではないとして、2025年度から暫定税率を廃止する法案の3党共同提出には応じなかった。そのうえで、日本維新の会は来年4月から廃止する法案を単独で衆院に提出した。このように、ガソリン税の暫定税率の廃止を巡る野党の足並みは揃っていない。

暫定税率廃止の時期は2026年4月が有力か

石破首相は、国民民主党と合意したガソリンの暫定税率廃止を履行する考えであるが、他方で、財源確保が実施の条件であることを強調している。暫定税率を廃止すれば、年間約1.5兆円の税収減となる。
 
石破首相は3日、「(暫定税率は)廃止することは決まっている。それでは代替の財源は何に求めるのか、地方の減収分をどのようにして手当てをするのかについて結論が出ないままに、いつ廃止するということは私どもとして申し上げることはできない」と述べている。
 
ただしそのうえで、ガソリン税の暫定税率の廃止を決める時期については、「今年12月をめどとするのは一つの見識」との考えを示した。2026年度の予算案、税制改正案を成立させるための野党との取引の一つにこの暫定税率の廃止を利用する狙いがあるのではないか。現時点では、2026年4月が暫定税率廃止の時期として有力と考えられる。

1リットル当たり25.1円の暫定税率

ガソリン税とは、ガソリンを中心とする揮発油に課される揮発油税と地方揮発油税の総称だ。本来の課税額(本則)は1リットル当たり28.7円(揮発油税24.3円、地方揮発油税4.4円)であるが、これに1リットル当たり25.1円の暫定税率が上乗せされ、合計で1リットル当たり53.8円のガソリン税が課されている。
 
ガソリン税は、以前は道路特定財源となる目的税だった。その際、道路財源の不足を理由に、本則に臨時に上乗せされたのが暫定税率だった。ガソリン税が道路特定財源ではなく一般財源となってからも、特例税率として上乗せ税率は残され、現在に至る。
 
欧州諸国と比較すると、日本の揮発油税率は概して低く、また、総額に対して課される従価税ではなく、量に課税される従量税であるため、ガソリン本体の価格が上昇する際にはガソリンの購入金額に占める税金の比率が低下し、消費者にとっては価格上昇の痛みが緩和される面がある。
 
ガソリンには、揮発油税以外に、1リットル2.8円の石油石炭税と10%の消費税が課されている。

暫定税率廃止で世帯当たりのガソリン購入負担は年間9,670円減少

現在、政府のガソリン補助金を含め、全国平均のレギュラーガソリンの価格は1リットル当たり184円程度だ。これを20リットル購入する場合、代金は3680円となる。このうち、1リットル当たり53.8円のガソリン税分が1,076円、1リットル当たり2.8円の石油石炭税分が56円、10%の消費税分が368円、そして税金を含まない本体部分が2,212円である。購入代金の40%が税金分となる計算だ。
 
1リットル当たり25.1円の暫定税率が廃止されると、1リットル当たり28.7円のガソリン税(本則)分が574円、1リットル当たり2.8円の石油石炭税分が56円、税金を含まない本体部分が2,212円で合計が2,842円となり、それに10%の消費税がかかって購入代金は3,126円となる。暫定税率が廃止によって、ガソリン20リットルを消費者は554円安く買うことができるようになる計算だ。
 
ところで、家計調査統計によると、2024年の1世帯(2人以上)当たりのガソリン消費額の平均値は7万887円だった。一方、現在のガソリン価格は全国平均レギュラーで、政府の補助金分を入れて1リットル184円程度である。このうち25.1円分の暫定税率が廃止されれば、ガソリン価格は1リットル159円程度へと約13.6%低下する。それは、世帯のガソリン購入費の負担を年間で9,670円分減らす計算となる。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。