&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

米国自動車メーカーの懸念に配慮して1か月の適用免除を決めた

トランプ米政権は3月4日に、メキシコ、カナダに25%の一律関税を課すことを決めたが、5日には、両国から輸入される自動車に限って、関税の適用を1か月免除すると発表した。ラトニック商務長官は、この措置は「(関税政策の)後退ではない」とし、4月2日に始まる相互関税までの時限的な措置であることを強調した。
 
政権当局者は4日にフォード・モーターとゼネラル・モーターズ(GM)、ステランティスのトップと会合し、この問題について協議したという。米国の自動車メーカーは、メキシコ、カナダで自動車を製造し、それを無関税で米国に輸入している。あるいはメキシコ、カナダで製造された部品を無関税で輸入し、それを用いて米国内で自動車を製造している。
 
両国からの輸入自動車・部品に関税がかかるとコストが高まり、他国から米国に輸入された自動車に対して競争力が低下することを米国の自動車メーカーは警戒している。
 
ホワイトハウスの報道官は、「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に準拠した自動車ならば、適用を1か月間除外する」と述べた。さらに報道官は、「相互関税は4月2日に発効するが、USMCAと関係のある企業からの要請を受け、大統領は1か月の猶予を与え、経済的な不利益が生じないよう配慮した」と説明した。USMCAのもとでは、完成車の価値の75%以上が北米由来であれば関税がゼロとなる。
 
日本やその他の国もメキシコ・カナダで自動車を製造し、米国に輸出しているが、これらにも1か月の関税適用免除が与えられるとみられる。

4月2日には自動車への25%関税、相互関税が発動

トランプ政権は4月2日に相互関税と自動車関税を同時に発動させるとみられる。自動車については一律25%になることをトランプ大統領は示唆している。他方、相互関税についてラトニック商務長官は、「即時発動もあれば、数週間後あるいは1~2か月後に発動されるものもある」として、品目や地域によって異なる対応になると説明している。
 
メキシコ、カナダからの自動車の関税についても4月2日に、他国からの自動車輸入と合わせて一律25%で発動されることが予想される。ただし、米国の自動車メーカーに対しては何らかの救済措置が講じられる可能性もあるのではないか。他方、日本の対米主力輸出品である自動車については、他国と同様に25%の関税が適用される可能性は引き続き排除できない。
 
ちなみにトランプ政権内では、メキシコ、カナダから輸入する一部農業製品について25%関税の適用除外が検討されている。米国の農業のコスト増に配慮して、肥料などが対象となる見込みだ。
 
トランプ政権は関税政策で、海外からの批判には全く耳を貸さないが、国内産業や消費者の意見には耳を傾ける。トランプ関税の拡大に歯止めをかけるのは、関税によるコスト高や製品物価高に対する国内企業や消費者の不満だろう。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。