金融政策は実質的に引き締め的でなくなりつつある
欧州中央銀行(ECB)は、6日の理事会で主要政策金利である預金金利を0.25%引き下げ2.5%とした。利下げは5会合連続であり、過去9か月間で6回目となる。この間、政策金利は合計で1.5%引き下げられた。
利下げの実施は予想されたことであったが、やや予想外であったのは、ECBが次回4月の理事会での利下げ停止の可能性を強く示唆したことだ。声明文では、「金融政策は実質的に引き締め的でなくなりつつある」とし、従来の「政策は引き締め的」という表現から変更した。これは、ECBの金融政策が、連続した利下げから様子見へと局面転換することを示唆していよう。
それにあわせてラガルド総裁は記者会見で、「利下げに向けた方向は明確である」とする従来の文言を繰り返すことを控えた。「金融政策は実質的に引き締め的でなくなってきている」との声明文の文言について、「これは単なる些細な変更ではなく、特定の意味を持つ変更だ」と述べ、その意味合いをしっかりと受け止めるように注意を促した。
「引き締め的」との文言の削除を求める意見と維持を求める意見が対立し、妥協策として「実質的に引き締め的でなくなりつつある」というあいまいな表現に落ち着いた、とする関係者の説明をロイター通信は紹介している。
さらにロイター通信社は、4月の次回会合で利下げを一時停止する案が現実的な選択肢として浮上した、との関係筋のコメントも紹介している。
利下げの実施は予想されたことであったが、やや予想外であったのは、ECBが次回4月の理事会での利下げ停止の可能性を強く示唆したことだ。声明文では、「金融政策は実質的に引き締め的でなくなりつつある」とし、従来の「政策は引き締め的」という表現から変更した。これは、ECBの金融政策が、連続した利下げから様子見へと局面転換することを示唆していよう。
それにあわせてラガルド総裁は記者会見で、「利下げに向けた方向は明確である」とする従来の文言を繰り返すことを控えた。「金融政策は実質的に引き締め的でなくなってきている」との声明文の文言について、「これは単なる些細な変更ではなく、特定の意味を持つ変更だ」と述べ、その意味合いをしっかりと受け止めるように注意を促した。
「引き締め的」との文言の削除を求める意見と維持を求める意見が対立し、妥協策として「実質的に引き締め的でなくなりつつある」というあいまいな表現に落ち着いた、とする関係者の説明をロイター通信は紹介している。
さらにロイター通信社は、4月の次回会合で利下げを一時停止する案が現実的な選択肢として浮上した、との関係筋のコメントも紹介している。
トランプ関税と防衛費拡大
このように、ECBが利下げの一時停止を検討し始めた背景には、ユーロ圏経済を取り巻く環境が足元で急速に変化していることがある。第1は、トランプ関税の影響だ。トランプ米大統領は、欧州連合(EU)に対して近いうちに追加関税を課す考えを示している。また、4月2日には、自動車関税、相互関税を発動することを警戒している。EUが関税の対象になる場合には、EUは米国に対して報復措置を講じる考えだ。
こうした関税措置は、欧州経済を大きく下振れさせ、金融市場を動揺させる可能性がある。それは、ECBの利下げを促す要因となり得るが、実際にどのような関税措置が講じられるかは不確実であり、現段階でECBはそれに反応することはできない。
他方で、トランプ政権がウクライナへの軍事支援を停止したことや、欧州での安全保障を巡って、トランプ政権がNATO諸国に一段の防衛費拡大を求めていることを受けて、ドイツは従来の財政規律ルールを修正して、軍事支出、インフラ支出を拡大する計画を打ち出した。欧州委員会も同様な計画を示している。
これらが実施されれば、ユーロ圏の景気及び物価の上振れリスクが生じ、ECBは利下げ見送り、場合によっては利上げの必要性さえ出てくる可能性がある。また財政が拡張路線へと転換する場合には、通貨の信認を維持する観点からも、ECBは引き締め方向へと金融政策を調整する必要が出てくる。
このように、金融政策を双方向に動かしうる2つの不確実性が高い地政学リスクにECBは直面しており、しばらくは身動きが取れない状況にあると言える。
金利先物市場はECBが4月には政策金利を据え置くとの見方を強めており、さらに「年内あと2回の追加利下げにとどまる」との見方を強めている。こうした観測の変化を受けて、ユーロの対ドルレートは足もとで大きく上昇しており、ドル円レートにはドル安円高の流れをもたらしている。
こうした関税措置は、欧州経済を大きく下振れさせ、金融市場を動揺させる可能性がある。それは、ECBの利下げを促す要因となり得るが、実際にどのような関税措置が講じられるかは不確実であり、現段階でECBはそれに反応することはできない。
他方で、トランプ政権がウクライナへの軍事支援を停止したことや、欧州での安全保障を巡って、トランプ政権がNATO諸国に一段の防衛費拡大を求めていることを受けて、ドイツは従来の財政規律ルールを修正して、軍事支出、インフラ支出を拡大する計画を打ち出した。欧州委員会も同様な計画を示している。
これらが実施されれば、ユーロ圏の景気及び物価の上振れリスクが生じ、ECBは利下げ見送り、場合によっては利上げの必要性さえ出てくる可能性がある。また財政が拡張路線へと転換する場合には、通貨の信認を維持する観点からも、ECBは引き締め方向へと金融政策を調整する必要が出てくる。
このように、金融政策を双方向に動かしうる2つの不確実性が高い地政学リスクにECBは直面しており、しばらくは身動きが取れない状況にあると言える。
金利先物市場はECBが4月には政策金利を据え置くとの見方を強めており、さらに「年内あと2回の追加利下げにとどまる」との見方を強めている。こうした観測の変化を受けて、ユーロの対ドルレートは足もとで大きく上昇しており、ドル円レートにはドル安円高の流れをもたらしている。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。