連邦職員の削減の影響が本格的に表れ始めるのは3月の雇用統計か
米労働省が7日に発表した2月分雇用統計は、全体的にはやや弱めの内容となり、足もとで燻ぶる米国景気の変調への懸念を幾分強めることとなった。2月の非農業雇用者数は前月比15万1,000人の増加となり、事前予想の約16万人増加をわずかに下回った程度であるが、前月分は14万3000人増から12万5000人増へと下方修正された。フルタイムでの雇用を望みながらもパートタイムの職に就いている労働者の数は、ほぼ4年ぶりの高水準に達した。また、家計調査の雇用者数は約60万人の大幅減少と、過去1年余りで最大の減少幅となっている。
2月の失業率は4.1%と、前月の4.0%から上昇した。事前予想の平均は4.0%だった。また、平均の時間当たり賃金は前月比+0.3%と、前月の+0.4%から増加率が鈍化した。
2月の雇用統計の最大の特徴は、連邦職員の減少だ。郵便局を除く連邦政府の雇用者数は、前月比6,700人の減少となった。トランプ政権ではイーロン・マスクが率いる政府効率化省(DOGE)が、連邦職員の削減を伴う政府の歳出削減を進めている。230万人程度とされる連邦職員のうち1割程度を削減する方針も示された。
雇用統計の事業所調査は12日を含む週に実施されるが、2月の当該週はトランプ政権による政府職員の解雇の大半が実施される前だった。そのため、連邦職員の削減の影響は、3月の雇用統計により大きく表れるとみられる。
2月の失業率は4.1%と、前月の4.0%から上昇した。事前予想の平均は4.0%だった。また、平均の時間当たり賃金は前月比+0.3%と、前月の+0.4%から増加率が鈍化した。
2月の雇用統計の最大の特徴は、連邦職員の減少だ。郵便局を除く連邦政府の雇用者数は、前月比6,700人の減少となった。トランプ政権ではイーロン・マスクが率いる政府効率化省(DOGE)が、連邦職員の削減を伴う政府の歳出削減を進めている。230万人程度とされる連邦職員のうち1割程度を削減する方針も示された。
雇用統計の事業所調査は12日を含む週に実施されるが、2月の当該週はトランプ政権による政府職員の解雇の大半が実施される前だった。そのため、連邦職員の削減の影響は、3月の雇用統計により大きく表れるとみられる。
ドル円レートは一時146円台をつける
トランプ政権が進める連邦職員の削減、移民の規制強化に加えて、追加関税が米国経済に与える悪影響が懸念されている。それを反映して、2月分の企業や消費者の景況感を示す経済指標では、予想外の悪化が見られている。こうしたソフトデータの悪化が雇用統計などハードデータの悪化に波及するかどうかは大きな注目点であるが、それが確認できるのは、やはり3月以降の雇用統計だろう。このように今回の雇用統計は、やや弱めの内容となったが、3月以降はもっと下振れし、米国経済の変調を示すとの懸念が高まっている。
雇用統計を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が強まった。金融市場は、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBは利下げを再開し、年内には0.25%の利下げを合計で3回程度行う確率を織り込んだ。利下げ期待の高まりはドル円レートの下落をもたらし、円は一時146円台を付けた。
しかし米国市場の終値は、1ドル148円程度までドルは戻している。米国経済の悲観論を和らげ、ドルの持ち直しに寄与したのは、雇用統計発表後のFRBパウエル議長の講演だった。
雇用統計を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が強まった。金融市場は、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBは利下げを再開し、年内には0.25%の利下げを合計で3回程度行う確率を織り込んだ。利下げ期待の高まりはドル円レートの下落をもたらし、円は一時146円台を付けた。
しかし米国市場の終値は、1ドル148円程度までドルは戻している。米国経済の悲観論を和らげ、ドルの持ち直しに寄与したのは、雇用統計発表後のFRBパウエル議長の講演だった。
利下げを急ぐつもりはない
パウエル議長はニューヨークで開かれたシカゴ大学の経済フォーラムでの演説で、トランプ政権の政策が経済にどのような影響を与えるかがより明確になるまでは利下げを急ぐつもりはない、との見解を示したのである。
パウエル議長は、「新政権は貿易、移民、財政政策、規制という4つの異なる分野で重要な政策変更を実施している。変更とその影響をめぐる不確実性は依然として高い」と指摘した。その上で、「FRBは見通しが変化するにつれて、シグナルとノイズを区別することに焦点を当てている。急ぐ必要はない。より明確な見通しが出てくるまで待つ態勢が整っている」と述べた。
経済については、足もとの経済指標は消費者支出の減速の可能性や企業の経済見通しに関する不確実性の高まりも示唆している。「こうした動きが将来の支出や投資にどのような影響を与えるかはまだ分からない」とした。他方で、経済は「引き続き好調」とし、2月の雇用統計の結果も踏まえて、「雇用も引き続き増加している」と述べたのである。こうした議長の発言が、雇用統計を受けてやや高まった先行きの景気への不安を一時的に和らげ、長期金利の上昇、ドルの持ち直しを助けた。
パウエル議長は、「新政権は貿易、移民、財政政策、規制という4つの異なる分野で重要な政策変更を実施している。変更とその影響をめぐる不確実性は依然として高い」と指摘した。その上で、「FRBは見通しが変化するにつれて、シグナルとノイズを区別することに焦点を当てている。急ぐ必要はない。より明確な見通しが出てくるまで待つ態勢が整っている」と述べた。
経済については、足もとの経済指標は消費者支出の減速の可能性や企業の経済見通しに関する不確実性の高まりも示唆している。「こうした動きが将来の支出や投資にどのような影響を与えるかはまだ分からない」とした。他方で、経済は「引き続き好調」とし、2月の雇用統計の結果も踏まえて、「雇用も引き続き増加している」と述べたのである。こうした議長の発言が、雇用統計を受けてやや高まった先行きの景気への不安を一時的に和らげ、長期金利の上昇、ドルの持ち直しを助けた。
関税による物価への影響で政府とFRBの意見は分かれる
トランプ関税は、米国には物価高と景気悪化の双方の影響を生じさせる。いわゆるスタグフレーション的な影響だ。当初は、物価への影響がより注目され、金融市場ではFRBの利下げ観測の後退と長期金利上昇、ドル高につながった。トランプトレードである。しかし足元では、関税による物価高は一時的として、物価よりも景気への影響の方がより注目されるようになり、トランプ関税の拡大が景気減速懸念とFRBの利下げ観測を強めて、長期金利の低下とドル安を生じさせている。いわゆるトランプトレードの巻き戻しである。
関税がもたらす物価への影響が一時的であるか否かは、今後の金融政策を占う上で極めて重要だ。ベッセント米財務長官は6日に、関税は一時的な価格上昇を引き起こすかもしれないが、永続的なインフレにはならないと主張した。「一度限りの価格調整という点では、関税ほど一時的なものはない。インフレについては心配していない」と述べている。
これに対してパウエル議長は今回の講演で、「関税による一時的な物価上昇に対しては、金融政策による対応はしないというのが標準的な考えだが、今回は状況が異なる可能性がある」と指摘した。「大幅な物価上昇につながれば問題となり、長期インフレ期待にどう影響するかが実際に問題となってくる」と警戒的な発言をしている。
関税の物価への影響をどのように理解するかを巡って、今後、金融緩和を望むトランプ政権とFRBとの間で対立が強まる可能性があるだろう。
一時的な物価上昇が中長期のインフレ期待を高めることで、より持続的な物価上昇率の上振れにつながることを警戒するのは、中央銀行の常識であるが、関税の影響については一時的な性格が強く、最終的には経済への悪影響が残ると筆者は考える。従って、トランプ関税の拡大はFRBの利下げを促すことになると考える。ただし、FRBがそうした方針を固めるまでにはまだ時間がかかるだろう。
(参考資料)
「トランプ政権の政策の影響明確化まで待つ余裕ある=FRB議長」、2025年3月7日、ロイター
「米雇用者数は堅調ペース維持も失業率は上昇、労働市場の軟化示唆」、2025年3月7日、ロイター
関税がもたらす物価への影響が一時的であるか否かは、今後の金融政策を占う上で極めて重要だ。ベッセント米財務長官は6日に、関税は一時的な価格上昇を引き起こすかもしれないが、永続的なインフレにはならないと主張した。「一度限りの価格調整という点では、関税ほど一時的なものはない。インフレについては心配していない」と述べている。
これに対してパウエル議長は今回の講演で、「関税による一時的な物価上昇に対しては、金融政策による対応はしないというのが標準的な考えだが、今回は状況が異なる可能性がある」と指摘した。「大幅な物価上昇につながれば問題となり、長期インフレ期待にどう影響するかが実際に問題となってくる」と警戒的な発言をしている。
関税の物価への影響をどのように理解するかを巡って、今後、金融緩和を望むトランプ政権とFRBとの間で対立が強まる可能性があるだろう。
一時的な物価上昇が中長期のインフレ期待を高めることで、より持続的な物価上昇率の上振れにつながることを警戒するのは、中央銀行の常識であるが、関税の影響については一時的な性格が強く、最終的には経済への悪影響が残ると筆者は考える。従って、トランプ関税の拡大はFRBの利下げを促すことになると考える。ただし、FRBがそうした方針を固めるまでにはまだ時間がかかるだろう。
(参考資料)
「トランプ政権の政策の影響明確化まで待つ余裕ある=FRB議長」、2025年3月7日、ロイター
「米雇用者数は堅調ペース維持も失業率は上昇、労働市場の軟化示唆」、2025年3月7日、ロイター
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。