暗号資産の戦略備蓄に向けた大統領令
トランプ大統領は大統領選期間中から「米国を暗号資産の首都にする」と表明し、政府備蓄の考えを示すなど、暗号資産を支援する考えを表明してきた。こうした姿勢はビットコインなど暗号資産の価格を大きく押し上げたが、その後は具体策がなかなか打ち出されないことから、市場の期待は次第に後退してきている。
6日の米政府の仮想通貨備蓄に向けた大統領令署名や7日のトランプ政権による「暗号資産(仮想通貨)サミット」も、暗号資産市場のセンチメントを好転させることはなく、市場は軟調な動きを続けている。
トランプ大統領は6日に暗号資産の戦略備蓄に向けた大統領令に署名した。ホワイトハウスの暗号資産責任者、デビッド・サックス氏はXでその内容を説明している。
政府備蓄は、ビットコインの備蓄とそれ以外の暗号資産からなる「米国デジタル資産備蓄」の2つに分けられる。トランプ大統領が2日に言及したイーサリアム、リップル(XRP)、ソラナ、カルダノが政府備蓄の対象になるビットコイン以外の暗号資産と考えられる。政府は、刑事または民事の資産没収手続きの一環として没収したこれらの暗号資産を保有しているが、サックス氏は「没収手続きによって入手されたものを超えて」備蓄に追加することはないという。トランプ大統領が2日に言及したこれら暗号資産を、政府は備蓄のために買い増すとの期待が市場に一時広がったが、そうした期待は失望に変わった。
6日の米政府の仮想通貨備蓄に向けた大統領令署名や7日のトランプ政権による「暗号資産(仮想通貨)サミット」も、暗号資産市場のセンチメントを好転させることはなく、市場は軟調な動きを続けている。
トランプ大統領は6日に暗号資産の戦略備蓄に向けた大統領令に署名した。ホワイトハウスの暗号資産責任者、デビッド・サックス氏はXでその内容を説明している。
政府備蓄は、ビットコインの備蓄とそれ以外の暗号資産からなる「米国デジタル資産備蓄」の2つに分けられる。トランプ大統領が2日に言及したイーサリアム、リップル(XRP)、ソラナ、カルダノが政府備蓄の対象になるビットコイン以外の暗号資産と考えられる。政府は、刑事または民事の資産没収手続きの一環として没収したこれらの暗号資産を保有しているが、サックス氏は「没収手続きによって入手されたものを超えて」備蓄に追加することはないという。トランプ大統領が2日に言及したこれら暗号資産を、政府は備蓄のために買い増すとの期待が市場に一時広がったが、そうした期待は失望に変わった。
依然不明確なビットコインの政府備蓄のスキーム
他方、暗号資産の中でもビットコインは別の扱いとなり、政府がすでに保有する没収分を超えて買い増すことになる。サックス氏は「戦略準備として保有するビットコインは売却せず、保管される。ビットコイン版フォートノックス(米政府の金の保管庫)のようなものだ」と説明している。
ただし、ビットコインの政府備蓄については、依然としてその具体策は不明だ。大統領令は、財務省と商務省の長官に対し、納税者のコストにならない形でビットコインを追加取得するための「予算中立的な戦略」を策定するよう指示している。こうした大統領令の内容は、政府が価格変動の激しい暗号資産を保有することでそれが納税者の負担につながる、との批判が議会などで生じていることをうかがわせるものだ。
一般に政府は、エネルギー安全保障の観点から石油を備蓄し、また対外債務返済など国際決済の安定を確保するために外貨準備を保有するが、いずれも国益に沿うものだ。それらと比べると、暗号資産の政府備蓄の目的は明確でない。反対意見が出るのも当然だろう。
大統領令が「納税者のコストにならない形でビットコインを追加取得するための『予算中立的な戦略』を策定する」としていることから、連邦政府の歳入で新たにビットコインを購入することにはならないだろう。既に政府が保有する資産を入れ替える形で、ビットコインの政府備蓄を積み増す可能性が考えられる。例えば、外貨準備として保有する外貨や金の一部をビットコインに入れ替えることが考えられるが、いずれにしても、具体的なスキームは分からない。
ホワイトハウスで7日、暗号資産(仮想通貨)の振興策を話し合う「暗号資産サミット」が開催され、そこで具体策が示されるとの期待もあったが、実際にはそれも期待外れに終わったようだ。
ただし、ビットコインの政府備蓄については、依然としてその具体策は不明だ。大統領令は、財務省と商務省の長官に対し、納税者のコストにならない形でビットコインを追加取得するための「予算中立的な戦略」を策定するよう指示している。こうした大統領令の内容は、政府が価格変動の激しい暗号資産を保有することでそれが納税者の負担につながる、との批判が議会などで生じていることをうかがわせるものだ。
一般に政府は、エネルギー安全保障の観点から石油を備蓄し、また対外債務返済など国際決済の安定を確保するために外貨準備を保有するが、いずれも国益に沿うものだ。それらと比べると、暗号資産の政府備蓄の目的は明確でない。反対意見が出るのも当然だろう。
大統領令が「納税者のコストにならない形でビットコインを追加取得するための『予算中立的な戦略』を策定する」としていることから、連邦政府の歳入で新たにビットコインを購入することにはならないだろう。既に政府が保有する資産を入れ替える形で、ビットコインの政府備蓄を積み増す可能性が考えられる。例えば、外貨準備として保有する外貨や金の一部をビットコインに入れ替えることが考えられるが、いずれにしても、具体的なスキームは分からない。
ホワイトハウスで7日、暗号資産(仮想通貨)の振興策を話し合う「暗号資産サミット」が開催され、そこで具体策が示されるとの期待もあったが、実際にはそれも期待外れに終わったようだ。
新たに「ステーブルコイン」の支援を打ち出す
他方、「暗号資産サミット」でトランプ大統領は、米ドルに連動して価値を安定させるデジタル通貨「ステーブルコイン」の支援に前向きな姿勢を新たに示した。暗号資産の規制に関する取り組みとともに「8月の議会休会前に、私に法案を送付することを願っている」と話した。また、会合に出席したベッセント財務長官はステーブルコインについて、「制度を十分に検討する。米ドルを世界の主要な準備通貨として維持し、そのために活用する」と強調した。
ベッセント財務長官の発言は、トランプ政権がデジタルの法定通貨である「中銀デジタル通貨(CBDC)」の創設を検討しているかのような印象を与える。仮にそうであれば、これは世界の国際決済制度、通貨・決済制度の覇権などに大きな影響を与えうる重要なイベントとなる。ただし米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)がCBDCの創設には否定的な姿勢を続けているなど、実現の可能性は不確実だ。
あるいは、トランプ大統領は、既に民間で使われ、分散型金融(Defi)の分野では更なる成長が見込まれる民間ステーブルコインを支援することを意味しているのかもしれない。そうであれば、大きく打ち上げたビットコイン支援策の行き詰まりを覆い隠す狙いである可能性も考えられるところだ。
いずれにせよ、大統領選挙中の資金集めとして始めたトランプ大統領の暗号資産支援策は、その狙いや具体的なスキームを含めて依然として不明確なままであり、議論は迷走している感が強い。
(参考資料)
「トランプ氏、ビットコイン戦略備蓄へ大統領令に署名」、2025年3月7日、ロイター通信ニュース
「米ドル連動デジタル通貨に前向き―トランプ氏「強く支持する」」、2025年3月8日、共同通信ニュース
ベッセント財務長官の発言は、トランプ政権がデジタルの法定通貨である「中銀デジタル通貨(CBDC)」の創設を検討しているかのような印象を与える。仮にそうであれば、これは世界の国際決済制度、通貨・決済制度の覇権などに大きな影響を与えうる重要なイベントとなる。ただし米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)がCBDCの創設には否定的な姿勢を続けているなど、実現の可能性は不確実だ。
あるいは、トランプ大統領は、既に民間で使われ、分散型金融(Defi)の分野では更なる成長が見込まれる民間ステーブルコインを支援することを意味しているのかもしれない。そうであれば、大きく打ち上げたビットコイン支援策の行き詰まりを覆い隠す狙いである可能性も考えられるところだ。
いずれにせよ、大統領選挙中の資金集めとして始めたトランプ大統領の暗号資産支援策は、その狙いや具体的なスキームを含めて依然として不明確なままであり、議論は迷走している感が強い。
(参考資料)
「トランプ氏、ビットコイン戦略備蓄へ大統領令に署名」、2025年3月7日、ロイター通信ニュース
「米ドル連動デジタル通貨に前向き―トランプ氏「強く支持する」」、2025年3月8日、共同通信ニュース
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。