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3月ミシガン大消費者信頼感指数は2か月連続で大幅悪化

3月14日に発表された3月米ミシガン大消費者信頼感指数は、2月に続いて悪化した。しかも、事前予想を大きく下回った。
 
ミシガン大学の3月の消費者信頼感指数(速報値)は57.9と、2月の64.7から低下し、市場の事前予想の63.2を大幅に下回った。同指数の低下は3か月連続であり、2022年11月以来の低水準となった。また消費者が予想する1年先のインフレ率は4.9%と2月の4.3%から大きく上昇した。これは2022年終り以来の高水準である。
 
1月20日に発足したトランプ政権が相次ぎ関税策を打ち出したことで、米国内では関税による物価上昇懸念が高まり、2月の消費者心理は一気に悪化した。その流れが3月も続いていることが、今回確認された。現状では経済の悪化の兆候は概ねソフトデータにとどまっているが、それがハードデータに波及すれば、金融市場の米国景気悪化懸念がさらに強まることになるだろう。
 
2月分雇用統計のように、マクロのハードデータは成長鈍化の兆しは示しているものの、消費者心理ほどの悪化には至っていない。一方、企業のデータには既に変調の兆しが表れている。

低所得層から高額所得層まで広がる消費抑制

米小売大手のウォルマートのダグ・マクミロンCEO(最高経営責任者)は、所得環境が厳しい顧客は節約を強いられている、と述べている。低所得層の顧客は、生活資金を使い果たしてしまい、月末になると少量パックの商品を購入する傾向があるという。
 
ファストフードチェーン大手のマクドナルドは、同業界が今年は「低調なスタート」を切っているとし、低所得層の消費者による需要低迷を指摘している。マクドナルドによると、2024年10-12月期の米ファストフード業界全体の低所得層の来店客による売上高は、前年同期比で2桁のマイナスにまで達したという。
 
ディスカウント小売り大手ダラー・ゼネラルは、顧客は生活必需品を購入する以外には金銭的余裕がないとしており、その必需品でさえ犠牲にしている顧客もいる、と述べている。また、政府の歳出抑制によって政府のフードスタンプ(低所得者向けの食料費補助)の予算が削減されれば、自社の売上にさらに大きな打撃になるとの見通しを示している。
 
一方、高所得層にも消費を控える傾向が広がっている。大手米銀のシティが自社のクレジットカード取引データを分析したところ、高級百貨店やネット通販を含む米消費者の高級品市場での支出は2月に前年同月比9.3%減少し、1月の同5.9%減から一段と悪化したという。
 
高所得層には旅行を控える傾向も見られる。航空大手のデルタ航空やアメリカン航空、格安航空のジェットブルーは、1-3月期の業績予想をいずれも下方修正した。デルタ航空のエド・バスティアンCEOは「経済センチメントに何かが起きている、消費者信頼感に何かが起きている」と述べている。

景況感の悪化、株価下落、国民の支持率低下がトランプ政策を修正させるか

このように、低所得層から高所得層に至るまで、個人消費を抑制する傾向が企業データには既に表れている。トランプ大統領は、物価上昇はバイデン前政権のレガシーであるとし、また、関税による物価上昇は一時的なものであるとして、個人の景況感悪化が政権批判につながらないようにしている。
 
しかし、今後、マクロのハードデータにも景気情勢悪化の兆候が広がり、それを受けて株価が大きく下落する、あるいは政権への支持率が顕著に低下するようになれば、来年の中間選挙もにらんで、関税、連邦職員削減を伴う歳出削減、移民規制強化など短期的に景気を悪化させる政策を見直すようになる可能性も出てくるだろう。
 
(参考資料)
“Consumer Angst Is Striking All Income Levels(米消費者の不安、全所得層に広がる)”, Wall Street Journal, March 14, 2025

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。