米トランプ政権による関税策などへの反発から、先進各国で米国製品の不買運動が広がりを見せている。隣国カナダでは、鉄鋼、アルミニウムの25%関税の対象、そして一律関税の対象となったことへの反発に加え、トランプ大統領がカナダに対して「米国の51番目の州になれ」と発言したことに対する強い憤りが、不買運動の背景にある。カナダの消費者は、食料品などの小売品購入に際して、「カナダ製品を買おう」という呼びかけに応えている。また、トルドー前首相はカナダ国民に対して、休暇の予定を変更し、国内の観光地の訪問に重点を置くよう呼びかけた。その影響もあり、カナダの国民は米国への旅行を急速に減らしている。
カナダ人は長らく、米国を訪れる外国人旅行者数のランキングで1位であった。しかし、カナダ統計局の2月の速報値によると、空路で米国に往復旅行したカナダ居住者は前年同月比13%減少した。また、陸路で米国に往復旅行したカナダ居住者も同23%減となったという。
欧州でも、米国製品の不買運動が広がっている。SNSでは、米国製品ではなく欧州の製品を買う動きが、食品、飲料などを中心に呼びかけられている。独経済紙のハンデルスブラットが3月上旬に行った委託調査によると、米国製品の購入を「絶対に避ける」と回答したドイツ人は56%にも達したという。
フランスでは、フランスがかつて米国に寄贈した米ニューヨークの自由の女神像の返還を要求する政治家も出ている。フランス選出の欧州連合(EU)欧州議会議員ラファエル・グリュックスマン氏は、「トランプ政権下の米国は、寄贈した際の価値観をもはや体現していない」としている。
トランプ大統領がデンマークの自治領グリーンランドの獲得意欲を示しているなか、デンマークでも米国に対する反発が強くなっており、不買運動が広がっている。デンマークにある1,400か所以上のスーパーでは、3月上旬から欧州製品の値札に星マークをつけるようにし、欧州製品の購入を誘導している。
食品、飲料以外で、欧州地域での不買運動の影響が大きく出ているのが米大手EVのテスラだ。テスラのイーロン・マスク氏はトランプ政権入りし、欧州の政治にも強く介入していることが欧州地域で反発を呼んでいる。欧州主要31か国でのテスラ車の1~2月販売は、前年同期比で43%も減少した。
減少傾向が最も強いのがドイツだ。ドイツでの同時期のテスラ車の販売は、前年同月比71%減少した。マスク氏が極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」支持を明確に打ち出したことなどから、特にドイツではマスク氏への反発が強い。また、ドイツのベルリンでは、路上に止めていたテスラ車が放火される事件が起こっている。
オーストラリアでも米国製品の不買運動が起こっている。当初トランプ政権は、米国にとって貿易黒字国であるオーストラリアには、鉄鋼、アルミニウムの関税を掛けない可能性も示唆していたが、実際には3月12日に、他国と同様に25%の関税を発動させたことが反発を招いている。
オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相は、「私たちにできることは、オーストラリア製品を買うことだ」と述べた。また、「ソフトドリンクは、アメリカ製品ではなくバンディー(オーストラリア製の炭酸飲料)を買えばいい」と、国産品の購入を呼びかけている。
このように、トランプ政権の関税政策、その他の「米国第一主義」に基づく各種施策は、カナダ、欧州、オーストラリアなど主要先進国で、米国製品の不買運動を生じさせている。
米国が主要先進国に対しても追加関税を発動し、それに対してEU、カナダなどが報復関税で応じ、さらに自国では米国製品の不買運動を展開している。バイデン前政権は、先進国・民主主義国と中国・ロシアなど権威主義国との間の市場の分断化を進めた。これに加え、トランプ政権の下では、先進国内でも市場の分断化が広がってきており、世界の自由貿易はまさに危機に直面している。
(参考資料)
“Canadians Are Boycotting American Vacations(トランプ氏「併合」発言、カナダ人の米旅行ボイコットに発展)”, Wall Street Journal, March 26, 2025
「欧州で米国製の不買広がる テスラ販売4割減、食品も」、2025年3月26日、日本経済新聞電子版
「仏で強まる「反トランプ」 「自由の女神」返還要求も」、2025年3月22日、東京新聞夕刊
「「オーストラリア製品を買おう!」 トランプ関税逆手に、首相が国民に呼びかけ」、2025年3月15日、日豪プレス
カナダ人は長らく、米国を訪れる外国人旅行者数のランキングで1位であった。しかし、カナダ統計局の2月の速報値によると、空路で米国に往復旅行したカナダ居住者は前年同月比13%減少した。また、陸路で米国に往復旅行したカナダ居住者も同23%減となったという。
欧州でも、米国製品の不買運動が広がっている。SNSでは、米国製品ではなく欧州の製品を買う動きが、食品、飲料などを中心に呼びかけられている。独経済紙のハンデルスブラットが3月上旬に行った委託調査によると、米国製品の購入を「絶対に避ける」と回答したドイツ人は56%にも達したという。
フランスでは、フランスがかつて米国に寄贈した米ニューヨークの自由の女神像の返還を要求する政治家も出ている。フランス選出の欧州連合(EU)欧州議会議員ラファエル・グリュックスマン氏は、「トランプ政権下の米国は、寄贈した際の価値観をもはや体現していない」としている。
トランプ大統領がデンマークの自治領グリーンランドの獲得意欲を示しているなか、デンマークでも米国に対する反発が強くなっており、不買運動が広がっている。デンマークにある1,400か所以上のスーパーでは、3月上旬から欧州製品の値札に星マークをつけるようにし、欧州製品の購入を誘導している。
食品、飲料以外で、欧州地域での不買運動の影響が大きく出ているのが米大手EVのテスラだ。テスラのイーロン・マスク氏はトランプ政権入りし、欧州の政治にも強く介入していることが欧州地域で反発を呼んでいる。欧州主要31か国でのテスラ車の1~2月販売は、前年同期比で43%も減少した。
減少傾向が最も強いのがドイツだ。ドイツでの同時期のテスラ車の販売は、前年同月比71%減少した。マスク氏が極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」支持を明確に打ち出したことなどから、特にドイツではマスク氏への反発が強い。また、ドイツのベルリンでは、路上に止めていたテスラ車が放火される事件が起こっている。
オーストラリアでも米国製品の不買運動が起こっている。当初トランプ政権は、米国にとって貿易黒字国であるオーストラリアには、鉄鋼、アルミニウムの関税を掛けない可能性も示唆していたが、実際には3月12日に、他国と同様に25%の関税を発動させたことが反発を招いている。
オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相は、「私たちにできることは、オーストラリア製品を買うことだ」と述べた。また、「ソフトドリンクは、アメリカ製品ではなくバンディー(オーストラリア製の炭酸飲料)を買えばいい」と、国産品の購入を呼びかけている。
このように、トランプ政権の関税政策、その他の「米国第一主義」に基づく各種施策は、カナダ、欧州、オーストラリアなど主要先進国で、米国製品の不買運動を生じさせている。
米国が主要先進国に対しても追加関税を発動し、それに対してEU、カナダなどが報復関税で応じ、さらに自国では米国製品の不買運動を展開している。バイデン前政権は、先進国・民主主義国と中国・ロシアなど権威主義国との間の市場の分断化を進めた。これに加え、トランプ政権の下では、先進国内でも市場の分断化が広がってきており、世界の自由貿易はまさに危機に直面している。
(参考資料)
“Canadians Are Boycotting American Vacations(トランプ氏「併合」発言、カナダ人の米旅行ボイコットに発展)”, Wall Street Journal, March 26, 2025
「欧州で米国製の不買広がる テスラ販売4割減、食品も」、2025年3月26日、日本経済新聞電子版
「仏で強まる「反トランプ」 「自由の女神」返還要求も」、2025年3月22日、東京新聞夕刊
「「オーストラリア製品を買おう!」 トランプ関税逆手に、首相が国民に呼びかけ」、2025年3月15日、日豪プレス
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。