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3月31日に来年度予算は成立へ

2025年度予算案は、年度末の3月31日に成立することがほぼ確実になった。ただしそこに至るプロセスはまさに綱渡り的であり、かなり異例だ。31日には参院の予算委員会と本会議で予算の再修正案が可決され、同日中に衆院本会議で再議決される見込みだ。参院で修正された予算案が衆院の同意を得て成立するのは、現憲法下では初めてのことだ。
 
参院では与党が過半数の議席を占めているが、立憲民主党の賛成も得て修正予算案は可決される見込みだ。そもそも、参院での予算の再修正は、立憲民主党が求めた高額療養費の自己負担上限額引き上げの全面凍結を与党が受け入れたものである。さらに、立憲民主党は、自民党旧安倍派の幹部だった世耕弘成前参院幹事長の参考人招致と予算成立後の集中審議の開催を条件に、参院での予算の再修正案の採決を受け入れた。
 
さらに衆院では、日本維新の会が高校授業料無償化を求めたことを与党が受け入れたことで予算が修正された。こうした経緯から、参院での予算再修正案は、日本維新の会の協力を得て衆院で可決され成立する。

予算の年度内成立は国内経済にはプラス

衆院で少数野党政権であるなか、政府・与党は、困難を伴う年度内の予算成立を最優先の政策課題と位置づけてきた。実際それが実現されれば、予算執行の遅れが生じず、民間経済活動の不確実性を高めることが回避できる。この観点から、内外双方の要因から下方リスクを高めている現在の国内経済にとっては朗報である。
 
しかし年度内の予算成立と引き換えに、政府・与党は、野党の意見を相当程度受け入れることを強いられた。
 
日本維新の会が求めた高校授業料の無償化で、歳出に1,064億円を追加計上した。2025年度から所得制限を撤廃して、国公私立を問わず全世帯に年間11万8,800円の支援金を支給する。
 
また、「年収103万円の壁」対策では、国民民主党が求めた所得制限なしでの178万円までの課税最低限引き上げについては政府、与党は受け入れなかったものの、その主張に歩み寄って、課税最低額を160万円へ引き上げた。その結果、当初予算案の歳入は、6,210億円減額修正された。
 
また参院では、立憲民主党の求めに応じて、高額療養費の自己負担上限額の引き上げについて全面凍結する内容を予算案に盛り込んだ。一般会計総額は変えずに一般予備費を減らして105億円が捻出された。

国民の多様な意見が反映されるプラス面と財政健全化が後退するマイナス面

従来のように、衆院、参院の双方で議席の過半数を占める与党・政府が作成した予算案が修正なく可決、成立されるのではなく、野党の意見も予算案に取り込まれ、国民の多様な意見をより反映する予算になったという側面は望ましいことだ。
 
しかし、野党側も参院選挙などを意識して、自らの主張を無理に受け入れさせようと与党に揺さぶりをかけ、審議を混乱させた面もあったのではないか。さらに、結果的に、財政の健全性への配慮が後退し、財政拡張的傾向を強めたことには課題を残したのではないか。

新たな連立の組み直しは経済政策と金融市場に大きな影響を与える

今回の予算審議は、政府、与党にとっては非常に厳しいものだった。7月の参院選挙で与党への国民の支持が高まれば、その後の国会運営は多少円滑になることも期待される。しかしその可能性は低く、参院選では与党は苦戦を強いられるだろう。参院でも与党が過半数の議席を失う可能性もあり、そうなれば、少数与党の政権運営は行き詰まることになる。
 
その際には、野党の一部を連立に取り込む政権の枠組み修正が模索される可能性が出てくる。これは、今後の経済政策運営に大きな影響を与えるだろう。
 
例えば国民民主党を連立に取り込む場合には、財政政策、金融政策はその意見を反映してより拡張的、緩和的になりやすい。それは、金融市場では長期金利の上昇と円安進行のリスクを高めるだろう。
 
日本維新の会を連立に受け入れる場合には、国民民主党ほどではないとしても、経済政策はリベラル色をより強め、財政政策、金融政策はその意見を反映してより拡張的、緩和的となり、やはり長期金利の上昇と円安進行のリスクを高めるだろう。
 
他方、衆院で野党第1党の立憲民主党を連立政権に取り込む、いわゆる「大連立」となる場合には、事態は大きく異なるだろう。経済政策面で自民党と立憲民主党の姿勢には親和性があり、財政政策、金融政策は現時点よりもやや引き締め色を強めることになるのではないか。つまり、財政の健全化を重視する姿勢が強まり、金融政策の正常化を政府が容認する姿勢が強まるだろう。実際、立憲民主党は、日本銀行の金融政策正常化を支持している。その結果、為替市場では円安修正が進みやすくなることが予想される。
 
このように、7月の参院選後に生じる可能性がある連立政権の枠組み修正は、その後の経済政策と金融市場に大きな転換点をもたらす可能性がある。
 
(参考資料)
「来年度予算案、31日成立へ 維新も再修正案に賛成」、2025年3月29日、日本経済新聞

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。