株価急落はトランプ関税策の修正を促す催促相場
4日の米国市場で、ダウ平均株価は前日比2,232ドルの低下と、過去3番目の大幅下落を記録した。米国が中国に課すことを決めた34%の相互関税に対して、同率の報復関税などの報復措置を中国が打ち出したことが引き金の一つとなった。トランプ大統領は以前より、報復関税に対してはさらなる高い関税率で対抗する考えを示している。株式市場は、米国と他国とが報復関税を掛け合う貿易戦争の様相が強まり、世界経済が大きな打撃を受けることを懸念している。
7日の東京市場では、日経平均株価の3万3,000円割れの可能性もあり、週内にも3万円割れが意識される展開となる可能性もある。
こうした大幅な株価下落は、トランプ関税がもたらす米国及び各国経済への悪影響を反映しているものであるが、トランプ関税策に「NO」を突きつけ、その修正を促すものでもあるだろう。いわゆる催促相場である。
7日の東京市場では、日経平均株価の3万3,000円割れの可能性もあり、週内にも3万円割れが意識される展開となる可能性もある。
こうした大幅な株価下落は、トランプ関税がもたらす米国及び各国経済への悪影響を反映しているものであるが、トランプ関税策に「NO」を突きつけ、その修正を促すものでもあるだろう。いわゆる催促相場である。
トランプ関税策見直しは半年から1年先か:株価下落によって前倒しされる可能性も
しかしトランプ大統領は4日には、「政策は変えない」と断言している。またその前日には、関税策について相手国と交渉の余地があるかとの問いに答えて、「驚くような提案があれば」としている。対米黒字を劇的に減らすような施策を提案しなければ、主要国に対してトランプ大統領が関税率を引き下げることは当面考えにくい。
他方、関税がもたらす物価高、景気減速への懸念から、米国国民は今後、トランプ関税への批判を強めていくことが考えられる。5日にもトランプ政権に対する抗議デモが米国各地に広がった。来年11月の中間選挙への影響を考えれば、トランプ大統領もいずれこうした国民の批判を無視できなくなるだろう。
実際に中間選挙への影響を踏まえてトランプ大統領が関税策の見直しを実施するのは、半年から1年先になると考えておきたい。ただし、株価の大幅下落など金融市場の動揺が続く場合には、それに突き動かされて、関税策の見直しを前倒しする可能性が出てくるだろう。
他方、関税がもたらす物価高、景気減速への懸念から、米国国民は今後、トランプ関税への批判を強めていくことが考えられる。5日にもトランプ政権に対する抗議デモが米国各地に広がった。来年11月の中間選挙への影響を考えれば、トランプ大統領もいずれこうした国民の批判を無視できなくなるだろう。
実際に中間選挙への影響を踏まえてトランプ大統領が関税策の見直しを実施するのは、半年から1年先になると考えておきたい。ただし、株価の大幅下落など金融市場の動揺が続く場合には、それに突き動かされて、関税策の見直しを前倒しする可能性が出てくるだろう。
トランプ大統領はFRBの利下げを促す
トランプ大統領の関税策見直しがすぐには実施されないとすれば、株式市場が安定を取り戻すきっかけとなり得るのは、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ再開だろう。金融市場が動揺すると、常に、FRBの金融緩和による事態の収拾への期待が浮上する。いわゆる「FRBプット」である。
またトランプ大統領は4日、FRBに対して「今が利下げの好機」と発言し、利下げの圧力をかけた。トランプ関税の悪影響を和らげ、金融市場を安定化させる効果を金融緩和に期待しているのである。
またトランプ大統領は4日、FRBに対して「今が利下げの好機」と発言し、利下げの圧力をかけた。トランプ関税の悪影響を和らげ、金融市場を安定化させる効果を金融緩和に期待しているのである。
パウエル議長は早期の利下げ再開に慎重姿勢も金融市場は利下げ観測を強める
FRBのパウエル議長は同日の講演で、早期の利下げ実施に慎重な考えを示している。トランプ関税策は物価押し上げ効果と景気下押し効果の双方を高めることから、FRBは現時点では金融政策の変更を決めることはできず、事態を見守る姿勢であることを説明している(It is too soon to say what will be the appropriate path for monetary policy)。パウエル議長の利下げに慎重なこうした発言が、4日の米国株価の下落をさらに助長した可能性も考えられる。パウエル議長の発言は、FRBに利下げ圧力をかけ続けるトランプ大統領への反発を含んでいるだろう。
しかし、金融市場の動揺が強まれば、金融面からのリスクに対応するため、FRBは早期の利下げの実施や緊急利下げも検討することになるだろう。2日の相互関税発表前には金融市場は年内0.25%幅での3回の利下げを織り込んでいたが、4日時点では4回以上の利下げを織り込んでいる。
しかし、金融市場の動揺が強まれば、金融面からのリスクに対応するため、FRBは早期の利下げの実施や緊急利下げも検討することになるだろう。2日の相互関税発表前には金融市場は年内0.25%幅での3回の利下げを織り込んでいたが、4日時点では4回以上の利下げを織り込んでいる。
株式市場の不安定な動きは少なくとも数か月続く
FRBの利下げが早期に行われるという期待が強まれば、金融市場は一時安定を取り戻すことも考えられる。しかしそれは根本的な解決にはならないだろう。トランプ関税をきっかけに、貿易戦争が世界に広がり、世界経済を悪化させるとの懸念を、米国の金融当局であるFRBの利下げだけでは解消できないからだ。また、FRBの利下げ観測は米国株を一定程度安定させる効果を発揮するだろうが、それがもたらすドル安円高は、日本株の調整を促すことにもなってしまう。
世界の株式市場が大きく安定を取り戻すには、金融市場の動揺やトランプ関税実施によっても、米国経済、世界経済が懸念されたほど悪化しないことを確認できるか、あるいはトランプ大統領が関税策の見直しに前向きな姿勢を示し始めるか、どちらかだろう。いずれにしても、それにはまだ数か月の時間を要する。
世界の株式市場が大きく安定を取り戻すには、金融市場の動揺やトランプ関税実施によっても、米国経済、世界経済が懸念されたほど悪化しないことを確認できるか、あるいはトランプ大統領が関税策の見直しに前向きな姿勢を示し始めるか、どちらかだろう。いずれにしても、それにはまだ数か月の時間を要する。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。