日米関税協議が始まる
石破茂首相は7日に、米政権の相互関税を巡ってトランプ大統領と電話会談した。石破首相は会談で、日本は5年連続で最大の対米投資国であり、米国経済に大きく貢献していることや、米国の関税措置により日本企業の投資余力が減退することを強く懸念していること、などをトランプ大統領に伝えた。これらは2月の日米首脳会談での説明とほぼ同じであり、日本側にはトランプ政権に関税見直しを促すカードがないことを露呈してしまった形だ。
ただしトランプ政権は、日本との協議に応じることを決め、日本との関税や貿易の交渉担当に、ベッセント財務長官と通商代表部(USTR)のグリア代表を起用することを決めた。また日本側では、石破首相は赤沢経済再生相を任命する方針を固めた。
トランプ政権が日本との関税協議を受け入れたのは、日本が真っ先にトランプ政権に協議を働きかけ、いわゆる恭順の意を示したからだろう。米国に対して報復関税を掛ける中国や欧州連合(EU)とは異なる対応を見せることで、そうした国々の対応を牽制する狙いもあるのではないか。
ベッセント財務長官は、70近い国・地域が米国に交渉を持ちかけているなかで、「日本は非常に迅速に名乗りを上げた」と評価し、交渉の順序では「日本が優先されることになる」と述べた。
ただしトランプ政権は、日本との協議に応じることを決め、日本との関税や貿易の交渉担当に、ベッセント財務長官と通商代表部(USTR)のグリア代表を起用することを決めた。また日本側では、石破首相は赤沢経済再生相を任命する方針を固めた。
トランプ政権が日本との関税協議を受け入れたのは、日本が真っ先にトランプ政権に協議を働きかけ、いわゆる恭順の意を示したからだろう。米国に対して報復関税を掛ける中国や欧州連合(EU)とは異なる対応を見せることで、そうした国々の対応を牽制する狙いもあるのではないか。
ベッセント財務長官は、70近い国・地域が米国に交渉を持ちかけているなかで、「日本は非常に迅速に名乗りを上げた」と評価し、交渉の順序では「日本が優先されることになる」と述べた。
関税見直しの見通しは依然険しい
ただし、トランプ政権が日米協議を受け入れたからと言って、日本に対する関税を容易に撤廃、軽減する訳ではないだろう。
そもそも過去の日米貿易協議とは異なり、相互関税は米国以外のすべての国が対象であり、日米2国間の問題ではない。そのため、日本側の譲歩によって関税の見直しを引き出すことは難しい。
またトランプ政権は、ディール(交渉手段)として相互関税などを打ち出したのではなく、米国の貿易赤字を減らし、国内の生産、雇用を拡大させる実効性を期待したのである。従って、2国間の交渉の余地は小さいと考えられる。トランプ政権は一部の小国については関税見直しに応じるだろうが、米国にとって輸入額、貿易赤字額の上位にある日本への対応は、それとは異なる可能性が高い。
トランプ大統領は3日に「驚くような提案」がなされた場合にのみ交渉を検討する、としていた。対日貿易赤字を一気に大幅削減するような具体策を示さない限り、トランプ政権は関税の撤廃、緩和に応じることはないだろう。
トランプ大統領は日米首脳によるこの電話会談後、自動車や農業を例に「日本は貿易に関して米国をひどく扱ってきた」と、改めてSNSに投稿した。貿易面で日本に対する厳しい姿勢は変わっていないのである。
そもそも過去の日米貿易協議とは異なり、相互関税は米国以外のすべての国が対象であり、日米2国間の問題ではない。そのため、日本側の譲歩によって関税の見直しを引き出すことは難しい。
またトランプ政権は、ディール(交渉手段)として相互関税などを打ち出したのではなく、米国の貿易赤字を減らし、国内の生産、雇用を拡大させる実効性を期待したのである。従って、2国間の交渉の余地は小さいと考えられる。トランプ政権は一部の小国については関税見直しに応じるだろうが、米国にとって輸入額、貿易赤字額の上位にある日本への対応は、それとは異なる可能性が高い。
トランプ大統領は3日に「驚くような提案」がなされた場合にのみ交渉を検討する、としていた。対日貿易赤字を一気に大幅削減するような具体策を示さない限り、トランプ政権は関税の撤廃、緩和に応じることはないだろう。
トランプ大統領は日米首脳によるこの電話会談後、自動車や農業を例に「日本は貿易に関して米国をひどく扱ってきた」と、改めてSNSに投稿した。貿易面で日本に対する厳しい姿勢は変わっていないのである。
ドル安調整の観測に注意
日米協議では、トランプ政権は日本に対して非関税障壁への対応を求めてくる可能性が高い。その中には、米国自動車や牛肉などの輸入を妨げていると米国が主張する安全基準の見直しなども含まれるだろう。さらにトランプ大統領は、日本による円安政策が米国製品の輸入を阻んでいると強く批判してきたことから、円安政策の修正を求めてくる可能性も考えられる。
トランプ大統領は7日にも、「トラクターのメーカーなど多くの企業と話すと、円安やウォン安など通貨安誘導のせいで、販売が難しく競争がとても厳しいという。我々もそれは望んでいない」と述べている。
日本が円安政策を行っているというのは全くの誤解であるが、日本は円安阻止に向けた政策をさらに強化して、必要に応じて円買いドル売りの為替介入の実施を求められる可能性があるだろう。
金融市場では、トランプ関税の次の戦略として、プラザ合意2.0のようなドル安誘導を行うとの観測がある。為替を巡る日米協議や日本側の対応が、そうした観測をより高める可能性があるだろう。
ただし、その結果、急速なドル安・円高が進めば、日本では株価の大幅下落や景気悪化をもたらす可能性もあることから、議論の行方には注視が必要だ。
トランプ大統領は7日にも、「トラクターのメーカーなど多くの企業と話すと、円安やウォン安など通貨安誘導のせいで、販売が難しく競争がとても厳しいという。我々もそれは望んでいない」と述べている。
日本が円安政策を行っているというのは全くの誤解であるが、日本は円安阻止に向けた政策をさらに強化して、必要に応じて円買いドル売りの為替介入の実施を求められる可能性があるだろう。
金融市場では、トランプ関税の次の戦略として、プラザ合意2.0のようなドル安誘導を行うとの観測がある。為替を巡る日米協議や日本側の対応が、そうした観測をより高める可能性があるだろう。
ただし、その結果、急速なドル安・円高が進めば、日本では株価の大幅下落や景気悪化をもたらす可能性もあることから、議論の行方には注視が必要だ。
日本製鉄のUSスチール買収を改めて審査
ところでトランプ大統領は7日、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画を改めて審査するよう対米外国投資委員会(CFIUS)に命じる大統領覚書に署名した。日鉄側の提案が、CFIUSが特定した米国の国家安全保障上への脅威を軽減するのに十分かどうか45日以内に報告を求めるものだ。買収計画に対して、バイデン前政権は買収停止を命令し、トランプ大統領も一貫して否定的な立場を取ってきた。
改めて買収計画を審査しても、トランプ大統領が買収を認めるとは限らないが、撤回を余儀なくされたと考えられていた買収計画が、一転して前進する可能性が出てきた。これは、日本製鉄によるトランプ政権への働きかけが功を奏した可能性もあるだろう。
トランプ関税は米国ビジネスのリスクを大きく高め、石破首相が指摘するように、トランプ大統領との思惑とは別に日本企業の対米投資を阻害しかねない。そうしたなか、買収計画を改めて審査することをトランプ大統領が決めたことは、日本企業にとって米国ビジネスの不確実性やリスクをやや軽減するものとなるだろう。
(参考資料)
「関税協議、日本に「優先交渉権」 米財務長官が交渉担当」、2025年4月8日、日本経済新聞電子版
「日鉄の米鉄鋼買収、再審査を指示―トランプ氏、一転前進か」、2025年4月8日、共同通信ニュース
「相互関税見直し要求 電話首脳会談 担当閣僚で協議継続」、2025年4月8日、京都新聞
改めて買収計画を審査しても、トランプ大統領が買収を認めるとは限らないが、撤回を余儀なくされたと考えられていた買収計画が、一転して前進する可能性が出てきた。これは、日本製鉄によるトランプ政権への働きかけが功を奏した可能性もあるだろう。
トランプ関税は米国ビジネスのリスクを大きく高め、石破首相が指摘するように、トランプ大統領との思惑とは別に日本企業の対米投資を阻害しかねない。そうしたなか、買収計画を改めて審査することをトランプ大統領が決めたことは、日本企業にとって米国ビジネスの不確実性やリスクをやや軽減するものとなるだろう。
(参考資料)
「関税協議、日本に「優先交渉権」 米財務長官が交渉担当」、2025年4月8日、日本経済新聞電子版
「日鉄の米鉄鋼買収、再審査を指示―トランプ氏、一転前進か」、2025年4月8日、共同通信ニュース
「相互関税見直し要求 電話首脳会談 担当閣僚で協議継続」、2025年4月8日、京都新聞
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。