関税導入前の駆け込み輸入急増がマイナス成長の主因
米商務省が4月30日に発表した2025年1-3月期GDP統計で、実質GDPは前期比年率-0.3%と2022年1-3月期以来3年ぶりのマイナス成長となった。事前予想はほぼゼロ%程度であり、概ね予想の範囲内の結果だった。
今回のGDP統計は、トランプ政権による関税策の影響を強く受けている。関税引き上げによって価格が上昇する前の駆け込み行動により、実質輸入は前期比年率+41.3%、財輸入は同+50.9%と激増した。
輸入増加はGDPの押し下げに働き、同期の実質GDPの前期比年率成長率を—5.03%も押し下げた。駆け込みで増加した輸入財の一部は在庫となり、それは在庫投資の増加として輸入増加によるGDPの落ち込みを一部相殺している。同期の民間実質在庫投資の実質GDPへの寄与度は前期比年率+2.25%となり、輸入増加のGDP押し下げ効果の半分弱は、在庫投資の増加によって打ち消された形だ。
同期の実質機械設備投資が前期比年率+22.5%と急増したのは、関税の影響で価格が上昇する前に、企業が輸入機械を駆け込みで購入したせいだろう。個人も、関税の影響で価格が上昇する前に輸入消費財を駆け込み購入する動きが一部にはあったはずだが、実際には同期の実質個人消費は前期比年率+1.8%と、前期の同+4.0%から増勢を落とした。関税による先行きの物価上昇や景気情勢悪化への懸念がより反映された結果だろう。
今回のGDP統計は、トランプ政権による関税策の影響を強く受けている。関税引き上げによって価格が上昇する前の駆け込み行動により、実質輸入は前期比年率+41.3%、財輸入は同+50.9%と激増した。
輸入増加はGDPの押し下げに働き、同期の実質GDPの前期比年率成長率を—5.03%も押し下げた。駆け込みで増加した輸入財の一部は在庫となり、それは在庫投資の増加として輸入増加によるGDPの落ち込みを一部相殺している。同期の民間実質在庫投資の実質GDPへの寄与度は前期比年率+2.25%となり、輸入増加のGDP押し下げ効果の半分弱は、在庫投資の増加によって打ち消された形だ。
同期の実質機械設備投資が前期比年率+22.5%と急増したのは、関税の影響で価格が上昇する前に、企業が輸入機械を駆け込みで購入したせいだろう。個人も、関税の影響で価格が上昇する前に輸入消費財を駆け込み購入する動きが一部にはあったはずだが、実際には同期の実質個人消費は前期比年率+1.8%と、前期の同+4.0%から増勢を落とした。関税による先行きの物価上昇や景気情勢悪化への懸念がより反映された結果だろう。
7-9月期の成長率は再びマイナス成長か
駆け込みでの輸入増加の反動から輸入が大幅に減少することから、4-6月期の米国のGDPは一転してプラス成長となる可能性が高い。4月30日時点のアトランタ連銀GDPNowによると、現時点での4-6月期の実質GDPの見通しは、前期比年率+2.4%である。ただし、1-3月期の実績値と平均すれば年率+1%程度と、従来の成長率のトレンドの半分以下にとどまっている。関税による経済活動への下押しの影響は明らかだ。
4月に導入された関税の影響により輸入品の価格が顕著に上昇を始めるのは、6月頃からではないかと推察される。それまでは、駆け込みで輸入された輸入品が、従来の価格で販売され、消費されるだろう。
価格が顕著に上昇し始める時点で、個人消費を中心に需要が落ちることが見込まれる。それ以前の駆け込み購入の反動も重なり、成長率の下振れ傾向は顕著となるだろう。その結果、7-9月期の実質GDPは再びマイナス成長になることが予想される。関税の深刻な悪影響が続けば、10-12月期の実質GDPも連続してマイナス成長となり、米国経済は2四半期連続でのマイナス成長という簡便的な景気後退の定義を満たすことになる。
トランプ政権の関税策は向こう3~4か月のうちに縮小方向で本格的に見直されることが見込まれるが、それでも、不確実性の高まりと、一定期間の関税適用が米国経済に与える影響は大きく、米国経済が今年後半に比較的軽微な景気後退に陥る可能性は40%~50%程度と見ておきたい。
4月に導入された関税の影響により輸入品の価格が顕著に上昇を始めるのは、6月頃からではないかと推察される。それまでは、駆け込みで輸入された輸入品が、従来の価格で販売され、消費されるだろう。
価格が顕著に上昇し始める時点で、個人消費を中心に需要が落ちることが見込まれる。それ以前の駆け込み購入の反動も重なり、成長率の下振れ傾向は顕著となるだろう。その結果、7-9月期の実質GDPは再びマイナス成長になることが予想される。関税の深刻な悪影響が続けば、10-12月期の実質GDPも連続してマイナス成長となり、米国経済は2四半期連続でのマイナス成長という簡便的な景気後退の定義を満たすことになる。
トランプ政権の関税策は向こう3~4か月のうちに縮小方向で本格的に見直されることが見込まれるが、それでも、不確実性の高まりと、一定期間の関税適用が米国経済に与える影響は大きく、米国経済が今年後半に比較的軽微な景気後退に陥る可能性は40%~50%程度と見ておきたい。
FRBは6月あるいは7月に利下げ再開か
トランプ大統領は、1-3月期の実質GDPがマイナスになったことを受け、それが自身の関税政策への国民の批判を高めることを警戒している。トランプ大統領は「(マイナス成長は)バイデンのせいだ」として、マイナス成長の責任を前任のバイデン氏に転嫁しているが、これは根拠のない主張だ。
さらにトランプ大統領は、「金利は低下すべき」「(米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は)あまり好きではない」と発言し、改めて利下げを要求するとともに、景気の下振れの責任をパウエル議長へも転嫁する地均しを行っている。
パウエル議長は、関税の影響は景気の下振れと物価の押し上げの双方に及ぶことから、しばらくは政策変更を行わない姿勢を見せている。トランプ大統領がFRBに利下げ要求をする中、政治からの圧力で利下げを行うとの見方が広がると、FRBの政策の信認が低下することを恐れ、意図的に利下げに慎重な姿勢を強調しているようにも見える。
しかし、関税による物価上昇は一時的な性格が強いことから、景気悪化の明確な証拠が出てくれば、それを根拠にFRBは利下げに踏み切る可能性が高いとみられる。FRBは6月あるいは7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、昨年末以来見合わせてきた利下げを再開すると見ておきたい。
さらにトランプ大統領は、「金利は低下すべき」「(米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は)あまり好きではない」と発言し、改めて利下げを要求するとともに、景気の下振れの責任をパウエル議長へも転嫁する地均しを行っている。
パウエル議長は、関税の影響は景気の下振れと物価の押し上げの双方に及ぶことから、しばらくは政策変更を行わない姿勢を見せている。トランプ大統領がFRBに利下げ要求をする中、政治からの圧力で利下げを行うとの見方が広がると、FRBの政策の信認が低下することを恐れ、意図的に利下げに慎重な姿勢を強調しているようにも見える。
しかし、関税による物価上昇は一時的な性格が強いことから、景気悪化の明確な証拠が出てくれば、それを根拠にFRBは利下げに踏み切る可能性が高いとみられる。FRBは6月あるいは7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、昨年末以来見合わせてきた利下げを再開すると見ておきたい。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。