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CEOの退任の意向を表明したバフェット氏がトランプ政策批判

「投資の神様」とも呼ばれる米著名投資家ウォーレン・バフェット氏は、投資会社バークシャー・ハザウェイの最高経営責任者(CEO)を今年の年末に退任する意向を、5月3日に開いた同社の株主総会で明らかにした。2021年に後継指名していたグレッグ・アベル副会長を後任とするように、取締役会に提案する。バフェット氏は同社の会長職は続けるという。
 
バフェット氏はバークシャー株を議決権ベースで約30%保有する筆頭株主だが、CEO退任後も同社株式の売却はしないとしている。
 
この株主総会では、バフェット氏によるトランプ政権の政策に対する批判的コメントも注目を集めた。トランプ関税については、「通商を武器として使うことはあってはならない」と述べ、「(米国外の)75億人に嫌われ(米国内の)3億人が米国の繁栄に不満を抱いているとしたら、正しいことだとは思わない」と語った。
 
さらにドルの下落について「大いに心配している」とし、通貨の信認を損ねるトランプ政権の米国の財政政策やドル安政策に懸念を示した。以前には、「愚かな財政運営がまん延すれば紙幣は価値を失う。米国でも危機にひんしている」と述べたこともある。

米国株投資を控える一方、日本の商社への投資を拡大

バークシャー社のキャッシュ保有額は現在、過去最高水準にある。現金と米短期国債を合わせたキャッシュ(手元流動性)は3月末時点で3,476億8100万ドル(約52兆円)と1年前に比べて8割以上も増えている。米国への株式投資を控え、投資待機資金を大きく積み上げている状況だ。
 
そうした中でも、バフェット氏は日本の商社株を買い増している。バフェット氏は2019年7月、伊藤忠商事や三菱商事、三井物産など商社5社の株式取得を始め、その後徐々に買い増してきた。バフェット氏は今年2月に公表した「株主への手紙」で、これまで10%未満としていた日本の商社5社の株式保有比率について、「上限を適度に緩和することで5社は合意した」と言及していた。その後、3月には、大量保有報告書で各社の株買い増しが実際に明らかになった。保有比率は2023年6月時点からそれぞれ1%以上上昇したのである。
 
3日の株主総会でバフェット氏は、日本の商社株については「超長期の投資だ」と述べ、希少な投資機会を発掘できた事例として「我々の好みにぴったりだ」とポジティブに語った。またロイター通信は4日に、バフェット氏が「今後50年は売却を考えないだろうと発言した」と報じている。
 
2月の「株主への手紙」では、日本の商社について、「各社の資本展開、経営陣、投資家に対する姿勢を好んでいる」とし、適切な株主還元の実行や、経営陣の報酬が米国企業と比べて「はるかに抑制的」である点などを評価していた。そのうえで、「商社株の保有は極めて長期的なものであり、各社の経営陣を支援することを約束する」と説明した。

日本の商社株投資の背景に、「米国離れ」とトランプ政権へのアンチテーゼか

米国株式中心のバフェット氏にとって、日本株の保有を大きく増やすのは異例なことだ。さらに、次の世代に投資を引き渡すこのタイミングで、米国株ではなく海外株、そして日本の商社への投資に傾倒していったのは興味深い。
 
そうした背景には、日本の商社に対する前向きな評価に加えて、米国資産についての不信感があったのではないか。とりわけ第2次トランプ政権が発足して以降、その関税策、減税策、ドル安政策は、ドルの信認を低下させ、金融市場の「米国離れ」を引き起こしている。日本の商社株に傾倒するバフェット氏の姿勢は、そうした「米国離れ」の先駆けでもあり、また、トランプ政権に対する強いアンチテーゼとも映る。
 
(参考資料)
「伊藤忠など商社の株価が軒並み上昇 バフェット氏が超長期保有方針」、2025年5月7日、日本経済新聞電子版
「バフェット氏、バークシャー会長職は留任・・・後継CEOにアベル氏就任へ」、2025年5月6日、読売新聞速報ニュース
「バフェット氏、「商社株投資は超長期」 バークシャー総会」、2025年5月3日、日本経済電子版
「バフェット氏、日本の商社株買い増し意欲 株主への手紙」、2025年2月22日、日本経済新聞電子版 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。