不確実性は大きく利下げを急がない姿勢
米連邦準備制度理事会(FRB)は、5月6-7日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、事前予想通りに3会合連続で政策金利を据え置いた。
声明文では、経済は全体として「引き続き堅調なペースで拡大している」と指摘している。1-3月期の米国GDP成長率はマイナスとなったが、これは関税導入を前にした駆け込み輸入の急増によるものであり、景気悪化の兆候とは異なるとの見方が示唆された。さらに、4月分雇用統計で雇用者増加数が事前予想を上回ったことを受けて、声明文では、労働市場は引き続き「堅調」であるとした。他方でインフレ率は依然として「幾分高止まり」しているとし、前回3月の声明と同じ表現が用いられた。
また声明文では、「経済見通しを巡る不確実性は一段と高まった」と指摘し、「FRBは二重の使命に対するリスクに注意を払っており、失業率とインフレ率の上昇のリスクが高まっていると判断した」と述べている。
パウエル議長の記者会見でも、声明文の内容が繰り返された。パウエル議長は、「国民や企業が非常に悲観的な感情に覆われているとはいえ、経済は依然として健全だ」と述べた。これは、ソフトデータよりもハードデータを重視する姿勢を示している。
パウエル議長はまた、貿易政策が依然として不確実となっており、「この状況がどうなるかは予測できない。大きな不確実性があると思う」とした。さらに、こうした不確実性により、「より多くのデータを見るまでは、適切な対応が何なのか実際には分からないため、先手を打てる状況ではない」と述べた。また「私たちは様子を見ており、利下げを急ぐ必要はないと考えている」と従来の方針を改めて強調した。
声明文では、経済は全体として「引き続き堅調なペースで拡大している」と指摘している。1-3月期の米国GDP成長率はマイナスとなったが、これは関税導入を前にした駆け込み輸入の急増によるものであり、景気悪化の兆候とは異なるとの見方が示唆された。さらに、4月分雇用統計で雇用者増加数が事前予想を上回ったことを受けて、声明文では、労働市場は引き続き「堅調」であるとした。他方でインフレ率は依然として「幾分高止まり」しているとし、前回3月の声明と同じ表現が用いられた。
また声明文では、「経済見通しを巡る不確実性は一段と高まった」と指摘し、「FRBは二重の使命に対するリスクに注意を払っており、失業率とインフレ率の上昇のリスクが高まっていると判断した」と述べている。
パウエル議長の記者会見でも、声明文の内容が繰り返された。パウエル議長は、「国民や企業が非常に悲観的な感情に覆われているとはいえ、経済は依然として健全だ」と述べた。これは、ソフトデータよりもハードデータを重視する姿勢を示している。
パウエル議長はまた、貿易政策が依然として不確実となっており、「この状況がどうなるかは予測できない。大きな不確実性があると思う」とした。さらに、こうした不確実性により、「より多くのデータを見るまでは、適切な対応が何なのか実際には分からないため、先手を打てる状況ではない」と述べた。また「私たちは様子を見ており、利下げを急ぐ必要はないと考えている」と従来の方針を改めて強調した。
トランプ大統領による利下げ要求を撥ねつける
トランプ大統領は、連日のようにFRBに利下げを要求する政治介入を行っている。関税による経済の悪化や金融市場の動揺のリスクを利下げで軽減したい、との考えが背景にある。また、この先、景気が明確に悪化する場合に、それは関税策の影響ではなくFRBの利下げが遅かったから、と責任逃れをするための布石を打っているとも考えられる。
記者から今回の決定にトランプ大統領の利下げ要求の影響はあるかと問われたパウエル議長は、「私たちの仕事には全く影響しない」と答えている。実際には、利下げ要求が利下げの妨げとなっている面があるのではないか。政治的な圧力によって利下げが決定されたと広く理解されれば、FRBの信認が落ちてしまうことを議長は強く警戒している。政治介入がなければ、先行きの景気悪化を見越して、FRBが利下げ再開を既に決めていてもおかしくはない。
しかし実際には、FRBは景気悪化の明確な兆候がハードデータで確認されるのを待っているのだろう。それに基づいて利下げを判断したと説明すれば、FRBは、自らの信認を損ねることなく利下げを決定することができるためだ。ただしそうした姿勢には、政策対応を遅らせてしまうリスクがあるだろう。
確かに関税は景気を下振れさせる一方で物価を押し上げることから、雇用の極大化と物価の安定の双方を使命とするFRBの政策判断は難しいところだ。しかし、関税による物価上昇は、サプライショックによる一時的な現象の性格が強いことから、最終的には景気悪化への対応を優先するだろう。
金融政策に影響を与えるハードデータの中で、最も重要なのは雇用統計だ。5月分雇用統計で景気悪化の兆候が確認され、6月分雇用統計でそれがさらに加速すれば、7月のFOMCで利下げが実施されるのではないかと予想する。
記者から今回の決定にトランプ大統領の利下げ要求の影響はあるかと問われたパウエル議長は、「私たちの仕事には全く影響しない」と答えている。実際には、利下げ要求が利下げの妨げとなっている面があるのではないか。政治的な圧力によって利下げが決定されたと広く理解されれば、FRBの信認が落ちてしまうことを議長は強く警戒している。政治介入がなければ、先行きの景気悪化を見越して、FRBが利下げ再開を既に決めていてもおかしくはない。
しかし実際には、FRBは景気悪化の明確な兆候がハードデータで確認されるのを待っているのだろう。それに基づいて利下げを判断したと説明すれば、FRBは、自らの信認を損ねることなく利下げを決定することができるためだ。ただしそうした姿勢には、政策対応を遅らせてしまうリスクがあるだろう。
確かに関税は景気を下振れさせる一方で物価を押し上げることから、雇用の極大化と物価の安定の双方を使命とするFRBの政策判断は難しいところだ。しかし、関税による物価上昇は、サプライショックによる一時的な現象の性格が強いことから、最終的には景気悪化への対応を優先するだろう。
金融政策に影響を与えるハードデータの中で、最も重要なのは雇用統計だ。5月分雇用統計で景気悪化の兆候が確認され、6月分雇用統計でそれがさらに加速すれば、7月のFOMCで利下げが実施されるのではないかと予想する。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。