英国の対米自動車輸出に一部10%の低関税が適用される
トランプ米大統領は8日(米国時間)に、米国と英国が貿易協定の枠組みで合意した、と発表した。協定の詳細についてはまだ確定しておらず、今後数週間にわたり交渉が続けられる。トランプ政権は4月に相互関税を発表した後、複数の国と2か国間の関税協議を続けており、その中で貿易協定の枠組みで合意するのは今回の英国が初めてのこととなる。
協定で、英国は米国製品の通関手続きを迅速化し、農産物、化学製品、エネルギー、工業製品の米国からの輸入に対する障壁を削減することで合意した。トランプ大統領は、「この協定には、特に農業分野における米国製品の英国市場へのアクセス拡大に数十億ドル規模の措置が含まれており、米国産牛肉、エタノール、そしてわが国の偉大な農家が生産するほぼすべての製品へのアクセスが劇的に向上する」とその成果を高らかにアピールした。
この協定の下で、英国の自動車メーカーは、トランプ大統領が自動車輸入に課した25%の関税よりも低い10%の関税で、10万台の自動車を米国に輸出することが認められる。また、ロールス・ロイス・ホールディングス製のエンジンと航空機部品は米国市場に無関税で参入できるようになり、英国の航空会社はボーイング社製の航空機を100億ドル分購入することになる、とラトニック長官は述べた。この合意は、日米関税協議でも争点となっている、農産物と自動車を中心とする工業製品との間での取引(ディール)の性格が強いとの印象だ。
協定で、英国は米国製品の通関手続きを迅速化し、農産物、化学製品、エネルギー、工業製品の米国からの輸入に対する障壁を削減することで合意した。トランプ大統領は、「この協定には、特に農業分野における米国製品の英国市場へのアクセス拡大に数十億ドル規模の措置が含まれており、米国産牛肉、エタノール、そしてわが国の偉大な農家が生産するほぼすべての製品へのアクセスが劇的に向上する」とその成果を高らかにアピールした。
この協定の下で、英国の自動車メーカーは、トランプ大統領が自動車輸入に課した25%の関税よりも低い10%の関税で、10万台の自動車を米国に輸出することが認められる。また、ロールス・ロイス・ホールディングス製のエンジンと航空機部品は米国市場に無関税で参入できるようになり、英国の航空会社はボーイング社製の航空機を100億ドル分購入することになる、とラトニック長官は述べた。この合意は、日米関税協議でも争点となっている、農産物と自動車を中心とする工業製品との間での取引(ディール)の性格が強いとの印象だ。
英国との貿易協議は他国との協議とは異質
トランプ大統領は、英国との貿易協定の枠組み合意を発表することで、自らの関税策が成果を挙げていることを国内にアピールし、米国経済に悪影響をもたらす関税策への批判を和らげる狙いがある。さらに、今後、他国との2か国協議を進める起爆剤にしたいという狙いもあるはずだ。トランプ大統領は、他国も米国と合意したがっているとし、今後多くの国との間で合意が成立するという楽観的な見通しを述べた。
しかし重要なのは、今回の米英の協議は、トランプ政権が日本を含む他国と現在進めている関税協議とは異質なものであるという点だ。同様の合意が米国と他国との間で迅速に成立すると考えるのは正しくないだろう。
まず、今回の米英の貿易協議は、枠組み合意に至るまで5年かかったと説明されている。協議はトランプ政権第1期にも5回行われたが合意には至らず、バイデン政権は協議を停止していた。米英の貿易協議は、他国とは異なり、4月の相互関税以降に始められたものではなかったのである。これほど長い時間をかけてようやく合意に至ったということは、米国と他国の関税協議も容易には合意に達しないことを示唆しているのではないか。
しかし重要なのは、今回の米英の協議は、トランプ政権が日本を含む他国と現在進めている関税協議とは異質なものであるという点だ。同様の合意が米国と他国との間で迅速に成立すると考えるのは正しくないだろう。
まず、今回の米英の貿易協議は、枠組み合意に至るまで5年かかったと説明されている。協議はトランプ政権第1期にも5回行われたが合意には至らず、バイデン政権は協議を停止していた。米英の貿易協議は、他国とは異なり、4月の相互関税以降に始められたものではなかったのである。これほど長い時間をかけてようやく合意に至ったということは、米国と他国の関税協議も容易には合意に達しないことを示唆しているのではないか。
英国は米国の貿易黒字国
さらに重要なのは、英国は米国にとって貿易黒字国であることだ。そのため、米国の貿易赤字の削減を目指すトランプ政権も、英国に対しては比較的寛容な姿勢である。
トランプ政権が4月に打ち出した相互関税では、すべての国に10%の一律関税を課した上で、米国が相応規模の貿易赤字となっている国々に対しては、上乗せ関税がかけられた。
その後トランプ政権は上乗せ関税分について90日間の一時停止を決め、停止期間中に上乗せ関税分の引き下げについて主要国と協議を進めている。つまり協議の対象となるのは、米国が貿易赤字を抱えており、上乗せの相互関税を課した国々だ。英国は米国にとって貿易黒字国であり、それゆえに上乗せ関税はなく10%の一律関税を課されている。そうした英国との間での合意が、その他の国との間での今後の関税協議の合意の試金石、あるいはひな形になるとは思えない。
ハワード・ラトニック商務長官は、この米英の協定では10%の基本関税は変わらないとしている。相互関税の枠組みは修正されないのである。
他方、自動車関税については一部低い関税率が英国に適用されることは注目に値する。ただし、トランプ政権は25%の自動車関税を引き下げる、あるいは撤廃するという日本側の要求を明確に撥ねつけている。今回の英国との合意が、他国も含めた自動車関税全体の見直しにつながると考えるのは楽観的過ぎるだろう。
米国と密接な関係にある英国に対しては、トランプ政権の姿勢は特段寛容なのであり、他の国への対応はそれとは異なると考えておくべきではないか。
トランプ政権が4月に打ち出した相互関税では、すべての国に10%の一律関税を課した上で、米国が相応規模の貿易赤字となっている国々に対しては、上乗せ関税がかけられた。
その後トランプ政権は上乗せ関税分について90日間の一時停止を決め、停止期間中に上乗せ関税分の引き下げについて主要国と協議を進めている。つまり協議の対象となるのは、米国が貿易赤字を抱えており、上乗せの相互関税を課した国々だ。英国は米国にとって貿易黒字国であり、それゆえに上乗せ関税はなく10%の一律関税を課されている。そうした英国との間での合意が、その他の国との間での今後の関税協議の合意の試金石、あるいはひな形になるとは思えない。
ハワード・ラトニック商務長官は、この米英の協定では10%の基本関税は変わらないとしている。相互関税の枠組みは修正されないのである。
他方、自動車関税については一部低い関税率が英国に適用されることは注目に値する。ただし、トランプ政権は25%の自動車関税を引き下げる、あるいは撤廃するという日本側の要求を明確に撥ねつけている。今回の英国との合意が、他国も含めた自動車関税全体の見直しにつながると考えるのは楽観的過ぎるだろう。
米国と密接な関係にある英国に対しては、トランプ政権の姿勢は特段寛容なのであり、他の国への対応はそれとは異なると考えておくべきではないか。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。