主要3格付機関がすべて米国債を格下げ
米格付け大手のムーディーズ・レーティングスは16日に、米国債の長期信用格付けを最上位の「Aaa」から「Aa1」へと1段階引き下げたと発表した。4月のトランプ関税を受けた金融市場の混乱はその後収束してきているが、この発表は、そうした流れに水を差す可能性がある。
S&Pグローバル・レーティングは2011年に、フィッチ・レーティングスは2023年にそれぞれ米国債の格付けを最上位から1段階引き下げており、これで主要3格付機関がすべて米国債の格下げを実施したことになる。
ムーディーズは2023年11月に、米国の信用格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げていた。当時は共和・民主両党が議会で対立し、予算の成立が遅れて政府機関閉鎖が生じる状況をなかなか解決できないことに警鐘を鳴らす意味合いで、米国債の格付け見通しを引き下げたと考えられる。
ムーディーズは今回の格下げの理由について、「米国が持つ経済・財政の著しい強さは認識しているが、これらの強みだけで財政指標の悪化をもはや完全に埋め合わせることはできない」との認識を示している。
S&Pグローバル・レーティングは2011年に、フィッチ・レーティングスは2023年にそれぞれ米国債の格付けを最上位から1段階引き下げており、これで主要3格付機関がすべて米国債の格下げを実施したことになる。
ムーディーズは2023年11月に、米国の信用格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げていた。当時は共和・民主両党が議会で対立し、予算の成立が遅れて政府機関閉鎖が生じる状況をなかなか解決できないことに警鐘を鳴らす意味合いで、米国債の格付け見通しを引き下げたと考えられる。
ムーディーズは今回の格下げの理由について、「米国が持つ経済・財政の著しい強さは認識しているが、これらの強みだけで財政指標の悪化をもはや完全に埋め合わせることはできない」との認識を示している。
ホワイトハウスは格下げに反発
ムーディーズの格下げがこのタイミングとなった背景には、1月にトランプ政権が誕生し、そのもとで2025年の所得減税の延長が議会で審議されていることがある。それは中長期的に大幅な財政赤字拡大要因となる。ムーディーズの格下げは減税延長の審議に逆風となるだろう。
また、トランプ関税が米国経済に悪影響を与え、それが税収減や景気対策を通じて財政環境を悪化させることへの警鐘でもあるだろう。
ホワイトハウスのスティーブン・チャン広報部長は、ムーディーズのエコノミスト、マーク・ザンディ氏を批判。トランプ大統領の政敵だとした上で、「彼の『分析』を真に受ける者はいない。彼は何度も間違っていることが証明されている」とした。
他方で民主党上院のチャック・シューマー院内総務は「ムーディーズの米国債格下げは、トランプ大統領と議会共和党に対し、財政赤字を拡大させる税制優遇策の無謀な追求をやめるよう警鐘を鳴らすもの」とする声明を出している。
また、トランプ関税が米国経済に悪影響を与え、それが税収減や景気対策を通じて財政環境を悪化させることへの警鐘でもあるだろう。
ホワイトハウスのスティーブン・チャン広報部長は、ムーディーズのエコノミスト、マーク・ザンディ氏を批判。トランプ大統領の政敵だとした上で、「彼の『分析』を真に受ける者はいない。彼は何度も間違っていることが証明されている」とした。
他方で民主党上院のチャック・シューマー院内総務は「ムーディーズの米国債格下げは、トランプ大統領と議会共和党に対し、財政赤字を拡大させる税制優遇策の無謀な追求をやめるよう警鐘を鳴らすもの」とする声明を出している。
見逃せない国債利回りの上昇
格下げの発表を受けて、米国の10年国債利回りは4.44%程度から4.49%程度まで5bp程度の上昇を見せた。これは大きな上昇幅とは言えないが、決して無視できない動きだ。
2011年にS&Pが米国債を格下げした際には、株価は大幅に下落する一方、ドルも下落し、世界の金融市場に大きな影響を与えた。しかし、震源地である米国債は逆に買われ、長期国債利回りは低下したのである。安全資産でリスク回避先という米国債の位置づけが変わらなかったからだ。2023年にフィッチが格下げした際にも米国債は目立っては売られなかった。
今回の格下げが利回りの上昇を引き起こしたのは、トランプ関税による、米国経済への打撃やトランプ政権の政策の不確実性の高まりが、米国資産への信認を低下させ、金融市場でドル離れの傾向が既に生じていたからではないか。
主要3格付機関がすべて米国債を最高位から格下げしたことに加えて、この先、減税延長の審議が議会で進むこと、関税の悪影響が米国経済に顕在化すること、トランプ政権がドル安政策を取るとの観測が生じること、などをきっかけに、米国金融市場では「トリプル安」、「ドル離れ」という4月の金融市場の混乱が再燃する可能性も考慮しておく必要があるのではないか。
2011年にS&Pが米国債を格下げした際には、株価は大幅に下落する一方、ドルも下落し、世界の金融市場に大きな影響を与えた。しかし、震源地である米国債は逆に買われ、長期国債利回りは低下したのである。安全資産でリスク回避先という米国債の位置づけが変わらなかったからだ。2023年にフィッチが格下げした際にも米国債は目立っては売られなかった。
今回の格下げが利回りの上昇を引き起こしたのは、トランプ関税による、米国経済への打撃やトランプ政権の政策の不確実性の高まりが、米国資産への信認を低下させ、金融市場でドル離れの傾向が既に生じていたからではないか。
主要3格付機関がすべて米国債を最高位から格下げしたことに加えて、この先、減税延長の審議が議会で進むこと、関税の悪影響が米国経済に顕在化すること、トランプ政権がドル安政策を取るとの観測が生じること、などをきっかけに、米国金融市場では「トリプル安」、「ドル離れ」という4月の金融市場の混乱が再燃する可能性も考慮しておく必要があるのではないか。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。