40年債入札直前に金利は大きく低下
日本銀行の植田総裁は28日の衆院財務金融委員会で、超長期金利の上昇について、短期・中期の金利に影響が及ぶ可能性に留意していきたい、との見解を示した。経済に与える影響は超長期の金利より中期・短期の金利の変動の方が大きいとしつつも、超長期金利の上昇がより短いゾーンの金利に影響を及ぼす可能性があることを警戒したものだ。
足もとでの超長期金利の大幅上昇は、金融政策と財政政策の双方に影響を与えている。超長期の金利は4月の相互関税導入に伴う金融市場の動揺を受けて一時的に大きく低下したが、その後は金融市場全体が安定を取り戻していく中で上昇傾向を鮮明にさせてきた。特に、5月20日の20年債入札が記録的な不調に終わって以降、超長期債市場は不安定さを増し、30年、40年債の金利は過去最高を更新していた。
そして、5月28日の40年債入札に向けて金利の一段の上昇に対する市場の警戒感が一段と強まっていたが、財務省が投資家を含む幅広い国債市場参加者を対象に国債発行額についてアンケートを送付していたことが27日に明らかとなり、発行減額への期待から27日の超長期債の金利は大幅に低下した。
28日の40年債入札では、応札倍率は2.21倍と前回3月の2.92倍を下回り、2024年7月以来の低水準となった。入札直前に40年債の金利が大きく低下したことで、投資妙味が薄れたことが、入札がやや冴えない結果となった背景だろう。ただし、大きな混乱はなく、金融市場は注目イベントを通過したとも言える。
足もとでの超長期金利の大幅上昇は、金融政策と財政政策の双方に影響を与えている。超長期の金利は4月の相互関税導入に伴う金融市場の動揺を受けて一時的に大きく低下したが、その後は金融市場全体が安定を取り戻していく中で上昇傾向を鮮明にさせてきた。特に、5月20日の20年債入札が記録的な不調に終わって以降、超長期債市場は不安定さを増し、30年、40年債の金利は過去最高を更新していた。
そして、5月28日の40年債入札に向けて金利の一段の上昇に対する市場の警戒感が一段と強まっていたが、財務省が投資家を含む幅広い国債市場参加者を対象に国債発行額についてアンケートを送付していたことが27日に明らかとなり、発行減額への期待から27日の超長期債の金利は大幅に低下した。
28日の40年債入札では、応札倍率は2.21倍と前回3月の2.92倍を下回り、2024年7月以来の低水準となった。入札直前に40年債の金利が大きく低下したことで、投資妙味が薄れたことが、入札がやや冴えない結果となった背景だろう。ただし、大きな混乱はなく、金融市場は注目イベントを通過したとも言える。
日本銀行は利上げ再開に前向き姿勢を強めたか
日本銀行は次回6月の金融政策決定会合で、長期国債買い入れ額縮小(量的引き締め策:QT)の中間見直しを行う。従来通りの買い入れ額縮小ペースを維持することが基本姿勢とみられるが、足もとの超長期国債の金利上昇をけん制する狙いで、何らかの対応措置を導入する可能性もあり得るだろう。
また、超長期国債の金利上昇は、日本銀行の利上げ姿勢を慎重にさせる要因と考えられる。追加利上げやその観測が超長期国債の金利上昇を促し、金融市場を不安定化させる可能性もあるからだ。
そうした中、27日の日本銀行の国際コンファランスでの植田総裁の講演は、予想よりもタカ派的だった。植田総裁は通商政策などの不確実性が極めて高く、見通しが実現していくか予断を持たずに判断していくと述べたが、一方で、「経済・物価の中心的な見通しが実現していけば、2%の物価安定目標の持続的な達成に向けて利上げを継続する」との見解を示した。
追加利上げを見送った5月1日の金融政策決定会合後の記者会見で植田総裁は、基調的な物価上昇率は「足踏み」「伸び悩む」などの表現を用い、事実上、利上げを一時停止させる考えを示した。そのような慎重な表現は、今回の講演では示されなかったことは見逃せない。
前回の金融政策決定会合以降、4月の相互関税で動揺した金融市場は、落ち着きを取り戻してきている。さらに、米中の電撃的な貿易合意があったことで、日本銀行は、関税に起因する金融市場の動揺や景気下振れのリスクが和らいだと考え、利上げ再開について前向きな姿勢を意図して市場に伝えた可能性も考えられる。
そうした姿勢がこの先もより明らかになれば、追加利上げ観測から超長期国債の金利が再び上昇傾向を強めるリスクが残されている。
また、夏の参院選を意識して消費税減を主張する声が与党内で燻ぶっており、それが国債需給の悪化観測を通じて、超長期国債の金利上昇につながるリスクが残る。
また、超長期国債の金利上昇は、日本銀行の利上げ姿勢を慎重にさせる要因と考えられる。追加利上げやその観測が超長期国債の金利上昇を促し、金融市場を不安定化させる可能性もあるからだ。
そうした中、27日の日本銀行の国際コンファランスでの植田総裁の講演は、予想よりもタカ派的だった。植田総裁は通商政策などの不確実性が極めて高く、見通しが実現していくか予断を持たずに判断していくと述べたが、一方で、「経済・物価の中心的な見通しが実現していけば、2%の物価安定目標の持続的な達成に向けて利上げを継続する」との見解を示した。
追加利上げを見送った5月1日の金融政策決定会合後の記者会見で植田総裁は、基調的な物価上昇率は「足踏み」「伸び悩む」などの表現を用い、事実上、利上げを一時停止させる考えを示した。そのような慎重な表現は、今回の講演では示されなかったことは見逃せない。
前回の金融政策決定会合以降、4月の相互関税で動揺した金融市場は、落ち着きを取り戻してきている。さらに、米中の電撃的な貿易合意があったことで、日本銀行は、関税に起因する金融市場の動揺や景気下振れのリスクが和らいだと考え、利上げ再開について前向きな姿勢を意図して市場に伝えた可能性も考えられる。
そうした姿勢がこの先もより明らかになれば、追加利上げ観測から超長期国債の金利が再び上昇傾向を強めるリスクが残されている。
また、夏の参院選を意識して消費税減を主張する声が与党内で燻ぶっており、それが国債需給の悪化観測を通じて、超長期国債の金利上昇につながるリスクが残る。
トランプ政権の政策への不信感が底流に
ただし、5月に入ってからの日本の超長期国債の金利急騰の主因は、米国での超長期国債の金利と考えられる。米国市場では関税による物価上昇が意識されるだけでなく、米国経済の安定を損ねかねない関税策、所得減税の恒久化措置に伴う財政悪化懸念、大統領による米連邦準備制度理事会(FRB)への政治介入による国債、通貨の信認低下懸念などを背景に、安全資産である米国債が売られる局面が見られるようになった。
こうしたトランプ政権の経済政策に関する不信感が米国での超長期国債の金利上昇をもたらし、その影響が日本の超長期国債の金利上昇につながっている面があるだろう。
今後も、米国議会で所得減税の恒久化措置を含む関連法案の審議が進む中、米国発で日本の長期国債の金利が上昇するリスクはなお残されている。
こうしたトランプ政権の経済政策に関する不信感が米国での超長期国債の金利上昇をもたらし、その影響が日本の超長期国債の金利上昇につながっている面があるだろう。
今後も、米国議会で所得減税の恒久化措置を含む関連法案の審議が進む中、米国発で日本の長期国債の金利が上昇するリスクはなお残されている。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。