大規模自然災害への警戒から訪日を控える動きが広まる
コメの価格高騰の影響などから、国内の個人消費は低迷した状況にある。1-3月期の実質個人消費は前期比0.0%と、2024年10-12月期の同+0.1%から低迷が続いた。そうした中、GDP統計では輸出に計上されるが、堅調なインバウンド需要が、観光業、小売業などを支えている(図表1)。
ところが、堅調なインバウンド需要が、この夏場に下振れる懸念が生じている。その背景には、日本のある漫画(たつき諒、「私が見た未来」)の影響がある。1999年に出版されたこの漫画は、2011年3月の東日本大震災を予言していたとされる。さらに2021年の最新版では、2025年7月5日に、日本そして太平洋周辺の国々が地震、津波に見舞われると予言されているという。
その予言には科学的根拠は全くないが、アジア諸国では、その影響から大規模自然災害の発生を警戒して夏場の訪日を控える動きが広がっており、それによる経済的な影響が無視できない状況となってきた。
図表1 実質消費活動指数


ところが、堅調なインバウンド需要が、この夏場に下振れる懸念が生じている。その背景には、日本のある漫画(たつき諒、「私が見た未来」)の影響がある。1999年に出版されたこの漫画は、2011年3月の東日本大震災を予言していたとされる。さらに2021年の最新版では、2025年7月5日に、日本そして太平洋周辺の国々が地震、津波に見舞われると予言されているという。
その予言には科学的根拠は全くないが、アジア諸国では、その影響から大規模自然災害の発生を警戒して夏場の訪日を控える動きが広がっており、それによる経済的な影響が無視できない状況となってきた。
訪日を控える動きは香港で最も顕著
訪日を控える動きは、アジア諸国の中で、香港で最も顕著だ。香港ではこの漫画を受けて、著名な現地の風水師も4月以降日本を訪れることを控えるように呼び掛け始めた。彼らから、「日本・韓国の地震リスクが6~8月に高まる」「9月に日本で自然災害のリスクが大きい」などの発言が聞かれている。
日本への旅行需要が急減していることを受けて、香港のグレーターベイ航空は5月13日~10月25日の期間中、香港と仙台の路線で週4往復から週3往復に、香港と徳島の路線で、週3往復から週2往復にそれぞれ減便を行うことを決めた。福岡と中部、新千歳とを結ぶ定期便についても減便を予定している。
訪日を控える動きは、香港が最も顕著であるが、中国や韓国でもそうした動きが目立っている。また、SNSで情報が拡散することで、影響はタイやベトナムにも広がってきているとされる。
旅行データ会社フォワードキーズのデータをもとにしたブルームバーグ社の分析によると、4月以降、香港や台湾、韓国からの日本行き航空券の予約数が減少し、特に香港からの予約は前年同時期比で平均50%減となっているという。また、7月5日を含む6月下旬から7月上旬にかけての週の予約では、同83%減と大幅な落ち込みとなっているという。
日本への旅行需要が急減していることを受けて、香港のグレーターベイ航空は5月13日~10月25日の期間中、香港と仙台の路線で週4往復から週3往復に、香港と徳島の路線で、週3往復から週2往復にそれぞれ減便を行うことを決めた。福岡と中部、新千歳とを結ぶ定期便についても減便を予定している。
訪日を控える動きは、香港が最も顕著であるが、中国や韓国でもそうした動きが目立っている。また、SNSで情報が拡散することで、影響はタイやベトナムにも広がってきているとされる。
旅行データ会社フォワードキーズのデータをもとにしたブルームバーグ社の分析によると、4月以降、香港や台湾、韓国からの日本行き航空券の予約数が減少し、特に香港からの予約は前年同時期比で平均50%減となっているという。また、7月5日を含む6月下旬から7月上旬にかけての週の予約では、同83%減と大幅な落ち込みとなっているという。
インバウンド需要を約5,600億円程度減少させる計算
以上の情報を手掛かりにして、香港を中心にアジア各国で大規模自然災害の発生を警戒して訪日を控える動きが広がることが、日本の経済に与える損失額について大胆に推定してみたい。
試算は以下のような前提のもとで行った。香港の訪日客数は5月に50%減少、6・7月に75%減少、8・9月に50%減少、10月に25%減少、とそれぞれ想定する。さらに、香港に次いで比較的影響が大きいとみられる中華圏の中国、台湾、シンガポール及び韓国の4か国の訪日客数については、香港の減少幅の4分の1、その他のアジアの国々は10分の1と想定する。
このような想定の下で試算すると、アジアからの年間訪日者数の3,100万人程度の約8%に相当する240万人程度が、5月から10月の間の半年間に日本への旅行を見合わせ、それは、インバウンド需要を約5,600億円程度減少させる(図表2)。
試算は以下のような前提のもとで行った。香港の訪日客数は5月に50%減少、6・7月に75%減少、8・9月に50%減少、10月に25%減少、とそれぞれ想定する。さらに、香港に次いで比較的影響が大きいとみられる中華圏の中国、台湾、シンガポール及び韓国の4か国の訪日客数については、香港の減少幅の4分の1、その他のアジアの国々は10分の1と想定する。
このような想定の下で試算すると、アジアからの年間訪日者数の3,100万人程度の約8%に相当する240万人程度が、5月から10月の間の半年間に日本への旅行を見合わせ、それは、インバウンド需要を約5,600億円程度減少させる(図表2)。
図表2 アジア訪日客数減少のシミュレーション


震災に対する備えが進んでいることをアピール
アジア諸国からの訪日控えは、一時的な現象と考えられる。大規模自然災害が実際に起こらないことが確認されていけば、訪日観光客はこの秋以降、元の水準へと戻っていくだろう。
ただし一時的な現象であるとしても、コメの価格高騰などから国内消費が軟調であり、またこの先、トランプ関税の悪影響により輸出の鈍化が見込まれる中、日本経済を支えてきたインバウンド需要が下振れることは、日本経済には相応に打撃となる。今年後半に緩やかな景気後退に陥ることを引き起こす原因の一つとなる可能性もあるだろう。
また、今回の騒動を契機に、日本が地震大国であることが改めて強く認識されれば、アジア諸国で日本への旅行を控える動きが、完全に一時的現象ではなく、部分的には定着してしまう可能性もないとは言えない。
そうしたなか、地震大国である日本では、震災に対する備えも他国よりも進んでいるということを外国人観光客に強くアピールし、震災への懸念を和らげる取り組みを進めることが、彼らの日本離れを回避することに寄与するのではないか。
ただし一時的な現象であるとしても、コメの価格高騰などから国内消費が軟調であり、またこの先、トランプ関税の悪影響により輸出の鈍化が見込まれる中、日本経済を支えてきたインバウンド需要が下振れることは、日本経済には相応に打撃となる。今年後半に緩やかな景気後退に陥ることを引き起こす原因の一つとなる可能性もあるだろう。
また、今回の騒動を契機に、日本が地震大国であることが改めて強く認識されれば、アジア諸国で日本への旅行を控える動きが、完全に一時的現象ではなく、部分的には定着してしまう可能性もないとは言えない。
そうしたなか、地震大国である日本では、震災に対する備えも他国よりも進んでいるということを外国人観光客に強くアピールし、震災への懸念を和らげる取り組みを進めることが、彼らの日本離れを回避することに寄与するのではないか。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。