トランプ政権から離れるイーロン・マスク氏
連邦政府の無駄な支出の削減、連邦職員の削減、規制緩和などを担う米政府効率化省(DOGE)を実質的に率いてきた起業家のイーロン・マスク氏が、トランプ政権から距離を置くことになった。マスク氏は28日に、「特別政府職員の任期が終わりに近づいている」とXに投稿した。
「特別政府職員」は年間の勤務が130日以内と定められており、かねてより5月下旬に期限を迎えると見込まれていた。また、トランプ大統領もイーロン・マスク氏が政権を離れていくことを示唆していた。
一時期は外交政策にまで口を出していたイーロン・マスク氏が、わずか4か月で事実上政権を去ることになったのは、驚くにはあたらないだろう。トランプ大統領への忠誠心には当初から疑問があったうえ、様々な分野で自説を強く押し通す性格の同氏は、トランプ大統領や閣僚らと衝突することは見えていた。実際に、連邦職員の削減を巡りルビオ国務長官らと激しく対立したことが、事実上政権を離れていくきっかけの一つになったと考えられる。
さらに、多くの企業の経営者でありながら、連邦政府の予算や規制政策に関与することは、「利益相反」のリスクが大きかった。この点について国民からの批判を浴び、自身が最高経営責任者(CEO)を務めるテスラ社のEVの不買運動も起きた。
マスク氏は、トランプ政権が成立を目指す、所得減税の恒久化を含む関連法案について、「財政赤字を削減するどころか、さらに拡大し、DOGEチームが行っている取り組みを損なうような巨額の歳出法案には率直に言って失望した」とインタビューで話している。既に、トランプ政権への批判を展開しているのである。共和党が支配する議会が支出削減への熱意に欠けていることに気づいた、とも述べている。
マスク氏は2024年7月に大統領選でトランプ氏支持を表明した。トランプ陣営に総額3億ドル(約440億円)近くを献金し、当選を助けた。その貢献が評価され、トランプ政権ではDOGEの実質トップに起用された。マスク氏は、政治献金も今後は大幅に減らす考えを明らかにしており、トランプ政権と距離を置く考えを明らかにしている。
「特別政府職員」は年間の勤務が130日以内と定められており、かねてより5月下旬に期限を迎えると見込まれていた。また、トランプ大統領もイーロン・マスク氏が政権を離れていくことを示唆していた。
一時期は外交政策にまで口を出していたイーロン・マスク氏が、わずか4か月で事実上政権を去ることになったのは、驚くにはあたらないだろう。トランプ大統領への忠誠心には当初から疑問があったうえ、様々な分野で自説を強く押し通す性格の同氏は、トランプ大統領や閣僚らと衝突することは見えていた。実際に、連邦職員の削減を巡りルビオ国務長官らと激しく対立したことが、事実上政権を離れていくきっかけの一つになったと考えられる。
さらに、多くの企業の経営者でありながら、連邦政府の予算や規制政策に関与することは、「利益相反」のリスクが大きかった。この点について国民からの批判を浴び、自身が最高経営責任者(CEO)を務めるテスラ社のEVの不買運動も起きた。
マスク氏は、トランプ政権が成立を目指す、所得減税の恒久化を含む関連法案について、「財政赤字を削減するどころか、さらに拡大し、DOGEチームが行っている取り組みを損なうような巨額の歳出法案には率直に言って失望した」とインタビューで話している。既に、トランプ政権への批判を展開しているのである。共和党が支配する議会が支出削減への熱意に欠けていることに気づいた、とも述べている。
マスク氏は2024年7月に大統領選でトランプ氏支持を表明した。トランプ陣営に総額3億ドル(約440億円)近くを献金し、当選を助けた。その貢献が評価され、トランプ政権ではDOGEの実質トップに起用された。マスク氏は、政治献金も今後は大幅に減らす考えを明らかにしており、トランプ政権と距離を置く考えを明らかにしている。
ロボティクスの新時代を切り開く
ただし、マスク氏がトランプ政権から離れ、ビジネスにより注力することは、彼が経営するテスラ社などの企業の株主にとっては歓迎されることだ。EVの世界的リーダーとしてのテスラの地位は、比亜迪(BYD)など中国のライバル勢に脅かされている。BYDは先月、欧州での販売台数で初めてテスラを上回った。
マスク氏がトランプ政権に費やす時間を減らすと4月22日に発表して以降、テスラの株価は実に5割以上も上昇している。マスク氏が描く未来のテスラは、EV販売から自動運転車や人型ロボットが活躍するロボティクスの新時代を切り開くことへと移っている。
マスク氏は20日に、テスラが6月末までにテキサス州オースティンで自動運転車の提供を始める予定であることを述べた。1週目には自律型の自動運転車10台が公道を走るところから始まり、その台数は週ごとに何十台も増えていき、数か月後には1000台に達する想定だという。
マスク氏はDOGEでの経験から、政府の浪費体質は簡単には変わらないという結論を得たようだ。そのうえで、米国の生産性を劇的に改善させ、GDP成長率を加速させることが重要だとの結論に至ったと語っている。その切り札となるのがロボティクスなのだろう。
トランプ政権内での経験を活かし、マスク氏が米国経済の生産性向上に貢献するような仕事をビジネス界で行うことができるかどうかに注目したい。
(参考資料)
「マスク氏、米特別政府職員を離任へ 今夜から手続き開始」、2025年5月29日、日本経済新聞電子版
「マスク氏、減税法案に「失望」表明 トランプ氏と意見対立鮮明に」、2025年5月29日、日本経済新聞電子版
“Angry Elon Is Back. That’s Good for Tesla(「怒れるイーロン」復活、テスラにはプラス)”, Wall Street Journal, May 27, 2025
マスク氏がトランプ政権に費やす時間を減らすと4月22日に発表して以降、テスラの株価は実に5割以上も上昇している。マスク氏が描く未来のテスラは、EV販売から自動運転車や人型ロボットが活躍するロボティクスの新時代を切り開くことへと移っている。
マスク氏は20日に、テスラが6月末までにテキサス州オースティンで自動運転車の提供を始める予定であることを述べた。1週目には自律型の自動運転車10台が公道を走るところから始まり、その台数は週ごとに何十台も増えていき、数か月後には1000台に達する想定だという。
マスク氏はDOGEでの経験から、政府の浪費体質は簡単には変わらないという結論を得たようだ。そのうえで、米国の生産性を劇的に改善させ、GDP成長率を加速させることが重要だとの結論に至ったと語っている。その切り札となるのがロボティクスなのだろう。
トランプ政権内での経験を活かし、マスク氏が米国経済の生産性向上に貢献するような仕事をビジネス界で行うことができるかどうかに注目したい。
(参考資料)
「マスク氏、米特別政府職員を離任へ 今夜から手続き開始」、2025年5月29日、日本経済新聞電子版
「マスク氏、減税法案に「失望」表明 トランプ氏と意見対立鮮明に」、2025年5月29日、日本経済新聞電子版
“Angry Elon Is Back. That’s Good for Tesla(「怒れるイーロン」復活、テスラにはプラス)”, Wall Street Journal, May 27, 2025
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。