消費税減税の議論を牽制する石破政権の狙いも
政府が近く取りまとめる「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」の原案に、異例ではあるが、国債市場の安定確保に向けた記述が盛り込まれる見通しだ。ブルームバーグの報道によると、原案では、「国債需給の悪化などによる長期金利のさらなる上昇を招くことのないよう、国内での国債保有を一層促進するための努力を引き続き行う必要がある」と指摘されるという。
足もとでは日本の超長期の国債金利が大幅に上昇するなど、国債市場の不安定な動きが目立っている。こうした記述には、そうした懸念が背景にあるだろう。さらに、与党内で強まる赤字国債発行を通じた積極財政、特に消費税減税の議論を牽制する石破政権の狙いもあるだろう。
今回の骨太の方針では、財政健全化の指標である基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の2025年度黒字化目標についての記述が修正される。足もとの財政環境を反映して、黒字化目標を「2025-2026年度を通じて実現を目指す」と、達成時期の事実上の後ずれを許容する。そのうえで、「必要に応じ、目標年度の再確認を行う」と更なる先送りなども示唆されている。
このような環境のもとで、政府の財政健全化に向けた姿勢がさらに後退すれば、先行きの国債需給の悪化観測から長期金利の上昇リスクを高めかねない。
足もとでは日本の超長期の国債金利が大幅に上昇するなど、国債市場の不安定な動きが目立っている。こうした記述には、そうした懸念が背景にあるだろう。さらに、与党内で強まる赤字国債発行を通じた積極財政、特に消費税減税の議論を牽制する石破政権の狙いもあるだろう。
今回の骨太の方針では、財政健全化の指標である基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の2025年度黒字化目標についての記述が修正される。足もとの財政環境を反映して、黒字化目標を「2025-2026年度を通じて実現を目指す」と、達成時期の事実上の後ずれを許容する。そのうえで、「必要に応じ、目標年度の再確認を行う」と更なる先送りなども示唆されている。
このような環境のもとで、政府の財政健全化に向けた姿勢がさらに後退すれば、先行きの国債需給の悪化観測から長期金利の上昇リスクを高めかねない。
日銀は国債買い入れ減額措置の到着点について示唆するか
国債需給や長期金利上昇への懸念を骨太の方針に盛り込むことになれば、それは日本銀行が金融政策正常化の一環で進めている、国債買い入れ減額計画にも影響を与えることになるだろう。
日本銀行は6月16、17日の会合で、昨年7月に決めた2026年1-3月までの国債買い入れ減額計画の中間評価と、2026年4月以降の買い入れ方針を議論する。日本銀行の国債買い入れ減額措置や先行きの方針を受けた国債需給の悪化への不安も、足もとでの長期金利上昇の一因になっている可能性がある。
現在の計画では、日本銀行の毎月の長期国債買い入れ額を昨年7月末の5.7兆円程度から毎四半期に4,000億円程度ずつ減らし、来年1-3月に月間2.9兆円程度とする。植田総裁は3日の参院財政金融委員会で、来年4月以降の国債買い入れ方針について、市場参加者からは「国債買い入れ額を減らしていくことが適切という声が多く聞かれた」と説明している。この説明は、日本銀行が国債買い入れ額の削減を今後も進める考えを示唆したものと受け止められ、国債需給悪化への懸念を高める可能性もある。
ただし、5月に開かれた日本銀行の「債券市場参加者会合」の議事録を見ると、市場参加者の意見はまちまちである。多くの参加者は、どの程度の水準で減額措置を停止するかについて意見を述べている。その水準は月間買い入れ額で1兆円程度、1~2兆円程度、1.5~2兆円程度、2兆円程度とさまざまである。
市場参加者は、国債買い入れ額の減額ペースの増減以上に、どの水準で減額を停止するかに、より大きな関心を持っているのである。日本銀行には、そうした市場のニーズに、直接あるいは間接的に応えるようなガイダンスを示すことが求められるだろう。
また、国債買い入れ減額措置の下限、いわゆる着地点について示唆することで、将来にわたって国債需給が急速に悪化を続けるとの懸念を市場に高めないようにすることは、政府からも求められるのではないか。
国債市場の安定維持に向けて、政府の国債発行策と日本銀行の国債保有残高削減が連携し、市場にポジティブなメッセージを送ることができるかどうかに注目したい。
(参考資料)
「異例の『国際安定発行』に言及、国内保有の促進をー骨太の方針原案」、2025年6月3日、ブルームバーグ
日本銀行は6月16、17日の会合で、昨年7月に決めた2026年1-3月までの国債買い入れ減額計画の中間評価と、2026年4月以降の買い入れ方針を議論する。日本銀行の国債買い入れ減額措置や先行きの方針を受けた国債需給の悪化への不安も、足もとでの長期金利上昇の一因になっている可能性がある。
現在の計画では、日本銀行の毎月の長期国債買い入れ額を昨年7月末の5.7兆円程度から毎四半期に4,000億円程度ずつ減らし、来年1-3月に月間2.9兆円程度とする。植田総裁は3日の参院財政金融委員会で、来年4月以降の国債買い入れ方針について、市場参加者からは「国債買い入れ額を減らしていくことが適切という声が多く聞かれた」と説明している。この説明は、日本銀行が国債買い入れ額の削減を今後も進める考えを示唆したものと受け止められ、国債需給悪化への懸念を高める可能性もある。
ただし、5月に開かれた日本銀行の「債券市場参加者会合」の議事録を見ると、市場参加者の意見はまちまちである。多くの参加者は、どの程度の水準で減額措置を停止するかについて意見を述べている。その水準は月間買い入れ額で1兆円程度、1~2兆円程度、1.5~2兆円程度、2兆円程度とさまざまである。
市場参加者は、国債買い入れ額の減額ペースの増減以上に、どの水準で減額を停止するかに、より大きな関心を持っているのである。日本銀行には、そうした市場のニーズに、直接あるいは間接的に応えるようなガイダンスを示すことが求められるだろう。
また、国債買い入れ減額措置の下限、いわゆる着地点について示唆することで、将来にわたって国債需給が急速に悪化を続けるとの懸念を市場に高めないようにすることは、政府からも求められるのではないか。
国債市場の安定維持に向けて、政府の国債発行策と日本銀行の国債保有残高削減が連携し、市場にポジティブなメッセージを送ることができるかどうかに注目したい。
(参考資料)
「異例の『国際安定発行』に言及、国内保有の促進をー骨太の方針原案」、2025年6月3日、ブルームバーグ
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。