実質賃金は4か月連続で下落
厚生労働省が5日に発表した4月分毎月勤労統計で、現金給与総額は前年同月比+2.3%、実質賃金上昇率(持ち家の帰属家賃を除く消費者物価指数・総合で実質化)は同-1.8%となった。実質賃金の前年同月比での下落は4か月連続で、物価上昇に賃金上昇が追い付かず、家計が圧迫される状況が続いている(図表)。
この先は、春闘での賃上げ率の妥結の影響が次第に反映されることで、賃金上昇率が緩やかに高まる一方、コメの価格高騰の一巡や円安修正による輸入物価の低下でエネルギー、食料品価格の上昇率が低下することが見込まれる。その結果、実質賃金上昇率は次第に下落幅を縮小していくことが予想されるが、前年同月比でプラスに転じるのは、今年年末近くまでずれ込むのではないか。
この先は、春闘での賃上げ率の妥結の影響が次第に反映されることで、賃金上昇率が緩やかに高まる一方、コメの価格高騰の一巡や円安修正による輸入物価の低下でエネルギー、食料品価格の上昇率が低下することが見込まれる。その結果、実質賃金上昇率は次第に下落幅を縮小していくことが予想されるが、前年同月比でプラスに転じるのは、今年年末近くまでずれ込むのではないか。
図表 実質賃金上昇率の推移


さらに拡大する大企業と中小企業の賃金水準格差
連合が5月に公表した2025年春闘の第5回集計によると、賃上げ率の平均は+5.32%、毎月勤労統計の所定内賃金に対応するベアは+3.75%となった。ベアは、組合員数300人以上の大企業では+3.76%、300人未満の中小企業では+3.61%だった。両者の差は、前年の約0.4%ポイントからは縮小したものの、引き続き大企業のベアの方が中小企業のベアよりも高い状況が続いている。
連合は2025年の春闘での賃上げ要求の方針で、大企業については5%以上、中小企業については6%以上とし、両者の賃金格差の縮小を目指したが、実際には賃金水準の格差はさらに拡大する方向にある。
連合は2025年の春闘での賃上げ要求の方針で、大企業については5%以上、中小企業については6%以上とし、両者の賃金格差の縮小を目指したが、実際には賃金水準の格差はさらに拡大する方向にある。
小規模企業の賃上げに遅れ
連合による春闘の集計の対象となっている中小企業は組合員数300人未満と、比較的規模の大きい中小企業を含んでいるが、賃上げの環境がより厳しいのは、その中でも規模が小さい小規模企業だろう。
日本商工会議所が6月4日に発表した「中小企業の賃金改定に関する調査」集計結果によると、2025年の中小企業の賃上げ率は+4.03%と2024年の+3.62%を上回った。しかし、賃上げを実施あるいは予定しているとの回答割合は69.6%と2024年の74.3%を下回っており、賃上げに慎重な姿勢が強まっているように見える。特に従業員数20人以下の小規模企業では、その割合は57.7%にとどまった。
中小企業の賃上げ率は、その規模が小さくなるほど下振れる傾向がある。さらに、都市部よりも地方での賃上げ率が低くなる傾向がある。その結果、地方の小規模企業の賃金上昇率が最も低い。その2025年の賃上げ率は+3.55%と全体平均よりも0.5%ポイント程度低くなっている。
また地方の小規模企業の31.0%と3割以上は、賃上げを実施していない、あるいは賃下げを実施していると回答している。
日本商工会議所が6月4日に発表した「中小企業の賃金改定に関する調査」集計結果によると、2025年の中小企業の賃上げ率は+4.03%と2024年の+3.62%を上回った。しかし、賃上げを実施あるいは予定しているとの回答割合は69.6%と2024年の74.3%を下回っており、賃上げに慎重な姿勢が強まっているように見える。特に従業員数20人以下の小規模企業では、その割合は57.7%にとどまった。
中小企業の賃上げ率は、その規模が小さくなるほど下振れる傾向がある。さらに、都市部よりも地方での賃上げ率が低くなる傾向がある。その結果、地方の小規模企業の賃金上昇率が最も低い。その2025年の賃上げ率は+3.55%と全体平均よりも0.5%ポイント程度低くなっている。
また地方の小規模企業の31.0%と3割以上は、賃上げを実施していない、あるいは賃下げを実施していると回答している。
格差縮小で賃金の底上げを目指す
昨年、今年と春闘の賃金上昇率は高水準となったが、ばらつきが目立つ。賃金上昇率のばらつきは、企業規模ごとによる経営環境の格差、都市部と地方部の経済格差などを反映している。
実質賃金上昇を高め、持続的な個人消費の拡大を実現するためには、こうした日本経済の構造的な格差を縮小させる中で、中小・零細企業の賃上げ率を高め、全体の賃金の底上げを図ることが重要だろう。
賃上げの障害となっている下請け企業の適正な価格転嫁を促すことも重要であるが、それ以上に、中小・零細企業の労働生産性を向上させる取り組みと支援が重要となる。
実質賃金上昇を高め、持続的な個人消費の拡大を実現するためには、こうした日本経済の構造的な格差を縮小させる中で、中小・零細企業の賃上げ率を高め、全体の賃金の底上げを図ることが重要だろう。
賃上げの障害となっている下請け企業の適正な価格転嫁を促すことも重要であるが、それ以上に、中小・零細企業の労働生産性を向上させる取り組みと支援が重要となる。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。