利下げは終わりに差し掛かっている
欧州中央銀行(ECB)は5日に開いた理事会で、政策金利の中銀預金金利を0.25%引き下げ2.0%とした。利下げは7会合連続となる。トランプ関税がユーロ圏経済に打撃を与えていることなどを背景に、景気下支えを狙って金融緩和を進めた。またインフレ率も低下傾向にあり、それも追加利下げを後押ししている。
5月のユーロ圏インフレ率は前年同月比+1.9%に低下し、8か月ぶりに2%を下回った。サービス分野での価格上昇圧力が和らいだことが、インフレ率低下の背景にある。ECBが5日に発表した四半期経済予測では、2026年のインフレ率は+1.6%と目標の+2%を下回る水準が予想されている。ただしラガルド総裁によると、エネルギー価格の下落やユーロ高が短期的にはインフレを押し下げるが、インフレ率は2027年には目標水準に戻る見込みだ。物価上昇率の基調は、ECBの目標水準に収まってきたのである。実際、ECBは声明文で、「インフレ率は現在、中期目標である2%付近にある」との認識を示している。
他方でラガルド総裁は、経済のリスクについて「依然として下振れ方向に傾いている」との認識を示している。ただ、労働市場の堅調さや所得の増加、資金調達環境の緩和が「不安定な世界経済環境の影響に家計や企業が耐える助けとなるはずだ」とも述べている。
現状では物価上昇率は概ね目標水準にある一方、景気についてはなお下方リスクが残されているものの、そのリスクは小さくなってきたとの認識だ。ECBは、この先小幅に追加利下げを行えば、政策金利は景気、物価に対して中立となる水準に達すると考えているのだろう。
実際ラガルド総裁は、ECBは利下げ局面の終わりに差し掛かっているとの見解を示した。総裁は、「新型コロナウイルス、ウクライナでの不当な戦争、エネルギー危機といった複合的な衝撃に対応してきた金融政策サイクルの終わりに差し掛かっているところだ」「現在の金利水準は、今後直面する不透明な状況を乗り切る上で適切な位置にあると考えている」と語っている。
5月のユーロ圏インフレ率は前年同月比+1.9%に低下し、8か月ぶりに2%を下回った。サービス分野での価格上昇圧力が和らいだことが、インフレ率低下の背景にある。ECBが5日に発表した四半期経済予測では、2026年のインフレ率は+1.6%と目標の+2%を下回る水準が予想されている。ただしラガルド総裁によると、エネルギー価格の下落やユーロ高が短期的にはインフレを押し下げるが、インフレ率は2027年には目標水準に戻る見込みだ。物価上昇率の基調は、ECBの目標水準に収まってきたのである。実際、ECBは声明文で、「インフレ率は現在、中期目標である2%付近にある」との認識を示している。
他方でラガルド総裁は、経済のリスクについて「依然として下振れ方向に傾いている」との認識を示している。ただ、労働市場の堅調さや所得の増加、資金調達環境の緩和が「不安定な世界経済環境の影響に家計や企業が耐える助けとなるはずだ」とも述べている。
現状では物価上昇率は概ね目標水準にある一方、景気についてはなお下方リスクが残されているものの、そのリスクは小さくなってきたとの認識だ。ECBは、この先小幅に追加利下げを行えば、政策金利は景気、物価に対して中立となる水準に達すると考えているのだろう。
実際ラガルド総裁は、ECBは利下げ局面の終わりに差し掛かっているとの見解を示した。総裁は、「新型コロナウイルス、ウクライナでの不当な戦争、エネルギー危機といった複合的な衝撃に対応してきた金融政策サイクルの終わりに差し掛かっているところだ」「現在の金利水準は、今後直面する不透明な状況を乗り切る上で適切な位置にあると考えている」と語っている。
ECBは9月に最後の利下げとの見方も関税は大きなリスク
次回7月の理事会ではECBは利下げを見送り、9月の理事会で0.25%の最後の追加利下げを実施して、政策金利は1.75%で下げ止まるとの見方が金融市場のコンセンサスとなっている。
関税協議が難航する欧州連合(EU)に対してトランプ政権は、関税率を50%に引き上げるとしており、その期限を7月9日に設定している。実際に50%の関税が課せられれば、ユーロ圏の景気の下方リスクは大きく高まり、7月24日の次回ECB理事会で利下げの可能性が出てくる。また、政策金利が1.75%で下げ止まらずに、さらに引き下げられる可能性も出てくるだろう。「利下げ局面の終わり」との認識は現時点での暫定的な判断でしかなく、関税の行方次第では修正される。
一方、新規失業保険申請件数が昨年10月以来の高水準まで上昇するなど、雇用関連の指標の弱さを反映して、米連邦準備制度理事会(FRB)は9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを再開するとの見方も、金融市場では強まってきている。
今年後半は、ECBの利下げ終了、FRBの利下げ再開、日本銀行の利上げ再開など、主要中央銀行の金融政策はまちまちの局面に入っていくことが予想される。そうした政策のギャップが、国際資金フローを不安定化させ、金融市場全体のボラティリティ上昇につながる可能性があるだろう。
関税協議が難航する欧州連合(EU)に対してトランプ政権は、関税率を50%に引き上げるとしており、その期限を7月9日に設定している。実際に50%の関税が課せられれば、ユーロ圏の景気の下方リスクは大きく高まり、7月24日の次回ECB理事会で利下げの可能性が出てくる。また、政策金利が1.75%で下げ止まらずに、さらに引き下げられる可能性も出てくるだろう。「利下げ局面の終わり」との認識は現時点での暫定的な判断でしかなく、関税の行方次第では修正される。
一方、新規失業保険申請件数が昨年10月以来の高水準まで上昇するなど、雇用関連の指標の弱さを反映して、米連邦準備制度理事会(FRB)は9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを再開するとの見方も、金融市場では強まってきている。
今年後半は、ECBの利下げ終了、FRBの利下げ再開、日本銀行の利上げ再開など、主要中央銀行の金融政策はまちまちの局面に入っていくことが予想される。そうした政策のギャップが、国際資金フローを不安定化させ、金融市場全体のボラティリティ上昇につながる可能性があるだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。