所得減税の恒久化措置を含む関連法案に海外企業・投資家への課税強化が含まれる
米国の上院議会は現在、所得減税の恒久化措置を含む関連法案の審議を進めている。与党共和党と政府は7月中の法案可決を目指している。
この関連法案には、米国及び世界の金融市場を揺るがしかねない課税強化措置が盛り込まれている。それは、米国が不公正な税制を採用していると見なす国の企業や投資家に対し、追加課税を認めるものだ。内国歳入法に新たに追加されるこの899条により、外国人・企業が所有する米国内企業、米国に支店を持つ多国籍企業、投資家が対象となる。
外国人投資家が同法案を強く警戒しているのは、この899条には、米国の株式と一部社債の配当および利息に対する課税を4年間にわたり毎年5%ずつ引き上げるという措置が含まれているためだ。また、現在非課税となっている海外の政府系ファンドが保有する米国のポートフォリオにも課税することになるという。
この関連法案には、米国及び世界の金融市場を揺るがしかねない課税強化措置が盛り込まれている。それは、米国が不公正な税制を採用していると見なす国の企業や投資家に対し、追加課税を認めるものだ。内国歳入法に新たに追加されるこの899条により、外国人・企業が所有する米国内企業、米国に支店を持つ多国籍企業、投資家が対象となる。
外国人投資家が同法案を強く警戒しているのは、この899条には、米国の株式と一部社債の配当および利息に対する課税を4年間にわたり毎年5%ずつ引き上げるという措置が含まれているためだ。また、現在非課税となっている海外の政府系ファンドが保有する米国のポートフォリオにも課税することになるという。
グローバルな最低法人税率制度への対抗と所得減税恒久化の財源確保が狙い
この条項で不公正な税制として主に想定されているのは、グローバルな最低法人税率制度に基づく枠組みである経済協力開発機構(OECD)の軽課税所得ルール(UTPR)などを通じて、協調的な国際課税制度を構築することを支持している国だ。米国のビッグテック企業の海外ビジネスへの課税強化をもたらすこの国際的枠組みに、トランプ政権は強く反対している。
さらに、この条項には、所得減税を恒久化した場合の財源を賄う狙いもある。保守系シンクタンク「アメリカン・コンパス」は、899条に基づく課税強化は今後10年間で2兆ドル(約287兆円)の税収増につながると試算している。
他方、議会予算局(CBO)が6月4日に示した最新の試算値によると、減税恒久化措置を含む関連法案は、10年間で財政赤字を計2.4兆ドル(約340兆円)押し上げる、としている。その相当部分は899条に基づく課税強化によって賄うことが可能となる計算だ。
財政健全化を重視する共和党強硬派は、関連法案が財政赤字を拡大させると批判している。彼らを説得してトランプ政権の選挙公約である減税恒久化を含む同法案を可決させるためには、財源の確保をアピールすることが必要となる。
さらに、この条項には、所得減税を恒久化した場合の財源を賄う狙いもある。保守系シンクタンク「アメリカン・コンパス」は、899条に基づく課税強化は今後10年間で2兆ドル(約287兆円)の税収増につながると試算している。
他方、議会予算局(CBO)が6月4日に示した最新の試算値によると、減税恒久化措置を含む関連法案は、10年間で財政赤字を計2.4兆ドル(約340兆円)押し上げる、としている。その相当部分は899条に基づく課税強化によって賄うことが可能となる計算だ。
財政健全化を重視する共和党強硬派は、関連法案が財政赤字を拡大させると批判している。彼らを説得してトランプ政権の選挙公約である減税恒久化を含む同法案を可決させるためには、財源の確保をアピールすることが必要となる。
米国金融市場の動揺を助長させかねない
トランプ政権による4月の相互関税導入をきっかけに、海外投資家は米国の金融資産を保有することのリスクを認識し、米国金融資産から離れる傾向が生じている。米国の財政赤字拡大による長期金利上昇リスク、トランプ政権によるドル安政策への懸念なども、そうした傾向を後押ししている。
まさにそうした時期に、米国の株式・社債への配当、利息への課税が強化されれば、海外投資家の米国離れはさらに助長され、米国及び世界の金融市場を揺るがしかねない。
899条が米国債にも適用されるかどうかは不明だ。米国債の利息は通常、海外投資家に対しては非課税だが、これを課税対象とすることは大きな政策転換となる。またその場合には、海外投資家による米国離れと金融市場の動揺リスクはさらに高まるだろう。ドル安、債券安、株安のトリプル安を生じさせかねない。
まさにそうした時期に、米国の株式・社債への配当、利息への課税が強化されれば、海外投資家の米国離れはさらに助長され、米国及び世界の金融市場を揺るがしかねない。
899条が米国債にも適用されるかどうかは不明だ。米国債の利息は通常、海外投資家に対しては非課税だが、これを課税対象とすることは大きな政策転換となる。またその場合には、海外投資家による米国離れと金融市場の動揺リスクはさらに高まるだろう。ドル安、債券安、株安のトリプル安を生じさせかねない。
高まる米国ビジネスのリスクと海外企業・投資家の米国離れ
さらにこの899条は、海外企業による米国への直接投資や米国内で活動する海外企業への課税強化にもなると見られる。トランプ大統領は、「海外企業が米国でビジネスしたければ、輸出ではなく米国内に投資をし、米国で生産しろ」と主張している。そうすれば、関税による打撃は受けない、との説明だ。
しかし、この899条のもとでは、米国に直接投資を行い、現地生産を拡大しても、税制上、米国企業に対して不利になる可能性が出てくる。対象となる海外企業は米国での法人税率に毎年5%ずつ、最大で20%上乗せされるという。これは、USスチールの買収計画を進める日本製鉄にとっても大きな懸念となるだろう。
関税に加えて投資などへの課税が強化されるのであれば、海外企業にとって米国ビジネスの不確実性とリスクは高まり、ますます米国離れが進むのではないか。これは、米国経済に大きな打撃となってしまう。トランプ政権は、米国経済と金融市場の安定を自ら損ね、その国際競争力を低下させる政策を進めている。
899条が上院の審議のなかで削除、あるいは大幅に見直される可能性はある。しかし仮に大幅に修正されずに内国歳入法への899条の追加を含む関連法案が可決されれば、米国経済、金融市場のリスクは一段と強まるだろう。
(参考資料)
「トランプ政権の対米投資課税強化にウォール街が警鐘」、2025年5月30日、NIKKEI FT the World
「米大型法案に潜む報復税という「爆弾」 ジリアン・テット-コラムニスト」、2025年6月3日、NIKKEI FT the World
「トランプ減税法案、対米投資の課税強化条項が波紋 個人や企業が対象」、2025年5月31日、日本経済新聞電子版
「トランプ課税、次の地雷は「899」 外国の企業・投資家に増税案」、2025年6月8日、日本経済新聞電子版
しかし、この899条のもとでは、米国に直接投資を行い、現地生産を拡大しても、税制上、米国企業に対して不利になる可能性が出てくる。対象となる海外企業は米国での法人税率に毎年5%ずつ、最大で20%上乗せされるという。これは、USスチールの買収計画を進める日本製鉄にとっても大きな懸念となるだろう。
関税に加えて投資などへの課税が強化されるのであれば、海外企業にとって米国ビジネスの不確実性とリスクは高まり、ますます米国離れが進むのではないか。これは、米国経済に大きな打撃となってしまう。トランプ政権は、米国経済と金融市場の安定を自ら損ね、その国際競争力を低下させる政策を進めている。
899条が上院の審議のなかで削除、あるいは大幅に見直される可能性はある。しかし仮に大幅に修正されずに内国歳入法への899条の追加を含む関連法案が可決されれば、米国経済、金融市場のリスクは一段と強まるだろう。
(参考資料)
「トランプ政権の対米投資課税強化にウォール街が警鐘」、2025年5月30日、NIKKEI FT the World
「米大型法案に潜む報復税という「爆弾」 ジリアン・テット-コラムニスト」、2025年6月3日、NIKKEI FT the World
「トランプ減税法案、対米投資の課税強化条項が波紋 個人や企業が対象」、2025年5月31日、日本経済新聞電子版
「トランプ課税、次の地雷は「899」 外国の企業・投資家に増税案」、2025年6月8日、日本経済新聞電子版
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。