トランプ大統領が日本製鉄とUSスチールの「パートナーシップ」を承認
トランプ大統領は13日(米国時間)に、日本製鉄によるUSスチール買収計画について、バイデン前大統領が出した中止命令の内容を修正する大統領令を発表した。それは、バイデン前大統領が買収を阻止するとしていた内容を変更するものだ。ただし、買収承認には、米政府が提示した案で「国家安全保障協定」を結ぶことが条件になるとした。
これを受けて日本製鉄は14日(日本時間)に、トランプ大統領が日本製鉄とUSスチールの「パートナーシップ」を承認した、と発表した。朝日新聞の報道によると、USスチールの普通株を日本製鉄が100%取得する完全子会社化を認める内容だという。一方で、重要事項に拒否権を持つ「黄金株」を米政府に発行する。
前日にはトランプ大統領は「51%の所有権は米国人にある」と話しており、それに対して、日本製鉄側は、採算性と経営の自由度を確保するため、完全子会社化の考えを変えない姿勢を表明し、両者の意見にはなお隔たりがあった。
1日の間に両者が折り合ったとすると、その背景はよくわからないものの、一つの可能性としては、トランプ大統領の「51%の所有権は米国人にある」との発言は、日本製鉄がUSスチールの過半数の株式を取得することを認めないという意味ではなく、米国政府がUSスチールの経営に影響力を持ち続けることを象徴的に表現したものであったことが考えられる。あるいは、トランプ大統領が日本製鉄に過半数の株式取得を認める方向で譲歩したのかもしれない。
他方、日本製鉄は、「買収は完全子会社が前提」との姿勢を堅持してきたが、米国政府による黄金株の保有を認めると、100%の株式取得とはならない。ただし、黄金株が1株なのであれば、100%の株式取得にかなり近いものとなる。また、黄金株は種類株の一種であることから、米国政府が黄金株を保有しても、普通株では100%取得することになるため、日本製鉄がそれを受け入れた可能性も考えられる。
日本製鉄にとって、USスチールの過半数の株式取得を認められないのであれば、買収計画を白紙にする覚悟であったと推察されるが、厳密な意味での100%の株式取得にはこだわらなかった可能性も考えられる。
これを受けて日本製鉄は14日(日本時間)に、トランプ大統領が日本製鉄とUSスチールの「パートナーシップ」を承認した、と発表した。朝日新聞の報道によると、USスチールの普通株を日本製鉄が100%取得する完全子会社化を認める内容だという。一方で、重要事項に拒否権を持つ「黄金株」を米政府に発行する。
前日にはトランプ大統領は「51%の所有権は米国人にある」と話しており、それに対して、日本製鉄側は、採算性と経営の自由度を確保するため、完全子会社化の考えを変えない姿勢を表明し、両者の意見にはなお隔たりがあった。
1日の間に両者が折り合ったとすると、その背景はよくわからないものの、一つの可能性としては、トランプ大統領の「51%の所有権は米国人にある」との発言は、日本製鉄がUSスチールの過半数の株式を取得することを認めないという意味ではなく、米国政府がUSスチールの経営に影響力を持ち続けることを象徴的に表現したものであったことが考えられる。あるいは、トランプ大統領が日本製鉄に過半数の株式取得を認める方向で譲歩したのかもしれない。
他方、日本製鉄は、「買収は完全子会社が前提」との姿勢を堅持してきたが、米国政府による黄金株の保有を認めると、100%の株式取得とはならない。ただし、黄金株が1株なのであれば、100%の株式取得にかなり近いものとなる。また、黄金株は種類株の一種であることから、米国政府が黄金株を保有しても、普通株では100%取得することになるため、日本製鉄がそれを受け入れた可能性も考えられる。
日本製鉄にとって、USスチールの過半数の株式取得を認められないのであれば、買収計画を白紙にする覚悟であったと推察されるが、厳密な意味での100%の株式取得にはこだわらなかった可能性も考えられる。
「国家安全保障協定」を米政府との間で締結
さらに、日本製鉄は買収計画を巡り、安全保障上の懸念を払拭するための「国家安全保障協定」を米政府との間で結んだとされる。協定の具体的な内容は明らかではないが、米国の鉄鋼会社の経営権が海外企業に移ることが、軍事装備品の生産などへの支障となり、国家の安全保障上のリスクを高めることを回避する狙いで締結される。そのもとでは、米国内での生産や雇用維持などが求められる可能性があるとみられる。また、米国政府の黄金株の保有も、この協定に規定されている可能性がある。
黄金株や国家安全保障協定は、買収後のUSスチールの経営を縛るものとなる可能性はあるが、米国市場でのシェア拡大を目指す日本製鉄は、それを最終的に受け入れた可能性がある。また、黄金株や国家安全保障協定は、海外企業によるUSスチール買収に難色を示す米国民などを納得させるための形式的なものであり、その実効性は高くないと考えて受け入れた可能性もあるだろう。
黄金株や国家安全保障協定は、買収後のUSスチールの経営を縛るものとなる可能性はあるが、米国市場でのシェア拡大を目指す日本製鉄は、それを最終的に受け入れた可能性がある。また、黄金株や国家安全保障協定は、海外企業によるUSスチール買収に難色を示す米国民などを納得させるための形式的なものであり、その実効性は高くないと考えて受け入れた可能性もあるだろう。
日本企業の米国ビジネスへの不信感は払拭されない
日本製鉄は、2028年までに総額で約110億ドル(約1兆5,800億円)をUSスチールに投資する計画を示している。まだ完全ではないものの、日本製鉄によるUSスチールの買収については、ようやく実現の方向が見えてきたと考えてよいだろう。
実現すれば、米国企業の買収を含めた日本企業あるいは海外企業の対米直接投資を促す効果が一定程度はあるだろう。しかし、トランプ政権は一方的な関税策を維持しており、自動車関税については米国での投資の拡大を狙ってさらなる引き上げも検討している。海外企業にとっては、トランプ政権のもと、米国ビジネスが非常にリスクの高いものになったとの認識は変わらないとみられる。日本製鉄のUSスチール買収をきっかけに、日本企業あるいはその他の国の企業が米国への投資を一気に拡大させることにはならないだろう。
また、買収成立が現在進められている日米関税協議に与える影響も限定的であると考えられる。日本政府は、買収を通じて日本企業が対米投資をさらに拡大させ、米国経済に貢献することをアピールするだろうが、トランプ大統領にとっては、投資拡大よりも米国貿易赤字の縮小の方が、優先順位が高いためだ。
(参考資料)
「日鉄、「USスチール買収は成立へ」 米政府と国家安全保障協定を締結」、2025年6月14日、日本経済新聞電子版
「日鉄のUSスチール完全子会社化をトランプ氏承認 米政府には黄金株」、2025年6月14日、朝日新聞速報ニュース
実現すれば、米国企業の買収を含めた日本企業あるいは海外企業の対米直接投資を促す効果が一定程度はあるだろう。しかし、トランプ政権は一方的な関税策を維持しており、自動車関税については米国での投資の拡大を狙ってさらなる引き上げも検討している。海外企業にとっては、トランプ政権のもと、米国ビジネスが非常にリスクの高いものになったとの認識は変わらないとみられる。日本製鉄のUSスチール買収をきっかけに、日本企業あるいはその他の国の企業が米国への投資を一気に拡大させることにはならないだろう。
また、買収成立が現在進められている日米関税協議に与える影響も限定的であると考えられる。日本政府は、買収を通じて日本企業が対米投資をさらに拡大させ、米国経済に貢献することをアピールするだろうが、トランプ大統領にとっては、投資拡大よりも米国貿易赤字の縮小の方が、優先順位が高いためだ。
(参考資料)
「日鉄、「USスチール買収は成立へ」 米政府と国家安全保障協定を締結」、2025年6月14日、日本経済新聞電子版
「日鉄のUSスチール完全子会社化をトランプ氏承認 米政府には黄金株」、2025年6月14日、朝日新聞速報ニュース
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。