日米首脳会談でも関税を巡る両国の溝は埋まらず
6月16日(カナダ時間)にカナダで開かれていたG7サミット(主要7か国首脳会談)に合わせて、日米首脳会談が開かれた。最大の注目点は、膠着する日米関税協議が進むきっかけになるか、あるいはこの場で一気に合意に至るか、という点であった。
しかし会談後の石破首相の説明では、詳細は明らかではないものの、両者の意見はすれ違いに終わった可能性が考えられる。日本は、経済に大きな打撃となっている25%の自動車関税の撤廃あるいは大幅引き下げを最優先と位置づけている。
他方米国は、2国間関税協議の対象は90日間の一時停止期間後の相互関税の上乗せ部分に限られるとの認識であり、協議開始当初から両者の見解はすれ違ったままだ。日米首脳会談は、そうしたトランプ大統領の認識を変えさせるチャンスでもあったが、すべての国を対象にする自動車など分野別関税を、2国間協議で修正することは難しい。
他方、首脳会談で石破首相は、トランプ大統領から、関税策を為替政策や安全保障政策と結び付ける形で、より強硬な要求をされた可能性もあるが、それについては明らかになっていない。
しかし会談後の石破首相の説明では、詳細は明らかではないものの、両者の意見はすれ違いに終わった可能性が考えられる。日本は、経済に大きな打撃となっている25%の自動車関税の撤廃あるいは大幅引き下げを最優先と位置づけている。
他方米国は、2国間関税協議の対象は90日間の一時停止期間後の相互関税の上乗せ部分に限られるとの認識であり、協議開始当初から両者の見解はすれ違ったままだ。日米首脳会談は、そうしたトランプ大統領の認識を変えさせるチャンスでもあったが、すべての国を対象にする自動車など分野別関税を、2国間協議で修正することは難しい。
他方、首脳会談で石破首相は、トランプ大統領から、関税策を為替政策や安全保障政策と結び付ける形で、より強硬な要求をされた可能性もあるが、それについては明らかになっていない。
トランプ政権は自ら関税策をいずれ見直しか
そもそも、短い時間しかない日米首脳会談で、両国が関税協議の合意を目指したのかどうかも疑わしい。米国は主要な貿易赤字国に対しては、90日間の相互関税の上乗せ分の一時停止期間を延長し2か国協議を続ける方向に傾いているとみられる。また日本は、農産物の輸入拡大や関税引き下げなどで安易な譲歩をすることで国益を損ねることはしないという姿勢だ。
米国内では移民政策を中心にトランプ政権の政策に反対するデモが広がりを見せている。今後は、関税による物価上昇が新たなトランプ政権批判に加わってくるだろう。トランプ政権としては、来年11月の中間選挙を視野に入れて、そうした世論を無視できない。さらに関税策を違法とする司法の判断も圧力となっていくことから、トランプ政権はいずれ、自ら関税策の縮小方向での見直しを余儀なくされるのではないか。
秋頃までにそのような方向に事態が進むと見ておきたい。日本は、関税協議で安易に米国に譲歩せずに、米国の政策転換を待つのが得策だろう。
米国内では移民政策を中心にトランプ政権の政策に反対するデモが広がりを見せている。今後は、関税による物価上昇が新たなトランプ政権批判に加わってくるだろう。トランプ政権としては、来年11月の中間選挙を視野に入れて、そうした世論を無視できない。さらに関税策を違法とする司法の判断も圧力となっていくことから、トランプ政権はいずれ、自ら関税策の縮小方向での見直しを余儀なくされるのではないか。
秋頃までにそのような方向に事態が進むと見ておきたい。日本は、関税協議で安易に米国に譲歩せずに、米国の政策転換を待つのが得策だろう。
関税策が行き詰まればドル安政策が「第2の矢」に
ただし、関税策が行き詰っても、トランプ政権は「第2の矢」として、ドル安政策を通じて貿易赤字の縮小を引き続き目指す可能性がある。その際、与しやすい日本に円安是正とドル安政策への協力を求めることも考えられる。日米協調為替介入を求める、あるいは日本銀行の利上げを通じて円安是正を求める可能性があるだろう。
他方米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げを通じて景気浮揚とともにドル安誘導を図る可能性がある。そうした動きは、利下げに慎重な来年5月のパウエル議長の任期終了後に本格化するだろう。トランプ大統領は、早期にパウエル議長の後任人事を発表し、利下げ圧力を強めるとともに、パウエル議長のレームダック化を図る考えだろう。後任には関税政策で重要な役割を果たしているベッセント財務長官の名前も挙がっている。仮に彼が指名されるのであれば、それは、トランプ政権の経済政策の中心が、関税政策や減税政策から、金融緩和とそれを通じたドル安政策に移っていくことを示唆するのではないか。関税策の次にはドル安政策が「第2の矢」として控えている可能性を、日本政府は認識しておく必要があるだろう。トランプ政権による日本経済のリスクはなかなか解消されないとみられる。
他方米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げを通じて景気浮揚とともにドル安誘導を図る可能性がある。そうした動きは、利下げに慎重な来年5月のパウエル議長の任期終了後に本格化するだろう。トランプ大統領は、早期にパウエル議長の後任人事を発表し、利下げ圧力を強めるとともに、パウエル議長のレームダック化を図る考えだろう。後任には関税政策で重要な役割を果たしているベッセント財務長官の名前も挙がっている。仮に彼が指名されるのであれば、それは、トランプ政権の経済政策の中心が、関税政策や減税政策から、金融緩和とそれを通じたドル安政策に移っていくことを示唆するのではないか。関税策の次にはドル安政策が「第2の矢」として控えている可能性を、日本政府は認識しておく必要があるだろう。トランプ政権による日本経済のリスクはなかなか解消されないとみられる。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。