財務省は20日に国債市場特別参加者(プライマリーディーラー、PD)会合を開き、2025年度の国債発行計画の変更案を提示した。超長期国債の発行額は合計で3.2兆円減額される。変更後の20年債の年間発行額は10兆2000億円で1兆8000億円の減額、30年債は8兆7000億円で9000億円の減額、40年債は2兆5000億円で5000億円の減額となった。7月から1回あたりの発行額を20年債は2000億円減額、30年債と40年債は1000億円へと減額する。
事前の報道では、1回あたり各年限で1000億円ずつ、合計2兆3000億円を減額する案が示されていた。これと比べて実際の減額幅は大きくなった。この間、超長期国債発行減額を望む市場参加者の意見をより反映させた可能性があるだろう。超長期債の減額分は、2年債と割引短期国債(TB)の増額で賄われる。
他方、市場関係者の一部から求められていた国債買い入れ消却による需給改善策については、慎重に対処銘柄を選ぶ必要などもあることから、今回は実施しないと財務省は説明している。
超長期国債発行の減額措置は、足もとで超長期の金利が大きく上昇するなど、市場が不安定化し、円滑な超長期国債の消化に不安が生じていることへの対応だ。低金利下で政府は利払い、償還費を抑制するために、発行する長期国債の年限を長期化してきた。しかし、2024年3月から日本銀行が金融政策の正常化を開始し、金利が上昇局面に入ったことを踏まえると、この措置は当然だろう。金利上昇局面では、超長期国債の円滑な消化には支障が生じやすくなり、それが国債市場全体の安定性を損ねてしまう恐れもあるからだ。
17日の金融政策決定会合で日本銀行は、2026年4月以降の長期国債買い入れの減額幅を、現在の四半期4000億円から2000億円ペースへと縮小した。超長期国債の金利上昇を受けて、日本銀行と政府が足並みを揃えて超長期国債の金利上昇リスクの軽減を図ったようにも見える。しかし実際には、日本銀行が長期国債買い入れの減額幅を縮小するのは今年度ではなく来年度からであり、直接足もとの国債需給に配慮した措置とは言えない。
国債発行の円滑な消化策は、政府の国債管理政策の一環であり、そこに日本銀行が関与するのは適切ではない。また、日本銀行は、足もとでの超長期金利の上昇を、政府ほどには警戒していない可能性もあるだろう。不安定な動きを強めたのは、国債市場全体ではなく概ね超長期ゾーンに限られていたからだ。そしてその動きは、減税措置の恒久化による財政悪化や関税による物価上昇リスクを警戒して米国で超長期の金利が上昇したことの影響、と言う側面も強いのではないか。
日本でも、夏の参院選に向けた消費税減税議論の高まりが、超長期ゾーンを中心に国債の需給悪化懸念を高めた可能性は一定程度はあるものの、その直接的な影響は大きくはなかったのではないか。
国債市場や金融市場が財政環境や国債需給環境に敏感に反応しないことで、その問題点を多くの人が認識する機会が失われていることは大きな問題点ではあるが、そうした状況は直ぐには変わらないだろう。この点から、日本の財政環境悪化を背景に、超長期国債の金利が再び不安定な動きを示す可能性は大きくないとみられる。
ただし、米国では財政悪化や関税策、ドル安政策への懸念が米国からの資金流出を促し、超長期国債の金利が再び顕著に上昇するリスクはあるだろう。その際には再び、日本の国債市場もその悪影響を受けることになることに覚悟が必要だ。
(参考資料)
「超長期債減額は計3.2兆円、事前報道から上振れ-25年度発行計画」、2025年6月20日、ブルームバーグ
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。