トランプ政権は7月9日の関税協議の期限延長を示唆
トランプ米政権は、相互関税の上乗せ部分の一時停止期間が切れる7月9日までに、主要国との間の2国間関税協議で合意に達する方針であった。しかし思ったように協議は進展せず、現時点で暫定合意に至ったのは中国と英国のみだ。そこでトランプ政権は、期限を9月1日に延長する方向に傾いているとみられる。
トランプ大統領は27日に、7月9日の期限について「我々は延長も短縮もできる」と話している。期限延期を明言すれば、現在協議を進める国との間で合意に向けた求心力が低下してしまうことを警戒しているだろう。
他方でベッセント財務長官は27日に「18の重要な貿易相手のうち10~18の国と署名できれば、残りの重要な貿易相手は20程度となる。(9月1日の)レーバー・デーまでに、交渉を取りまとめることが可能だと思う」と述べた。
トランプ政権は、主要18か国との間で優先的に2か国関税協議を進めていると説明してきたが、ベッセント財務長官の発言は、できればそのうち10か国程度の国との間での合意を7月9日までにまとめ、残りの主要国とティア2グループの20程度の国との間の合意を9月1日までにまとめる考えを示している、と推察される。7月9日の期限を巡っては、ベッセント米財務長官も貿易相手国が米国と「誠意を持って交渉していること」などを条件に期限延長を認める可能性を示唆している。ラトニック商務長官は26日に、10の貿易相手と近く合意できるとの見通しを示しており、ベッセント財務長官の発言と共通している。
トランプ大統領は27日に、7月9日の期限について「我々は延長も短縮もできる」と話している。期限延期を明言すれば、現在協議を進める国との間で合意に向けた求心力が低下してしまうことを警戒しているだろう。
他方でベッセント財務長官は27日に「18の重要な貿易相手のうち10~18の国と署名できれば、残りの重要な貿易相手は20程度となる。(9月1日の)レーバー・デーまでに、交渉を取りまとめることが可能だと思う」と述べた。
トランプ政権は、主要18か国との間で優先的に2か国関税協議を進めていると説明してきたが、ベッセント財務長官の発言は、できればそのうち10か国程度の国との間での合意を7月9日までにまとめ、残りの主要国とティア2グループの20程度の国との間の合意を9月1日までにまとめる考えを示している、と推察される。7月9日の期限を巡っては、ベッセント米財務長官も貿易相手国が米国と「誠意を持って交渉していること」などを条件に期限延長を認める可能性を示唆している。ラトニック商務長官は26日に、10の貿易相手と近く合意できるとの見通しを示しており、ベッセント財務長官の発言と共通している。
7回目の日米関税協議でも進展はみられず
日米関税協議は7月9日までに合意に達する可能性は低そうだ。赤沢大臣は27日に7回目となる日米関税協議に臨んだが、大きな進展は見られなかったとみられる。最大の争点は自動車関税の引き下げだ。日本は25%の自動車追加関税の撤廃を米国に要求しているのに対して、米国は2国間関税協議の対象は相互関税の上乗せ分のみであり、全ての国に適用される自動車関税など分野別関税は2国間協議の対象外との考えだ。さらにトランプ大統領は50%への自動車関税の引き上げの可能性さえ示唆している。
また29日のインタビューでトラプ大統領は、「米国は日本から多くの自動車を輸入しているが、日本の米国からの輸入は少なく、これは不公正だ」、「日本は米国産のエネルギー資源などの購入を増やすべきだ」との考えを示している。
このような状況のもと、7月9日の期限までに日米関税協議が合意に達する可能性は低いだろう。他方、赤沢大臣が足しげく訪米して日米関税日本に臨んできた日本は、「誠意を持って交渉している」というベッセント財務長官が示した交渉期間延長の条件を満たすとみられ、交渉期限が9月1日まで延長される可能性が考えられる。9月1日であっても、日米関税協議が合意に至らない可能性も考えられる。
また29日のインタビューでトラプ大統領は、「米国は日本から多くの自動車を輸入しているが、日本の米国からの輸入は少なく、これは不公正だ」、「日本は米国産のエネルギー資源などの購入を増やすべきだ」との考えを示している。
このような状況のもと、7月9日の期限までに日米関税協議が合意に達する可能性は低いだろう。他方、赤沢大臣が足しげく訪米して日米関税日本に臨んできた日本は、「誠意を持って交渉している」というベッセント財務長官が示した交渉期間延長の条件を満たすとみられ、交渉期限が9月1日まで延長される可能性が考えられる。9月1日であっても、日米関税協議が合意に至らない可能性も考えられる。
トランプ政権が自ら関税率を引き下げ2国間協議は自然消滅の可能性も
米中貿易協議で、5月の関税率の大幅引き下げに関するジュネーブ合意やその後のロンドン合意を通じて、中国に譲歩するトランプ政権の姿勢が露呈された。現状でもトランプ政権は、中国のレアアース輸出再規制を強く恐れているだろう。
こうしたトランプ政権の対中交渉姿勢を受けて、他国も関税協議でトランプ政権に対してより強気の姿勢を強めている。その結果、2国間関税協議の合意は遅れている面があるだろう。
多くの2国間関税協議の期限は7月9日から9月1日に先送りされる方向にあるとみられるが、その間にトランプ政権が自ら関税率を引き下げることで、2国間協議は自然消滅してしまう可能性もあるのではないか。
今後関税による物価高傾向が強まれば、米国民はトランプ政権への批判を強めるだろう。トランプ大統領は27日にイランを再攻撃する可能性に言及しており、再び中東情勢が緊迫化し、原油価格が上昇する可能性がある。その場合、物価高に対する米国民の不満はさらに強まるだろう。
物価高に対する米国民の不満を受けて、トランプ政権は秋頃までに自ら関税率を大きく引き下げる可能性がある。その場合、日本も含めて2国間関税協議は事実上、自然消滅となるのではないか。
そうした可能性を踏まえれば、日本は米国に大きく譲歩する形で合意を急ぐのは得策ではないだろう。ただし、関税策の見直しの後、トランプ政権は米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げとドル安政策へと経済政策の軸足を移していく可能性が考えられる。それは日本にとって関税にかわる新たな脅威となるだろう。
こうしたトランプ政権の対中交渉姿勢を受けて、他国も関税協議でトランプ政権に対してより強気の姿勢を強めている。その結果、2国間関税協議の合意は遅れている面があるだろう。
多くの2国間関税協議の期限は7月9日から9月1日に先送りされる方向にあるとみられるが、その間にトランプ政権が自ら関税率を引き下げることで、2国間協議は自然消滅してしまう可能性もあるのではないか。
今後関税による物価高傾向が強まれば、米国民はトランプ政権への批判を強めるだろう。トランプ大統領は27日にイランを再攻撃する可能性に言及しており、再び中東情勢が緊迫化し、原油価格が上昇する可能性がある。その場合、物価高に対する米国民の不満はさらに強まるだろう。
物価高に対する米国民の不満を受けて、トランプ政権は秋頃までに自ら関税率を大きく引き下げる可能性がある。その場合、日本も含めて2国間関税協議は事実上、自然消滅となるのではないか。
そうした可能性を踏まえれば、日本は米国に大きく譲歩する形で合意を急ぐのは得策ではないだろう。ただし、関税策の見直しの後、トランプ政権は米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げとドル安政策へと経済政策の軸足を移していく可能性が考えられる。それは日本にとって関税にかわる新たな脅威となるだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。