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昨年度の税収上振れ額約1.8兆円は3兆円超の給付金の財源には足りない

2024年度の国の一般会計税収は75.2兆円程度となり、5年連続で過去最高水準を更新する見通しだ。税収の見積もりと実績の差である上振れ額は、当初予算比で約5.6兆円、補正予算比で約1.8兆円となることが予想される。株式市場の活況を背景に株式の売却益にかかる税収が伸びるなど、所得税では約1.1兆円の上振れが生じたとみられる。消費税収も0.7兆円ほど上振れする見通しだ。
 
与党は7月20日に投開票が行われる参院選挙で、国民1人当たり一律2万円、子どもと住民税非課税世帯の大人に2万円を上乗せする給付金の支給を公約に掲げている。それに必要な予算額は筆者の試算では3兆3,200億円程度、政府発表で3兆円台半ばである。その財源として、2024年度の税収の上振れ分を充てる、と与党は説明していたが、実際の税収上振れ分は約1.8兆円にとどまる見通しとなったのである。
 
石破茂首相は給付金の財源を「赤字国債に頼らない」との方針を明確に示しており、税収の上振れ分で賄えないのであれば、それ以外の財源を確保する必要が出てくる。選挙戦では、この財源の説明も求められることになるだろうが、おそらく、選挙後の補正予算で生じる税収の上振れ分を合わせて利用するのではないか。つまり前年度の税収の上振れと、今年度の税収の上振れの双方を利用する形となることが考えられる。

「税収の上振れ分は国民に返せ」との主張は正しいか

ところで、当初予算比での税収の上振れはこれで4年連続、補正予算比では5年連続となる(図表)。「税収の上振れ分は国民に返せ」との主張が与野党双方から聞かれるが、国が巨額の債務を抱え、また毎年巨額の財政赤字を計上しているもとでは、国民に返す税金はないはずだ。お金は決して余っていないのである。
 
過去数年の税収の上振れは、予想を上回る物価高が大きな要因の一つである。個人は、物価が上昇する分だけ消費税を多く支払うことになる。ただしその負担は、物価高分だけ賃金が上昇すれば、あるいは年金の支給額が増加すれば解消される。
 
また、物価上昇分だけ所得が増加する場合、実質所得に変化はなくても、名目所得が増えて課税最低限を超える、あるいはより高い税率が適用されることから、税負担が高まることになる。
 
こうした問題については、国民への給付や消費減税などではなく、課税最低限の水準引き上げ、税区分の見直し、あるいは物価連動型の課税最低限、税区分の導入などの制度変更によって対応すべきである。所得税の課税最低限の引き上げについては、既に決定されている。
 
図表 一般会計税収の推移

税収上振れが生じるように保守的に予算計上がされているか

当初見積りを上回る税収増加は、決して予想外の出来事ではないだろう。過去20年間を振り返ると、当初予算と決算とを比べて税収が上振れた年は14回にも及ぶ。実に7割の年で税収の上振れが生じているのである。逆に下振れた6年は、リーマン・ショック時、コロナショック時など予想外に経済が悪化した特殊な時期に概ね集中している。
 
当初予算段階では税収は意図的に保守的に見積もられ、経済状況が想定の範囲内であれば税収の上振れが生じ、その上振れ分を補正予算での経済対策などの原資として利用することが慣例となっているのではないか。

税収の上振れ分を含む決算剰余金の使い道は既に決まっている

既に見たように、仮に与党が掲げる給付金の支給が秋の補正予算で実施される場合には、昨年度予算での税収の上振れ分(決算)と今年度予算での税収の上振れ分(補正予算)がその財源に充てられることが予想される。昨年度予算での税収の上振れ分(決算)を使うということは、正確に言えば税収の上振れなどによって生じた決算剰余金を使うということだ。
 
日本経済新聞によると、2024年度の決算剰余金は約2.3兆円になる見込みである。税収の上振れ分で約1.8兆円、日銀からの納付金といった税外収入の上振れ分で約1.6兆円、予算計上したが結果的に使わなかった「不用額」で約4.3兆円などが生じたとみられる。他方で、赤字国債の発行額を当初予定から5兆円程度削減し、最終的には約2.3兆円の決算剰余金が生じたとみられる。
 
この決算剰余金は、財政法において、翌年度に繰り越して使用する金額や地方交付税等の精算に充てる金額を除いた額のうち、2分の1以上の金額を翌々年度までに公債等の償還のための財源に充てることが規定されている。
 
政府は近年、決算剰余金の半分を公債等の償還のための財源に充てる一方、残りの半分を経済対策の裏付けとなる補正予算の財源とする運用をしてきた。しかし、2023年度からは、前年度の決算剰余金の半分を防衛費増額分の財源として当初予算で使う方針としている。
 
約2.3兆円の2024年度決算剰余金の半分である約1.1~1.2兆円を国債償還に使い、残り半分の約1.1~1.2兆円を今秋の補正予算編成で給付金の財源とするのであれば、防衛費増額分の財源はその分不足し、赤字国債の発行でそれを賄う必要が出てくる。
 
このように赤字国債でなく決算剰余金で給付金の財源を賄うと説明しても、実際にはその分、国債の償還や防衛費増額を賄う財源が不足し、赤字国債の増加につながることから、決算剰余金は、本当の意味での経済対策の財源とは言えない。税収の上振れ分を含む決算剰余金の使い道は、既に決まっているのである。

外為特会の剰余金も減税の財源にはならない

赤字国債の発行ではなく、税収の上振れ分を含む決算剰余金を給付金の財源とする与党の説明には、このような大きな問題がある。
 
立憲民主党は外国為替資金特別会計(外為特会)の剰余金などを財源にして、食料品にかかる消費税を一時的にゼロとする政策を選挙公約に掲げている。この外為特会の決算剰余金についても、一部を外為特会の運用資金である外国為替資金に組み入れ、残りを一般会計や翌年度の外為特会の歳入に繰り入れられている。
 
仮に一般会計に繰り入れる分を減税に利用すれば、その分歳入が減少し、赤字国債の発行につながることから、やはり真の財源確保の手段にはならない。
 
(参考資料)
「税収最高の75.2兆円 昨年度、5年連続 企業業績が好調」、2025年7月1日、日本経済新聞
「24年度の国の決算剰余金は2.3兆円 赤字国債発行を5兆円抑制」、2025年7月1日、日本経済新聞電子版

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。