日本への相互関税を30%~35%に引き上げる
トランプ米大統領は7月1日に、極めて大きな貿易赤字を抱える日本への相互関税率を、「30%または35%、あるいは我々が決める(他の)数字に引き上げる」との考えを示した。相互関税上乗せ分の90日の一時停止期限である7月9日が近づく中、協議がなかなかまとまらない日本に対して、トランプ大統領は苛立ちを強めている。
これに先立つ数日間でもトランプ大統領は、日本の対米自動車輸出が多いことを改めて批判するとともに、日本が米国からの自動車、コメ、エネルギーの輸入を拡大するように求めていた。
過去7回にわたる日米関税協議は閣僚間で行われていたが、なかなか合意が成立しないことから、トランプ大統領が怒りを爆発させた形だ。これは日本側としては恐れていた事態である。
閣僚間での日米関税協議は、7月9日の一時停止期限が9月1日へと事実上延長される方向と考えられていた。しかし関税協議に対するトランプ大統領の関与が強まれば、延長はされずに、トランプ政権側から新たな相互関税の数字が一方的に通告される可能性が出てくる。あるいはトランプ大統領が日本に対して自動車、コメ、エネルギーの輸入拡大を強硬に求めてくる、関税協議を為替政策、安全保障政策と絡めて日本に強く譲歩を求める可能性が出てくるだろう。
今まで日本は、赤澤大臣が足しげく訪米して関税協議を行うことで、合意に向けた前向き姿勢を演出し米国にアピールする一方、米国が拒否する自動車関税などすべての追加関税の撤廃を求め続けてきた。これは日本にとっては一種の時間稼ぎの狙いもあったと考えるが、トランプ大統領が協議に強く関与するのであれば、日本としても追加の施策を示すなど、戦略の見直しを迫られるかもしれない。
ただし、日本のみならず米国の2国間関税協議は思うように進んでおらず、多くの国に対して7月9日の一時停止期限を延長することは避けられないだろう。その際に、日本に対してだけいきなり高い関税率の適用を通告する可能性は高くないのではないか。日本は米国に対して報復制裁をちらつかせたことさえない従順な国であるからだ。仮に、日本を含む多くに国に対して高関税率を通告すれば、米国金融市場では債券安、株安、ドル安のトリプル安のリスクが高まるだろう。そのため、安易にトランプ政権は関税で強硬策を示すことはできないのではないか。市場の力に阻まれるのである。
これに先立つ数日間でもトランプ大統領は、日本の対米自動車輸出が多いことを改めて批判するとともに、日本が米国からの自動車、コメ、エネルギーの輸入を拡大するように求めていた。
過去7回にわたる日米関税協議は閣僚間で行われていたが、なかなか合意が成立しないことから、トランプ大統領が怒りを爆発させた形だ。これは日本側としては恐れていた事態である。
閣僚間での日米関税協議は、7月9日の一時停止期限が9月1日へと事実上延長される方向と考えられていた。しかし関税協議に対するトランプ大統領の関与が強まれば、延長はされずに、トランプ政権側から新たな相互関税の数字が一方的に通告される可能性が出てくる。あるいはトランプ大統領が日本に対して自動車、コメ、エネルギーの輸入拡大を強硬に求めてくる、関税協議を為替政策、安全保障政策と絡めて日本に強く譲歩を求める可能性が出てくるだろう。
今まで日本は、赤澤大臣が足しげく訪米して関税協議を行うことで、合意に向けた前向き姿勢を演出し米国にアピールする一方、米国が拒否する自動車関税などすべての追加関税の撤廃を求め続けてきた。これは日本にとっては一種の時間稼ぎの狙いもあったと考えるが、トランプ大統領が協議に強く関与するのであれば、日本としても追加の施策を示すなど、戦略の見直しを迫られるかもしれない。
ただし、日本のみならず米国の2国間関税協議は思うように進んでおらず、多くの国に対して7月9日の一時停止期限を延長することは避けられないだろう。その際に、日本に対してだけいきなり高い関税率の適用を通告する可能性は高くないのではないか。日本は米国に対して報復制裁をちらつかせたことさえない従順な国であるからだ。仮に、日本を含む多くに国に対して高関税率を通告すれば、米国金融市場では債券安、株安、ドル安のトリプル安のリスクが高まるだろう。そのため、安易にトランプ政権は関税で強硬策を示すことはできないのではないか。市場の力に阻まれるのである。
日本のGDPに与える影響は35%の関税で-1.10%と現状の2倍以上、自動車関税50%も加わると-1.29%に
従って、「30%または35%、あるいは我々が決める(他の)数字に引き上げる」というトランプ大統領の発言は、現時点では日本に対する「脅し」の側面が強いと見ておきたい。しかし、実際にトランプ大統領がそうした行動に出る可能性も考慮しておかねばならないだろう。そこで、相互関税が引き上げられる場合、日本経済への影響がどの程度高まるかについて試算した。
現在の関税が日本のGDPに与える影響は-0.47%(1年程度の短期間)と試算される。このうち自動車・自動車部品への25%の関税の影響が-0.19%、鉄鋼・アルミへの50%の関税の影響が-0.03%、10%の相互関税の影響が-0.25%であり、合計で-0.47%だ。
仮にトランプ大統領の発言にあるように、相互関税が30%に引き上げられるとその影響は-0.75%、35%だと-0.875%となる。その場合、関税全体のGDPへの影響は相互関税30%の場合で-0.97%、相互関税35%の場合で-1.10%となる。現状からほぼ2倍となる計算だ。
さらにトランプ大統領が示唆している自動車関税の50%への引き上げが仮に実施される場合には、関税全体のGDPへの影響は相互関税30%で-1.16%、相互関税35%で-1.29%となる。後者の場合では、トランプ大統領が求める日本の対米黒字をゼロにする場合の直接的なGDPへの影響である-1.4%(間接効果を含めると1%台後半)に近づく経済への打撃となる計算だ。
事態がこのように悪化する場合には、日本経済が来年にかけて後退局面に陥る確率は50%を超えるだろう。ただし、トランプ大統領が望むように、日本が対米黒字を短期間で解消する手段はほぼないと言えるのではないか。日本としては引き続き譲歩をせずに交渉を続け、その中で関税の不当性を訴え、その撤回を求め続けるべきだろう。
この先、関税の影響が徐々に顕在化し、物価上昇や景気悪化の兆候が広がれば、関税策に対する国民の批判も高まるだろう。金融市場もより不安定化するとみられる。それらを受けてトランプ政権は秋頃にも関税策を縮小させる方向に自ら動くと予想しておきたい。日本は粘り強い交渉の中で、米国の政策修正を待つ姿勢が良いのではないか。
現在の関税が日本のGDPに与える影響は-0.47%(1年程度の短期間)と試算される。このうち自動車・自動車部品への25%の関税の影響が-0.19%、鉄鋼・アルミへの50%の関税の影響が-0.03%、10%の相互関税の影響が-0.25%であり、合計で-0.47%だ。
仮にトランプ大統領の発言にあるように、相互関税が30%に引き上げられるとその影響は-0.75%、35%だと-0.875%となる。その場合、関税全体のGDPへの影響は相互関税30%の場合で-0.97%、相互関税35%の場合で-1.10%となる。現状からほぼ2倍となる計算だ。
さらにトランプ大統領が示唆している自動車関税の50%への引き上げが仮に実施される場合には、関税全体のGDPへの影響は相互関税30%で-1.16%、相互関税35%で-1.29%となる。後者の場合では、トランプ大統領が求める日本の対米黒字をゼロにする場合の直接的なGDPへの影響である-1.4%(間接効果を含めると1%台後半)に近づく経済への打撃となる計算だ。
事態がこのように悪化する場合には、日本経済が来年にかけて後退局面に陥る確率は50%を超えるだろう。ただし、トランプ大統領が望むように、日本が対米黒字を短期間で解消する手段はほぼないと言えるのではないか。日本としては引き続き譲歩をせずに交渉を続け、その中で関税の不当性を訴え、その撤回を求め続けるべきだろう。
この先、関税の影響が徐々に顕在化し、物価上昇や景気悪化の兆候が広がれば、関税策に対する国民の批判も高まるだろう。金融市場もより不安定化するとみられる。それらを受けてトランプ政権は秋頃にも関税策を縮小させる方向に自ら動くと予想しておきたい。日本は粘り強い交渉の中で、米国の政策修正を待つ姿勢が良いのではないか。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。