EUに30%の新相互関税:7月14日のEUの対米報復措置自動発効に注目
トランプ米大統領は12日に、欧州連合(EU)とメキシコに30%の関税を課すとした。発効は8月1日となる。EUに対する相互関税率は当初の20%から、メキシコに対しては一律関税の25%からそれぞれ引き上げられる。10日にはカナダに対する関税率を一律関税の25%から35%へと引き上げた。
7月9日の相互関税上乗せ分の90日間の一時停止期限を前に、トランプ政権は7日から新相互関税率を公表し始めたが、日本を含めて主な貿易赤字国に対しては関税率を新たに引き上げている。4月に発表された当初の相互関税率から平均値は引き上げられており、世界経済への悪影響は大きくなる。
トランプ大統領はEUに対して、「市場を開放し関税や非関税障壁を取り除けば、調整を検討する」と説明している。EUのフォンデアライエン欧州委員長は、8月1日の新相互関税発効までに合意に向けて引き続き作業を続けるつもりとしているが、他方で、「必要なら相応の対抗措置を含め、EUの利益を守るために必要なすべての措置をとる」とも述べている。
マクロン仏大統領も、「8月1日までに合意しなければ『反威圧措置(ACI)』を含むあらゆる手段を活用した対抗措置の準備を加速する」と明示している。このACIは、経済的威圧をかける国の金融や保険、デジタルサービスに制裁を科す仕組みだ。
EUは、4月15日に報復措置を打ち出したが、その発動を90日間留保している。その留保期間が終わる7月14日には、対米報復措置が自動的に発動される。この報復措置は1,000億ユーロ(約16兆円)とかなりの規模だ。7月14日に予定通りEUが報復措置を自動発動させるかどうかが大きな注目点となっている。トランプ政権は、相手国が報復措置を打ち出す場合には、新相互関税率をさらに引き上げるとしており、EUとの対立がより強まる可能性があるだろう。
EUは米国に対して「スタンド・スティル(現状維持)条項」の締結を求めていたとされる。これは、最終合意以降は追加関税を発動しないことを定める条項だ。さらに欧州企業が米国で生産して輸出した自動車の台数に応じて、欧州から輸出する自動車の関税を減免する「相殺メカニズム」を議論しているとされた。いずれについてもトランプ政権は受け入れなかったとみられる。
7月9日の相互関税上乗せ分の90日間の一時停止期限を前に、トランプ政権は7日から新相互関税率を公表し始めたが、日本を含めて主な貿易赤字国に対しては関税率を新たに引き上げている。4月に発表された当初の相互関税率から平均値は引き上げられており、世界経済への悪影響は大きくなる。
トランプ大統領はEUに対して、「市場を開放し関税や非関税障壁を取り除けば、調整を検討する」と説明している。EUのフォンデアライエン欧州委員長は、8月1日の新相互関税発効までに合意に向けて引き続き作業を続けるつもりとしているが、他方で、「必要なら相応の対抗措置を含め、EUの利益を守るために必要なすべての措置をとる」とも述べている。
マクロン仏大統領も、「8月1日までに合意しなければ『反威圧措置(ACI)』を含むあらゆる手段を活用した対抗措置の準備を加速する」と明示している。このACIは、経済的威圧をかける国の金融や保険、デジタルサービスに制裁を科す仕組みだ。
EUは、4月15日に報復措置を打ち出したが、その発動を90日間留保している。その留保期間が終わる7月14日には、対米報復措置が自動的に発動される。この報復措置は1,000億ユーロ(約16兆円)とかなりの規模だ。7月14日に予定通りEUが報復措置を自動発動させるかどうかが大きな注目点となっている。トランプ政権は、相手国が報復措置を打ち出す場合には、新相互関税率をさらに引き上げるとしており、EUとの対立がより強まる可能性があるだろう。
EUは米国に対して「スタンド・スティル(現状維持)条項」の締結を求めていたとされる。これは、最終合意以降は追加関税を発動しないことを定める条項だ。さらに欧州企業が米国で生産して輸出した自動車の台数に応じて、欧州から輸出する自動車の関税を減免する「相殺メカニズム」を議論しているとされた。いずれについてもトランプ政権は受け入れなかったとみられる。
メキシコに30%、カナダに35%の新たな関税率
トランプ大統領は12日にメキシコに対して30%の関税を課すとした。メキシコは相互関税の対象外であり、それとは別に25%の一律関税が課せられている。トランプ大統領は、メキシコに対する関税率引き上げの理由に、合成麻薬フェンタニルの米国への流入防止対策の不備などを挙げている。
今回の関税率引き上げを受けて、メキシコは報復関税を検討するとみられる。トランプ大統領は、メキシコが報復関税を発動させる場合には、関税率をさらに引き上げるとしている。
トランプ米大統領は米国時間10日夜に、カナダからの輸入品に対して8月1日から35%の関税を課すと表明した。現状の関税率25%から引き上げられる。さらに、ブラジルに対して相互関税率を10%から50%へ引き上げるなど、トランプ政権との間に軋轢がある国に対しては、懲罰的に関税率を引き上げる傾向が強まっている。
トランプ政権は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に準拠する製品については引き続き免除が適用されるとしながらも、この方針も変更される可能性があるとしている。米国とカナダは7月21日の期限までに関税引き下げに向けた協議を行っているが、その最中にトランプ政権が一方的に関税率引き上げを通告した形だ。
トランプ大統領はカナダへの関税率引き上げの理由について、合成麻薬「フェンタニル」の対策が不十分なためだとしている。カナダがフェンタニルを巡り「米国と協力するのではなく、報復した」と不満を表明した。
トランプ政権が3月に合成麻薬フェンタニル対策、移民対策が十分とられていないとしてカナダとメキシコに25%の一律関税を課した際に、カナダは米国から輸入するオレンジジュースやウイスキー、二輪車に25%の関税をかけ、トランプ政権が自動車や鉄鋼・アルミニウムに分野別関税を課した際にも制裁関税を発動した。
トランプ大統領は、米国に制裁関税を課す国にはさらなる高い関税率を課す考えを示しており、カナダが報復措置を取った場合にも、35%の関税をさらに引き上げると述べている。
他方、トランプ政権に報復措置を取っていないメキシコに対しては、関税率を30%としており、両国の対応に差をつけている。
今回の関税率引き上げを受けて、メキシコは報復関税を検討するとみられる。トランプ大統領は、メキシコが報復関税を発動させる場合には、関税率をさらに引き上げるとしている。
トランプ米大統領は米国時間10日夜に、カナダからの輸入品に対して8月1日から35%の関税を課すと表明した。現状の関税率25%から引き上げられる。さらに、ブラジルに対して相互関税率を10%から50%へ引き上げるなど、トランプ政権との間に軋轢がある国に対しては、懲罰的に関税率を引き上げる傾向が強まっている。
トランプ政権は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に準拠する製品については引き続き免除が適用されるとしながらも、この方針も変更される可能性があるとしている。米国とカナダは7月21日の期限までに関税引き下げに向けた協議を行っているが、その最中にトランプ政権が一方的に関税率引き上げを通告した形だ。
トランプ大統領はカナダへの関税率引き上げの理由について、合成麻薬「フェンタニル」の対策が不十分なためだとしている。カナダがフェンタニルを巡り「米国と協力するのではなく、報復した」と不満を表明した。
トランプ政権が3月に合成麻薬フェンタニル対策、移民対策が十分とられていないとしてカナダとメキシコに25%の一律関税を課した際に、カナダは米国から輸入するオレンジジュースやウイスキー、二輪車に25%の関税をかけ、トランプ政権が自動車や鉄鋼・アルミニウムに分野別関税を課した際にも制裁関税を発動した。
トランプ大統領は、米国に制裁関税を課す国にはさらなる高い関税率を課す考えを示しており、カナダが報復措置を取った場合にも、35%の関税をさらに引き上げると述べている。
他方、トランプ政権に報復措置を取っていないメキシコに対しては、関税率を30%としており、両国の対応に差をつけている。
各国ごとの関税率の差にトランプの戦略
米国の主要貿易相手国である日本、EU、メキシコ、カナダに対する新関税率が出揃ったが、いずれも引き上げられている。それぞれの新関税率は25%、30%、30%、35%とばらつきがあるが、これはトランプ大統領が強く嫌う対米報復措置の有無が反映されている可能性がある。
この4か国・地域のうち、既に報復措置を打ち出したカナダについては、最も高い35%を適用する一方、制裁措置を打ち出しつつもその執行を留保しているEUに対しては、それよりも低い30%の新関税率を決めたように見える。
またメキシコは制裁措置の実施をちらつかせたことがあるものの、実際に対米制裁措置を打ち出してはいないため、カナダの35%より低い30%の関税率が設定されたのではないか。日本は制裁措置をちらつかせたことさえないことから、他国よりも低い25%の関税率が設定されたと考えられる。
それでも、トランプ政権が2国間関税協議の対象としていない自動車の関税率の撤廃あるいは大幅引き下げをEUと同様に要求してきたことへの懲罰的な意味を込めて、24%から25%に関税率が引き上げられたと考えられる。
この4か国・地域のうち、既に報復措置を打ち出したカナダについては、最も高い35%を適用する一方、制裁措置を打ち出しつつもその執行を留保しているEUに対しては、それよりも低い30%の新関税率を決めたように見える。
またメキシコは制裁措置の実施をちらつかせたことがあるものの、実際に対米制裁措置を打ち出してはいないため、カナダの35%より低い30%の関税率が設定されたのではないか。日本は制裁措置をちらつかせたことさえないことから、他国よりも低い25%の関税率が設定されたと考えられる。
それでも、トランプ政権が2国間関税協議の対象としていない自動車の関税率の撤廃あるいは大幅引き下げをEUと同様に要求してきたことへの懲罰的な意味を込めて、24%から25%に関税率が引き上げられたと考えられる。
各国間の連携を検討すべき
これで米国の主要貿易相手国に対する新相互関税率が出揃ったとみられる。8月1日にはそれらが確定することが予想される。
このタイミングで、各国はトランプ関税への対応で連携することを真剣に検討すべきではないか。トランプ政権は2国間協議という枠組みを通じて、対応に差を設けることで各国を競わせ、連携を妨げる「分断化戦略」を取ってきたとみられる。
しかし今後は、各国が連携してトランプ政権の不当性を訴えるべきではないか。いわば「被害者同盟」を結成して、2国間ではなく連携して米国と対峙することで、交渉力は高まると期待される。そうした枠組みのもとでは、日本も今まで控えてきたWTO提訴や報復措置を講ずることも排除すべきではないだろう。いわば各国が連携して米国への反撃に転じる可能性がある。他国が強く連携し始める場合には、トランプ政権は関税率をさらに引き上げるという対抗措置はとり難くなるとみられる。
このタイミングで、各国はトランプ関税への対応で連携することを真剣に検討すべきではないか。トランプ政権は2国間協議という枠組みを通じて、対応に差を設けることで各国を競わせ、連携を妨げる「分断化戦略」を取ってきたとみられる。
しかし今後は、各国が連携してトランプ政権の不当性を訴えるべきではないか。いわば「被害者同盟」を結成して、2国間ではなく連携して米国と対峙することで、交渉力は高まると期待される。そうした枠組みのもとでは、日本も今まで控えてきたWTO提訴や報復措置を講ずることも排除すべきではないだろう。いわば各国が連携して米国への反撃に転じる可能性がある。他国が強く連携し始める場合には、トランプ政権は関税率をさらに引き上げるという対抗措置はとり難くなるとみられる。
相互関税率の平均値は4月時点を上回る可能性
トランプ政権は7日に14か国に対して新相互関税を打ち出した。その時点では、日本とマレーシアを除けば4月に当初の相互関税と同水準か低い水準が示されており、トランプ政権の強硬姿勢はやや緩和されたかに見えた。しかしその後、ブラジル、カナダ、EU、メキシコに対して関税率を引き上げている。
現時点で計算した8月1日発効の新相互関税率の平均値は筆者試算で24.7%と現状の17.4%から7%ポイント以上上昇する。さらに、4月に示された当初の相互関税率の平均値23.4%をも明確に上回ることになる。
このように、関税率の引き上げが進む中、世界経済への下方リスクは高まる方向にあり、新相互関税率のもとで世界のGDPは0.68%押し下げられる計算となる(図表)。
現時点で計算した8月1日発効の新相互関税率の平均値は筆者試算で24.7%と現状の17.4%から7%ポイント以上上昇する。さらに、4月に示された当初の相互関税率の平均値23.4%をも明確に上回ることになる。
このように、関税率の引き上げが進む中、世界経済への下方リスクは高まる方向にあり、新相互関税率のもとで世界のGDPは0.68%押し下げられる計算となる(図表)。
図表 相互関税の経済効果試算


海外要因も含めた追加関税全体が日本のGDPに与える影響は-1.08%と試算
関税全体の日本のGDPへの直接的な影響は-0.85%、25%の新相互関税率が日本のGDPに直接的に与える影響は-0.63%と試算される。そして新相互関税が他国を通じて日本に与える間接的な影響、いわゆる海外要因も含んだ影響は-0.86%(図表)である。両者の差である-0.23%が、新相互関税率の日本のGDPへの影響のうち海外要因と考えられる。
25%の新相互関税率が日本のGDPに直接与える影響の-0.63%、海外要因の-0.23%に、相互関税以外の分野別関税の影響である-0.22%を加えた-1.08%が、日本のGDPに与える追加関税全体の影響と現時点では試算できる。
(参考資料)
「トランプ氏「EUとメキシコに関税30%」 8月1日から」、2025年7月13日、日本経済新聞電子版
「EU、米関税に「強硬措置」で譲歩促す 8月1日まで交渉継続」、2025年7月13日、日本経済新聞電子版
“Trump Threatens 35% Tariff on Some Canadian Goods(米、カナダからの輸入品に35%関税 8月1日から)”, Wall Street Journal, July 11, 2025
「報復連鎖、トランプ米政権がカナダに35%関税 EUには11日通知か」、2025年7月11日、日本経済新聞電子版
「米EU交渉、合意後の追加関税認めない「現状維持条項」巡りせめぎ合い」、2025年7月12日、日本経済新聞電子版
25%の新相互関税率が日本のGDPに直接与える影響の-0.63%、海外要因の-0.23%に、相互関税以外の分野別関税の影響である-0.22%を加えた-1.08%が、日本のGDPに与える追加関税全体の影響と現時点では試算できる。
(参考資料)
「トランプ氏「EUとメキシコに関税30%」 8月1日から」、2025年7月13日、日本経済新聞電子版
「EU、米関税に「強硬措置」で譲歩促す 8月1日まで交渉継続」、2025年7月13日、日本経済新聞電子版
“Trump Threatens 35% Tariff on Some Canadian Goods(米、カナダからの輸入品に35%関税 8月1日から)”, Wall Street Journal, July 11, 2025
「報復連鎖、トランプ米政権がカナダに35%関税 EUには11日通知か」、2025年7月11日、日本経済新聞電子版
「米EU交渉、合意後の追加関税認めない「現状維持条項」巡りせめぎ合い」、2025年7月12日、日本経済新聞電子版
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。