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6月米CPIの上振れでFRBの利下げ観測がやや後退

米国時間7月15日に米労働省が発表した米国6月CPIが事前予想を上回ったことに、金融市場は大きく反応した。ドル円レートは今年4月以来となる1ドル149円まで円安が進み、日本の10年国債利回りは1.6%台目前と、16年9か月ぶりの水準まで上昇した。
 
6月CPIは前月比+0.3%と前月の+0.1%を大きく上回り、前年同月比では+2.7%と5月の+2.4%から大きく上振れた。CPIの予想外の上昇はエネルギー価格の上振れによるところが大きいが、変動の激しい食料・エネルギーを除くコアCPIも前月比+0.2%、前年同月比+2.9%と前月から上昇率を高めている。
 
4月以降本格化したトランプ関税が国内物価に与える影響を見極める観点から、米国CPI統計への金融市場の注目度はかなり高まっている。6月CPIでは、衣料品の価格が前月比+0.4%と前月の同-0.4%から上昇率を高めており、関税の影響がみられる。6月は下旬にかけてウォルマートの値上げが話題となっていた。
 
ただし、6月のCPIの上振れには、医療サービスなど関税とは関係のないサービス価格の上振れの影響もあり、関税の影響が顕著に表れたとはまだ言えない。7月CPIでは自動車など幅広い財の価格が上昇率を高める可能性が見込まれる。今後もCPI統計の注目度は高く、毎回のCPI統計で金融市場が大きく動く、CPIショックが再び生じることが予想される。
 
事前予想を上回った6月CPIを受けて、金融市場では米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測がやや後退している。年内0.25%幅の利下げ期待は2回弱と2回を下回るところまで低下している。7月29、30両日に開く次回連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利が据え置かれることは、金融市場でほぼ確実視されている。

日本の国債市場は財政環境への感応度を高めている

日本では、10年国債利回りが1.6%の水準をうかがう情勢となっている。米国での利下げ観測の後退や大型減税恒久化による財政環境悪化を受けて、米国で長期国債利回りが上昇していることの影響を受けている。
 
それに加えて、7月20日の参院選で与党が大敗し、参院で非改選を含めて過半数の議席を維持できないとの見方が広がる中、消費減税など野党が主張する積極財政政策がとられる傾向が強まるとの観測から、長期国債利回りが顕著に上昇している面がある。
 
日本の積極財政政策が英国の「トラスショック」のような金融市場の混乱を招くかどうかは分からないが、今まで財政政策、財政環境にあまり反応してこなかった国債市場が、今回は相応に反応している点は見逃せないだろう。その背景には、欧米で積極財政傾向が強まっており、世界的に長期国債利回りが上昇していることに加え、日本銀行が金融政策の正常化を進めていることの影響もあるだろう。
 
長期国債利回りの大幅上昇など金融市場の動揺は望ましいことではないが、それが政府による過度な積極財政政策への転換を牽制する警鐘となる可能性も考えられる。その結果、財政健全化傾向が維持されるのであれば、やや長い目で見れば金融市場の安定に貢献する長期国債利回りの一時的上昇となるだろう。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。