輸入拡大で日本は米国に譲歩
米国時間7月23日に、トランプ米大統領が日本との関税交渉で合意に達したことをSNSで明らかにした。相互関税は7月7日にトランプ政権が日本に通告した25%を15%に引き下げ、自動車・自動車部品の関税率も15%まで引き下げた。
合意内容が次第に明らかになってきたが、日本側は米国に対してかなり譲歩した印象だ。自動車関税を含め、当初はすべてのトランプ関税の撤廃を求めていた方針を大きく後退させ、15%の関税を受け入れた。また、対米投資拡大に加えて、輸入の拡大を受け入れたのである。
日本はトウモロコシや大豆、バイオエタノールなどの米国の農産物の輸入額を80億ドル増加させる。また米国産のコメ輸入を直ちに75%増やす。既存のミニマムアクセス枠内で米国産米の輸入を増やすが、全体としてコメ輸入量は変わらないとしている。しかし国産のコメと競合する傾向が強い米国産のコメの輸入が増加すれば、国内のコメの価格の下落圧力になる可能性もある。
また、日本は年数十億ドル分の米防衛装備品を追加購入する。米メディアは、日本の米企業に対する防衛支出を年140億ドルから年170億ドルに増額すると報じている。
また日本は米ボーイングの航空機100機を含めて米商用機を購入する。また、日米でアラスカ産の液化天然ガス(LNG)に関する新たな契約を検討する、とされた。
合意内容が次第に明らかになってきたが、日本側は米国に対してかなり譲歩した印象だ。自動車関税を含め、当初はすべてのトランプ関税の撤廃を求めていた方針を大きく後退させ、15%の関税を受け入れた。また、対米投資拡大に加えて、輸入の拡大を受け入れたのである。
日本はトウモロコシや大豆、バイオエタノールなどの米国の農産物の輸入額を80億ドル増加させる。また米国産のコメ輸入を直ちに75%増やす。既存のミニマムアクセス枠内で米国産米の輸入を増やすが、全体としてコメ輸入量は変わらないとしている。しかし国産のコメと競合する傾向が強い米国産のコメの輸入が増加すれば、国内のコメの価格の下落圧力になる可能性もある。
また、日本は年数十億ドル分の米防衛装備品を追加購入する。米メディアは、日本の米企業に対する防衛支出を年140億ドルから年170億ドルに増額すると報じている。
また日本は米ボーイングの航空機100機を含めて米商用機を購入する。また、日米でアラスカ産の液化天然ガス(LNG)に関する新たな契約を検討する、とされた。
今回の合意は対米貿易黒字を約7割削減する計算
トランプ政権が最終目的とするのは、2024年で8.6兆円に及んだ日本の対米貿易黒字(米国の対日貿易赤字)の解消だ。そこで、今回の合意が日本の対米黒字削減にどの程度貢献するかについて検討しよう。
まず、15%の相互関税は、対米輸出額を2.2兆円程度削減すると試算される。ちなみに、関税だけで日本の対米貿易黒字を解消するには60%の関税率が必要となる計算だ。
米国農産物の輸入増加は、対米輸入額を1.17兆円増加させ、対米貿易黒字を同額減少させる。米国からの防衛装備品の輸入の30億ドル増加は、対米輸入額を約4,400億円増加させ、対米貿易黒字を同額減少させる。
ボーイング社の航空機100機購入は、2024年度の実績に基づく試算では、対米輸入額を2兆4,000億円増加させ、対米貿易黒字を同額減少させる。
以上を合計すると、今回の合意は対米貿易黒字を6.2兆円削減し、2024年の対米貿易黒字額の8.6兆円の約7割を減少させる計算となる。それでもなお、貿易黒字の解消には至らない。
まず、15%の相互関税は、対米輸出額を2.2兆円程度削減すると試算される。ちなみに、関税だけで日本の対米貿易黒字を解消するには60%の関税率が必要となる計算だ。
米国農産物の輸入増加は、対米輸入額を1.17兆円増加させ、対米貿易黒字を同額減少させる。米国からの防衛装備品の輸入の30億ドル増加は、対米輸入額を約4,400億円増加させ、対米貿易黒字を同額減少させる。
ボーイング社の航空機100機購入は、2024年度の実績に基づく試算では、対米輸入額を2兆4,000億円増加させ、対米貿易黒字を同額減少させる。
以上を合計すると、今回の合意は対米貿易黒字を6.2兆円削減し、2024年の対米貿易黒字額の8.6兆円の約7割を減少させる計算となる。それでもなお、貿易黒字の解消には至らない。
トランプ政権が日本の対米貿易黒字解消を目指して追加的措置を求めてくる可能性
さらに、こうした合意ではよくあることだが、既に輸入が決まっていること、あるいは合意がなくても自然に増える輸入分も合意の数字に含めている可能性がある。ボーイング社の航空機100機購入には、既に決まっていた購入分が多く含まれている可能性がある。また防衛装備品の輸入についても、一部についてはそうした可能性があるのではないか。
そこで両者の輸入額のうち真の純増分を仮にそれぞれ半分として計算すると、対米貿易黒字の削減効果は4.8兆円となり、2024年8.6兆円の対米貿易黒字額を半分程度の約56%、つまり半分程度減少させるにとどまる計算となる。
また日本が約束した輸入拡大措置も、一時的なものが少なくないと見られ、貿易黒字削減策も持続性を欠く面があるだろう。
このように、今回の合意によってもトランプ政権が望む日本の対米貿易黒字(米国の対日貿易赤字)の達成にはなお相応の距離があることを踏まえると、この先もトランプ政権は日本に対する関税率の引き上げや日本の対米輸出自主規制、輸入拡大などの追加措置を求めてくる可能性は十分に残されている。
そこで両者の輸入額のうち真の純増分を仮にそれぞれ半分として計算すると、対米貿易黒字の削減効果は4.8兆円となり、2024年8.6兆円の対米貿易黒字額を半分程度の約56%、つまり半分程度減少させるにとどまる計算となる。
また日本が約束した輸入拡大措置も、一時的なものが少なくないと見られ、貿易黒字削減策も持続性を欠く面があるだろう。
このように、今回の合意によってもトランプ政権が望む日本の対米貿易黒字(米国の対日貿易赤字)の達成にはなお相応の距離があることを踏まえると、この先もトランプ政権は日本に対する関税率の引き上げや日本の対米輸出自主規制、輸入拡大などの追加措置を求めてくる可能性は十分に残されている。
図表 日米関税協議の合意内容


プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。