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インドに25%の関税でペナルティも加えられる

8月1日の新相互関税率の適用期限を前に、米国と主要国との間での関税合意が相次いでいる。
 
米国時間7月30日にトランプ米大統領は、インドに対して、8月1日から25%の関税を賦課すると表明した。これまで米国と合意したアジア諸国・地域の関税率は15~20%となっており、インドにとっては厳しい結果となった。
 
トランプ大統領は、「(インドの関税は)世界で最も高い部類に入る。インドはどの国よりも厄介で醜悪な非関税障壁がある」とSNSに投稿した。さらに、「世界中がロシアにウクライナでの殺りくをやめさせたいと考えている時に、インドは大半の軍事装備品を常にロシアから購入し、中国と並んでロシア産エネルギーの最大の買い手となっている」とも指摘し、「従って、インドは8月1日から25%の関税と、上記の理由によるペナルティを支払うことになる」と続けた。このペナルティとは、「2次関税」と呼ばれ、ロシアから軍事装備品やエネルギーを輸入し、ロシア経済制裁の効果を低下させている国に対して、一部の製品に課す関税だ。

韓国との間では日本と似た枠組みで15%の関税合意

同じく米国時間7月30日にトランプ米大統領は、「われわれは韓国に対する15%の関税で合意した」とSNSに投稿した。自動車の関税率も15%となる。韓国側が米国に対して総額3500億ドル(約52兆3000億円)の投資を行うことが合意内容に盛り込まれた。トランプ大統領は、日本の5500億ドルの投資計画と同様に政府系ファンド(SWF)になぞらえている。韓国の投資口座からの米国向け支出もトランプ氏自身の裁量の下で行われるという。
 
さらにトランプ大統領は、「韓国は米国との貿易に対して完全にオープンとなり、自動車やトラック、農産物など米国の産品を受け入れることにも合意した」と指摘している。これは、韓国が米国の自動車安全基準で製造された自動車やトラックを追加要件なしで受け入れることを意味するとみられる。
 
米国がインドと韓国との間で関税合意を成立させたことで、主要な貿易相手国で合意がないまま8月1日の期限を迎える可能性があるのはカナダとメキシコのみとなった。

世界のGDPに与える影響は-0.63%、日本への影響は間接効果も含め-0.97%

今回の米国とインド、韓国との相互関税15%の合意結果を反映させると、米国の相互関税全体の各国の平均水準は23.0%であり、4月に当初トランプ政権が発表したものとほぼ同水準となる(図表)。4月に発表した相互関税を受けて金融市場は大きく混乱し、それが相互関税の上乗せ部分の90日間停止措置につながった。
 
しかし、現状で考えれば4月の相互関税率の平均とほぼ同水準のものが8月から適用されようとしている。この間、日米の株価の水準は切り上がり、ドル高円安も進んだ。トランプ関税が経済に与える悪影響について、今や金融市場は過小評価をしているのではないか。
 
現時点で相互関税が世界のGDPに与える影響は-0.63%程度と試算される。また、7月22日(米国時間)に日米で合意した内容に基づくと、トランプ関税全体が日本経済に与える影響は1年程度で-0.55%と試算される。このうち、新たな相互関税15%の直接的な影響は-0.38%である。
 
他方、新たな相互関税による日本のGDPへの影響は-0.80%であり、両者の差である-0.42%が、相互関税の他国への影響を通じた日本のGDPへの間接的な影響とみなすことができるだろう。これを、トランプ関税全体が日本のGDPに与える直接的な影響の-0.55%に加えた-0.97%が、間接的な影響を含めたトランプ関税全体が日本のGDPに与える影響と試算できる。
 
図表 相互関税の経済効果試算

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。