ジャクソンホールでパウエル議長が利下げを示唆しない場合には金融市場は混乱も
金融市場は8月21日から始まるカンザスシティ連銀主催のジャクソンホール会議で、22日に米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が行う講演に対する注目を高めている。このイベントを睨んで、世界の金融市場は現在、様子見姿勢、膠着状態に陥っている。
講演では、パウエル議長は、9月16~17日の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げを示唆する発言をすると予想する。
しかし、パウエル議長の講演内容にはなお大きな不確実性があり、仮に利下げを示唆しない場合には、金融市場は混乱状態に陥り、世界規模で大幅な株安、債券安が進み、また為替市場はドル高に振れる可能性がある。
講演では、パウエル議長は、9月16~17日の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げを示唆する発言をすると予想する。
しかし、パウエル議長の講演内容にはなお大きな不確実性があり、仮に利下げを示唆しない場合には、金融市場は混乱状態に陥り、世界規模で大幅な株安、債券安が進み、また為替市場はドル高に振れる可能性がある。
7月のFOMC議事録では物価の上振れリスクが指摘される
そうした中、20日に7月29日~30日に開かれた前回のFOMCの議事要旨が公表された。このFOMCでは、政策金利の据え置きが決定されたが、ボウマン副議長とウォラー理事の2名は0.25%の利下げを主張して政策金利据え置きに反対票を投じた。複数の理事による反対は、1993年12月以来約32年ぶりの異例の事態である。
議事要旨では、参加者の大勢は、雇用の下振れリスクよりも物価の上振れリスクの方が大きい、との判断を示した点が注目される(A majority of participants judged the upside risk to inflation as the greater of these two risks,)。これを踏まえ、パウエル議長がジャクソンホール会議で利下げを示唆しない可能性も、金融市場で意識され始めている。
しかし決定的に重要なのは、このFOMCが行われた後に発表された7月分雇用統計で、雇用者増加数が予想を大きく下回り、さらに過去2か月分の雇用者増加数が異例なほど大幅に下方修正されたことだ。この予想外の数字はFOMCで投票権を持つ多くの参加者を、利下げ支持に向かわせる可能性があるだろう。
議事要旨では、参加者の大勢は、雇用の下振れリスクよりも物価の上振れリスクの方が大きい、との判断を示した点が注目される(A majority of participants judged the upside risk to inflation as the greater of these two risks,)。これを踏まえ、パウエル議長がジャクソンホール会議で利下げを示唆しない可能性も、金融市場で意識され始めている。
しかし決定的に重要なのは、このFOMCが行われた後に発表された7月分雇用統計で、雇用者増加数が予想を大きく下回り、さらに過去2か月分の雇用者増加数が異例なほど大幅に下方修正されたことだ。この予想外の数字はFOMCで投票権を持つ多くの参加者を、利下げ支持に向かわせる可能性があるだろう。
パウエル議長は票が大きく割れることを避ける
パウエル議長はジャクソンホール会議の講演で、9月16~17日の次回FOMCでの利下げを示唆する発言を行い、実際、0.25%の利下げが行われる可能性を見ておきたい。
パウエル議長がそうした方向に舵を切る場合、それは、FOMCで票が大きく割れ、FRBの政策が混乱しているとの印象を避ける狙いもあるだろう。パウエル議長が政策維持を決める中、過半数が利下げに賛成することで議長案が否決されるといった前代未聞の事態が生じることは避けようとする可能性が高い。
そして、自身が利下げ支持に転じる方が、より多くの賛成票で決議されると判断すれば、パウエル議長はそうした道を選ぶのでないか。経済、物価の判断のみならず、FRBの信認維持という要素が、パウエル議長の政策判断に大きな影響を与えるはずだ。
パウエル議長がそうした方向に舵を切る場合、それは、FOMCで票が大きく割れ、FRBの政策が混乱しているとの印象を避ける狙いもあるだろう。パウエル議長が政策維持を決める中、過半数が利下げに賛成することで議長案が否決されるといった前代未聞の事態が生じることは避けようとする可能性が高い。
そして、自身が利下げ支持に転じる方が、より多くの賛成票で決議されると判断すれば、パウエル議長はそうした道を選ぶのでないか。経済、物価の判断のみならず、FRBの信認維持という要素が、パウエル議長の政策判断に大きな影響を与えるはずだ。
中央銀行の政治からの独立がジャクソンホール会議の隠れたテーマ
FRBの信認維持という観点からもう一つ重要なのは、政治からの独立である。トランプ大統領は、FRBに利下げを要求し、利下げに慎重なパウエル議長を連日のように強く批判している。これはあからさまな政治介入であり、適切ではない。
さらにトランプ大統領は20日に、FRBのクック理事が住宅ローンを有利な条件で借りるために書類を偽造した疑いがあるとして、辞任を求めた。クック理事は現時点で辞任するつもりはないとしているが、仮に辞任に追い込まれれば、トランプ政権はその後任に利下げに前向きな人物を指名する可能性が高く、人事を通じた政治介入が一段と進むことになる。
今回のジャクソンホール会議のテーマは労働市場であるが、隠れた大きなテーマは中央銀行の政治からの独立となるだろう。今回世界から集まる中央銀行の高官らの大半は、トランプ大統領によるFRBへの政治介入に批判的であり、パウエル議長に同情的だろう。彼らは、政治圧力に屈しない姿勢をともに確認し合うのではないか。
さらにトランプ大統領は20日に、FRBのクック理事が住宅ローンを有利な条件で借りるために書類を偽造した疑いがあるとして、辞任を求めた。クック理事は現時点で辞任するつもりはないとしているが、仮に辞任に追い込まれれば、トランプ政権はその後任に利下げに前向きな人物を指名する可能性が高く、人事を通じた政治介入が一段と進むことになる。
今回のジャクソンホール会議のテーマは労働市場であるが、隠れた大きなテーマは中央銀行の政治からの独立となるだろう。今回世界から集まる中央銀行の高官らの大半は、トランプ大統領によるFRBへの政治介入に批判的であり、パウエル議長に同情的だろう。彼らは、政治圧力に屈しない姿勢をともに確認し合うのではないか。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。