野党が示すのは一時的な財源確保の案
8月21日に、ガソリン税の暫定税率の廃止をめぐる3回目の与野党6党の実務者による協議が行われた。前回の協議では、各党がそれぞれ財源案を持ち寄って議論することで合意していた。ただし今回の協議でも与野党間の議論は平行線を辿り、4回目の協議を28日に行って議論を継続することが決まった。
暫定税率廃止の財源についての議論は、与党が目指す今年度補正予算での給付金の議論とリンクしている面もある。国民民主党の玉木代表は、暫定税率廃止の財源の今年度分に関して、参院選で自民が公約に掲げた1人一律2万円の現金給付を挙げ、「2万円をばらまくお金があれば十分財源は出てくる」と指摘している。与党は現金給付の財源に税収の上振れ分を充てる考えを示していた。
野党側は、こうした税収の上振れ分や外国為替資金特別会計、いわゆる「外為特会」の剰余金などを活用することを提案している。しかしこれらは、与党が主張する恒久財源には当たらない。
税収の上振れ分が生じるかやその額は毎年異なる。1兆円~1.5兆円のガソリン税の暫定税率の廃止に伴う税収減を毎年安定的に賄うことはできない。また、「外為特会」の剰余金も、内外の金利や為替動向によって毎年大きく変動する。
さらに、特別会計に関する法律では、外為特会に限らず、各特別会計の剰余金は積立金として計上する以外は翌年度の当該特別会計の歳入に繰り入れることが定められており、別の目的には利用できない。
暫定税率廃止の財源についての議論は、与党が目指す今年度補正予算での給付金の議論とリンクしている面もある。国民民主党の玉木代表は、暫定税率廃止の財源の今年度分に関して、参院選で自民が公約に掲げた1人一律2万円の現金給付を挙げ、「2万円をばらまくお金があれば十分財源は出てくる」と指摘している。与党は現金給付の財源に税収の上振れ分を充てる考えを示していた。
野党側は、こうした税収の上振れ分や外国為替資金特別会計、いわゆる「外為特会」の剰余金などを活用することを提案している。しかしこれらは、与党が主張する恒久財源には当たらない。
税収の上振れ分が生じるかやその額は毎年異なる。1兆円~1.5兆円のガソリン税の暫定税率の廃止に伴う税収減を毎年安定的に賄うことはできない。また、「外為特会」の剰余金も、内外の金利や為替動向によって毎年大きく変動する。
さらに、特別会計に関する法律では、外為特会に限らず、各特別会計の剰余金は積立金として計上する以外は翌年度の当該特別会計の歳入に繰り入れることが定められており、別の目的には利用できない。
租税特別措置の見直し議論
他方、代替財源が確保できなかった場合の対応について、日本維新の会と共産党は企業の法人税を優遇する租税特別措置の見直しなどで対応する案を提示した。
財源を個人に対する増税で賄うことについては、野党が受け入れる可能性は低そうだが、大企業が恩恵を受けやすい2兆円規模の租税特別措置の見直しで1兆円~1.5兆円の恒久財源を賄うことについては、受け入れる余地があるのではないか。国民民主党は恒久財源は必要でないとの姿勢だが、他の野党は財源確保の議論に必ずしも後ろ向きではない。
財源を個人に対する増税で賄うことについては、野党が受け入れる可能性は低そうだが、大企業が恩恵を受けやすい2兆円規模の租税特別措置の見直しで1兆円~1.5兆円の恒久財源を賄うことについては、受け入れる余地があるのではないか。国民民主党は恒久財源は必要でないとの姿勢だが、他の野党は財源確保の議論に必ずしも後ろ向きではない。
インフラ整備のための新税創設の案も
一方、朝日新聞は、老朽化が進む道路や上下水道などの維持・補修に充てる財源を確保するために、自動車の利用者に新たに負担を求める新税の創設が与党内で議論されていると報じている。
ガソリン税の正式名称は「揮発油税」と「地方揮発油税」であるが、揮発油税は1952年に導入され、車を利用する人が道路や橋の整備にかかる費用を負担する、目的税だった。その後、2009年度に道路特定財源制度が廃止され、ガソリン税は一般財源化された。
高度成長期に集中して建設された公共インフラの耐用年数を迎えて更新が必要になっている。そのため、自動車の利用者に再び目的税を通じた交通インフラ整備の負担を求めることが検討されているのである。
ただし、ガソリン暫定税率廃止の財源を個人に負担させることには、野党は強く反発する可能性が見込まれることから、実現は見通せない。
ガソリン暫定税率廃止の財源については、一時的な財源を確保して廃止を決定し、恒久財源の議論は先送りされる可能性がある。仮に恒久財源が確保される場合には、租税特別措置の見直しが有力なのではないか。
ガソリン暫定税率廃止の議論は、与党が目指す補正予算編成での給付金の議論や自民党総裁選前倒し議論といった政局と絡み合いながら進められていくだろう。ただし、与野党間での議論がなかなか収束しない中、野党が目指す11月1日の廃止という日程は次第に厳しくなってきているのではないか。
(参考資料)
「ガソリン税の暫定税率廃止に向け与野党が実務者協議…結論に至らず」、2025年8月21日、読売新聞オンライン
「ガソリン減税のかわりに新税? 政府検討、車利用者から徴収案」、2025年8月24日、朝日新聞速報ニュース
ガソリン税の正式名称は「揮発油税」と「地方揮発油税」であるが、揮発油税は1952年に導入され、車を利用する人が道路や橋の整備にかかる費用を負担する、目的税だった。その後、2009年度に道路特定財源制度が廃止され、ガソリン税は一般財源化された。
高度成長期に集中して建設された公共インフラの耐用年数を迎えて更新が必要になっている。そのため、自動車の利用者に再び目的税を通じた交通インフラ整備の負担を求めることが検討されているのである。
ただし、ガソリン暫定税率廃止の財源を個人に負担させることには、野党は強く反発する可能性が見込まれることから、実現は見通せない。
ガソリン暫定税率廃止の財源については、一時的な財源を確保して廃止を決定し、恒久財源の議論は先送りされる可能性がある。仮に恒久財源が確保される場合には、租税特別措置の見直しが有力なのではないか。
ガソリン暫定税率廃止の議論は、与党が目指す補正予算編成での給付金の議論や自民党総裁選前倒し議論といった政局と絡み合いながら進められていくだろう。ただし、与野党間での議論がなかなか収束しない中、野党が目指す11月1日の廃止という日程は次第に厳しくなってきているのではないか。
(参考資料)
「ガソリン税の暫定税率廃止に向け与野党が実務者協議…結論に至らず」、2025年8月21日、読売新聞オンライン
「ガソリン減税のかわりに新税? 政府検討、車利用者から徴収案」、2025年8月24日、朝日新聞速報ニュース
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。