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クックFRB理事との対立でトランプ政権内から大統領を援護する動き

トランプ大統領は25日に、米連邦準備制度理事会(FRB)のクック理事が住宅ローン申請書類を巡り不正を働いたとする大統領側近の指摘を受けて、クック理事を即時解任する考えを表明した。FRBの111年の歴史の中で、理事を解任しようと試みた大統領はいなかった。これに対してクック理事の弁護士は、「大統領にクック理事を解任する権限はない」として、訴訟を起こす方針を示している。
 
現状で、両者はにらみ合っている状況だが、この件で、トランプ政権内ではトランプ大統領を援護する動きが出ている。ハセット米国家経済会議(NEC)委員長は27日に、クック理事は訴訟の間は休職すべきだとの考えを述べた。同理事が休職すれば、米連邦公開市場委員会(FOMC)で金融政策を決定する本部理事の数は7名から6名に減る。辞任したクーグラー理事の後任にトランプ大統領の経済顧問であるミラン氏が上院での承認を得て着任すれば、トランプ大統領の息がかかった金融緩和を求める本部理事は、前回のFOMCで利下げを求めた2名を含み3名となり、金融政策決定に関わる本部理事の半数を占める。
 
昨年9月、当時投資ファンドのストラテジストだったスティーブン・ミラン氏は、基調的なインフレ率が2.5~3%の状況下でFRBが利下げをするのは間違いだと述べていた。ところが現在では、政策金利が当時より1ポイント低く、基調的なインフレ率は同じ水準であるにもかかわらず、FRBの利下げが遅すぎるというトランプ大統領の批判に同調している。
 
またベッセント米財務長官は27日のテレビインタビューで、クック理事が住宅ローン申請で不正を働いたとの疑惑について、パウエル議長に対して改めて内部調査の実施を求めたことを明らかにした。

人事を通じてFRB支配の狙いを隠さないトランプ大統領

トランプ大統領がクック理事の解任に動いたのは、FOMCで自身が指名した人物による多数派を確保する狙いではないかとの質問に対し、ベッセント財務長官は「すべてのFRB理事は独立している」と否定する回答をした。
 
しかしながらトランプ大統領は26日に、FOMCで投票権を持つ本部理事について、「間もなくわれわれが過半数を握る。ひとたび過半数になれば、住宅市場は好転し、素晴らしい結果になるだろう」と述べている。これは政権が人事権を用いて、独立した機関であるFRBを支配する狙いをあからさまに述べたものであり、決して見逃すことはできない。

FRBへの政治介入が高める米国金融市場でのトリプル安のリスク

トランプ大統領がFRBに政治介入をしなくても、FRBは間もなく利下げに転じる可能性がある。しかしながら、政治介入によって利下げがより大幅に、あるいは急速になる可能性がある。また、中央銀行と比べて政府はより景気刺激的でインフレ的な金融政策を求める傾向がある。こうしたリスクを金融市場が織り込んでいけば、中長期のインフレ期待は高まり、またそれを映して通貨が下落することになる。
 
現時点で金融市場は、政治介入によってFRBの政策がそこまで大きく影響を受けるとは考えていないように見える。しかし、FRBを支配しようとするトランプ大統領の意図は明らかだ。金融市場がその点をより理解すれば、米国金融市場では海外への資金逃避傾向を映してドル安、債券安、株安のトリプル安の傾向が強まり、世界の金融市場の安定に大きな打撃を与えるだろう。
 
(参考資料)
“Get Ready for the End of Fed Independence(FRBの独立性の終わりに備えよ)”, Wall Street Journal, August 28, 2025
“Bessent Repeats Call for Fed Review After Cook Fraud Allegations(ベッセント財務長官、FRBにクック理事の疑惑巡る内部調査要求)”, Bloomberg, August 27, 2025
“Fed’s Cook Should Go on Leave While Case Plays Out, Hassett Says(クックFRB理事は訴訟中休職すべきだ-ハセット氏が主張), Bloomberg, August 27, 2025

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。