4-6月期の企業売上高は下振れ
9月1日の東京市場で日経平均株価は一時前営業日比で800円を超える大幅下落となった。先週末に進んだ円高の影響に加えて、同日に公表された財務省の法人企業統計が、トランプ関税のリスクを市場に想起させたことも影響した可能性がある。
4-6月期の法人企業統計は、同期のGDP統計で既に示唆された設備投資の堅調を裏付ける内容となった。他方、売上高、経常利益は低調であり、景気の変調を意識させた面もある。
4-6月期の売上高は前年同期比+0.8%と前期の+4.3%から急減速した。国内企業物価は同期に前年同期比+3.4%上昇していることから、実質売上高(売上数量)は前年同期比で顕著なマイナスになったと考えられる。これは景気変調のサインと言えるのではないか。
業種別には石油・石炭の前年同期比-16.0%、金属製品の同-9.0%、鉄鋼の同-5.7%、化学の同-4.2%など素材型製造業での売上高の下振れが目立った。非製造業では建設業が同-2.0%、電気業が同-1.5%と下振れている。
季節調整済で見た4-6月期の売上高も前期比-1.1%と大きく減少しており、前期の+1.1%と均してみると収益は横ばいトレンドにある。
さらに、経常利益は前年同期比+0.2%と前期の同+3.8%を大きく下回り、ゼロ近傍の増加率となった。季節調整済前期比で見ても+0.7%と低調であり、前期の同-3.1%と均してみればマイナストレンドである。
4-6月期の法人企業統計は、同期のGDP統計で既に示唆された設備投資の堅調を裏付ける内容となった。他方、売上高、経常利益は低調であり、景気の変調を意識させた面もある。
4-6月期の売上高は前年同期比+0.8%と前期の+4.3%から急減速した。国内企業物価は同期に前年同期比+3.4%上昇していることから、実質売上高(売上数量)は前年同期比で顕著なマイナスになったと考えられる。これは景気変調のサインと言えるのではないか。
業種別には石油・石炭の前年同期比-16.0%、金属製品の同-9.0%、鉄鋼の同-5.7%、化学の同-4.2%など素材型製造業での売上高の下振れが目立った。非製造業では建設業が同-2.0%、電気業が同-1.5%と下振れている。
季節調整済で見た4-6月期の売上高も前期比-1.1%と大きく減少しており、前期の+1.1%と均してみると収益は横ばいトレンドにある。
さらに、経常利益は前年同期比+0.2%と前期の同+3.8%を大きく下回り、ゼロ近傍の増加率となった。季節調整済前期比で見ても+0.7%と低調であり、前期の同-3.1%と均してみればマイナストレンドである。
自動車関税や人件費上昇の影響で経常利益も下振れ
製造業の経常利益は2四半期連続で前年同期比及び前期比でマイナスとなったが、注目されるのは輸送用機械であり、経常利益は1-3月期に前年同期比-28.0%、4-6月期に同-29.7%と大幅減少である。輸送機械は売上高と設備投資で見れば堅調である一方、経常利益が大幅に減少しているのは、トランプ関税の影響によるところが大きいと考えられる。4月に導入された自動車関税を受けて、自動車メーカーが対米向け自動車輸出の価格を引き下げて、関税による米国市場での価格上昇の一部を吸収していることの影響が大きいとみられる。
また、4-6月期には人件費が前年同期比+5.2%と大幅に上昇している。雇用者数の拡大と賃金の上昇の双方の影響によるものだ。これが、企業の収益を大きく圧迫している。
また、4-6月期には人件費が前年同期比+5.2%と大幅に上昇している。雇用者数の拡大と賃金の上昇の双方の影響によるものだ。これが、企業の収益を大きく圧迫している。
設備投資は景気の遅行指標
4-6月期は売上高、経常利益が低調だった一方、設備投資は前年同期比+7.6%と前期の同+6.4%を上回り堅調であった。この両者の乖離をどのように解釈するかが、今回の法人企業統計を読み解く最大のカギとなる。
設備投資が堅調であることは、関税の影響などが限定的であり、日本企業の景況感が良いことの表れ、との解釈もあるだろう。
しかし法人企業統計の売上高、経常利益、設備投資の3つの時系列データから時差相関分析を行うと、設備投資は売上高、経常利益に遅行する傾向が確認される。
過去10年のデータを用いて時差相関分析を行うと、設備投資は2四半期前の売上高と最も高い相関係数(0.632)を示し、また経常利益とも2四半期前で最も高い相関係数(0.755)を示している。
物価高による国内消費の低迷、人件費上昇やトランプ関税の影響による収益環境の悪化が企業の設備投資に与える悪影響は、これから年末にかけて顕在化してくる可能性が考えられる。4-6月期の設備投資が堅調であったことが、先行きの経済の良好さを裏付けるものとは言えないだろう。
設備投資が堅調であることは、関税の影響などが限定的であり、日本企業の景況感が良いことの表れ、との解釈もあるだろう。
しかし法人企業統計の売上高、経常利益、設備投資の3つの時系列データから時差相関分析を行うと、設備投資は売上高、経常利益に遅行する傾向が確認される。
過去10年のデータを用いて時差相関分析を行うと、設備投資は2四半期前の売上高と最も高い相関係数(0.632)を示し、また経常利益とも2四半期前で最も高い相関係数(0.755)を示している。
物価高による国内消費の低迷、人件費上昇やトランプ関税の影響による収益環境の悪化が企業の設備投資に与える悪影響は、これから年末にかけて顕在化してくる可能性が考えられる。4-6月期の設備投資が堅調であったことが、先行きの経済の良好さを裏付けるものとは言えないだろう。
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。