9月4日(米国時間)に赤澤大臣とラトニック商務長官は、7月に日米が合意した5500億ドルの対米投資についての覚書に署名した。内容は、今までトランプ政権側が説明してきたものに近く、米国主導、米国優位の枠組みとの性格が強い。日本にとってはかなり不平等な取り決めになったとも言えるのではないか。
特に問題と思われるのは以下の4点だ。
1)投資先は大統領が選定し、大統領に推薦する投資委員会は商務長官が議長を務める(委員に日本は加わらない見通し)
2)日本が資金提供を行わない場合、大統領は日本製品に関税を課すことができる
3)日本は資金を提供することが求められる一方、それを用いて投資をするのが日本企業とは明示されていない(米国企業が日本が供与する資金で投資をすることが可能と推察)
4)投資から生じる収益は見直し配当の形で前倒しで分配される。米国の分配率はみなし配当額に相当する部分までは50%、それを超える部分については90%(すべての投資で米国政府は分配を受けとる可能性)
これでは、日本が米国のために都合よく資金を提供するスキームである。本来、日本企業の成長・発展のため、ひいては国民の利益ために存在する日本の政府系金融機関が、米国経済・産業のために資金を提供するスキームとなっているのは大きな問題だ。
また、日本政府が説明してきた、政府系金融機関が融資、融資保証、出資を通じて最大5500億ドルまで日本企業の対米投資を支援する、という基本的な考えは、この覚書には全く出てこない。米国側に分配するのは、全体のうちわずか1~2%の政府系金融機関の出資部分、という日本政府の説明も覚書には書かれていない。
さらに覚書からは、投資についてはすべての主体者が、投資額と金利水準から先行きの収益(キャッシュフロー)を推定し、みなしの配当額を前倒しで支払うことを想定しているようにも読める。実際の配当を待たずに、前倒しでこの投資スキームを通じて米国政府の財政収入を増やすことを狙っているのではないか。
投資先は大統領が選定し、大統領に推薦する投資委員会は商務長官が議長を務めるという規定は、この投資のスキームが米国主導で行われることを明確に示している。日本は、投資委員会が大統領に推薦する前に審議する協議委員会に関与するのみである。
投資先が米国の経済安全保障、国家安全保障に関わる分野が対象であり、その結果、米国の経済安全保障、あるいは国家安全保障が強化されれば、同盟国の利益にもなる、という意味で、日本政府はこの投資スキームは両国にとってWin-Winとなるもの、と説明している。確かに覚書では、経済・国家安全保障の利益を促進する分野が対象になると書いてある。日本側の要請を受け入れたものである可能性もあるだろう。
しかし覚書とともに4日に発令された大統領令では、「これらの投資は、米国政府によって選定されるが、数十万人の米国雇用を創出し、国内製造業を拡大し、何世代にもわたって米国の繁栄を確保する」と明記されているように、この枠組みに関するトランプ政権の狙いは、経済安全保障、国家安全保障の強化にとどまらず、米国製造業の再生にあるだろう。
日本に対してわずかに配慮したとみられるのは、投資に関わるベンダーやサプライヤーの選定で日本企業を優先させることを示唆している点である。
全体としては、日本の政府系金融機関の資金提供を、米国経済・産業のために利用する米国主導のスキームとなっており、日米間で明確に不平等な取り決めになっていると考えられる。日本政府が今まで説明してきたこととこの覚書の内容との整合性を説明するのは、かなり難しいのではないか。
特に問題と思われるのは以下の4点だ。
1)投資先は大統領が選定し、大統領に推薦する投資委員会は商務長官が議長を務める(委員に日本は加わらない見通し)
2)日本が資金提供を行わない場合、大統領は日本製品に関税を課すことができる
3)日本は資金を提供することが求められる一方、それを用いて投資をするのが日本企業とは明示されていない(米国企業が日本が供与する資金で投資をすることが可能と推察)
4)投資から生じる収益は見直し配当の形で前倒しで分配される。米国の分配率はみなし配当額に相当する部分までは50%、それを超える部分については90%(すべての投資で米国政府は分配を受けとる可能性)
これでは、日本が米国のために都合よく資金を提供するスキームである。本来、日本企業の成長・発展のため、ひいては国民の利益ために存在する日本の政府系金融機関が、米国経済・産業のために資金を提供するスキームとなっているのは大きな問題だ。
また、日本政府が説明してきた、政府系金融機関が融資、融資保証、出資を通じて最大5500億ドルまで日本企業の対米投資を支援する、という基本的な考えは、この覚書には全く出てこない。米国側に分配するのは、全体のうちわずか1~2%の政府系金融機関の出資部分、という日本政府の説明も覚書には書かれていない。
さらに覚書からは、投資についてはすべての主体者が、投資額と金利水準から先行きの収益(キャッシュフロー)を推定し、みなしの配当額を前倒しで支払うことを想定しているようにも読める。実際の配当を待たずに、前倒しでこの投資スキームを通じて米国政府の財政収入を増やすことを狙っているのではないか。
投資先は大統領が選定し、大統領に推薦する投資委員会は商務長官が議長を務めるという規定は、この投資のスキームが米国主導で行われることを明確に示している。日本は、投資委員会が大統領に推薦する前に審議する協議委員会に関与するのみである。
投資先が米国の経済安全保障、国家安全保障に関わる分野が対象であり、その結果、米国の経済安全保障、あるいは国家安全保障が強化されれば、同盟国の利益にもなる、という意味で、日本政府はこの投資スキームは両国にとってWin-Winとなるもの、と説明している。確かに覚書では、経済・国家安全保障の利益を促進する分野が対象になると書いてある。日本側の要請を受け入れたものである可能性もあるだろう。
しかし覚書とともに4日に発令された大統領令では、「これらの投資は、米国政府によって選定されるが、数十万人の米国雇用を創出し、国内製造業を拡大し、何世代にもわたって米国の繁栄を確保する」と明記されているように、この枠組みに関するトランプ政権の狙いは、経済安全保障、国家安全保障の強化にとどまらず、米国製造業の再生にあるだろう。
日本に対してわずかに配慮したとみられるのは、投資に関わるベンダーやサプライヤーの選定で日本企業を優先させることを示唆している点である。
全体としては、日本の政府系金融機関の資金提供を、米国経済・産業のために利用する米国主導のスキームとなっており、日米間で明確に不平等な取り決めになっていると考えられる。日本政府が今まで説明してきたこととこの覚書の内容との整合性を説明するのは、かなり難しいのではないか。
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。