石破首相が辞任表明
石破首相は7日に記者会見を開き、辞任を表明した。総裁選には出馬しない。このタイミングで辞任を発表したことについて、石破首相は2つの理由を挙げた。第1は、先週末に日米関税協議について大統領令、日米共同声明、投資に関する覚書が発表され、関税問題が前進して一区切りがついたこと、第2は8日に予定されていた総裁選の前倒し実施を巡る投票が行われれば、党が2分されてしまう恐れがあったことだ。
実際には辞任は2番目の理由によるところが大きく、総裁選の前倒し実施となる可能性が高まったと判断して、その直前に石破首相は辞任を決めたのではないか。日米関税協議の実際の山場は、7月22日の関税合意であり、今回の大統領令、日米共同声明、投資に関する覚書はその内容を文書化するプロセスでしかなかった。
石破首相は、能動的サイバー防衛、コメ対策、地方創生、賃上げなどを自らの1年間の成果として挙げた。
実際には、石破政権の最大の成果は、少数与党のもとで野党を調整しながら政策を進めるという新しい道を切り開いたことにあったのではないか。そのもとで、103万円の壁問題への対応、年金制度改革、高校授業料無償化などが法制化された。
石破首相は自らの成果を説明しつつも、地方創生、関税問題などで道半ばであることも強調しており、無念さもにじませた。
実際には辞任は2番目の理由によるところが大きく、総裁選の前倒し実施となる可能性が高まったと判断して、その直前に石破首相は辞任を決めたのではないか。日米関税協議の実際の山場は、7月22日の関税合意であり、今回の大統領令、日米共同声明、投資に関する覚書はその内容を文書化するプロセスでしかなかった。
石破首相は、能動的サイバー防衛、コメ対策、地方創生、賃上げなどを自らの1年間の成果として挙げた。
実際には、石破政権の最大の成果は、少数与党のもとで野党を調整しながら政策を進めるという新しい道を切り開いたことにあったのではないか。そのもとで、103万円の壁問題への対応、年金制度改革、高校授業料無償化などが法制化された。
石破首相は自らの成果を説明しつつも、地方創生、関税問題などで道半ばであることも強調しており、無念さもにじませた。
次期政権に求められるのは日米関税問題への対応と物価高対策
経済政策面では次期政権が最優先で取り組む必要があるのは、第1に関税政策、第2に物価高対策であろう。日米関税合意についてはなお、日米間で認識の溝がある。この状態のままであれば、いずれトランプ政権が日米合意を破棄し、関税率を再び引き上げる可能性がある。次期政権は日米間での対話を続け、認識の溝を埋める努力をすることで、そうした事態を回避するように努めることが求められる。
物価高対策については、自民党が参院選で掲げた給付金を実施するかどうか、が次期政権の判断に委ねられる。財政面での負担を考えれば、恒久減税ではなく給付の方が一時的な措置として望ましいのではないか。
ただし、物価高対策としては、財政面での対応以外に、実際の物価上昇率を下げることが、実質賃金の上昇と国民生活の改善につながるため重要である。コメの価格の安定化、輸入価格の上昇を招く円安の抑制、などが次期政権の重要な政策となるだろう。
物価高対策については、自民党が参院選で掲げた給付金を実施するかどうか、が次期政権の判断に委ねられる。財政面での負担を考えれば、恒久減税ではなく給付の方が一時的な措置として望ましいのではないか。
ただし、物価高対策としては、財政面での対応以外に、実際の物価上昇率を下げることが、実質賃金の上昇と国民生活の改善につながるため重要である。コメの価格の安定化、輸入価格の上昇を招く円安の抑制、などが次期政権の重要な政策となるだろう。
後任候補は高市氏、小泉氏、林氏らか
自民党総裁選で選出される有力な候補は、昨年10月の総裁選の第1回目投票で得票数が上位だった人物だろう。1番目の高市氏、3番目の小泉氏、4番目の林氏、5番目の小林氏などが有力な候補ではないか。高市氏は麻生氏、小泉氏は菅氏、林氏は岸田氏のそれぞれ首相経験者の後押しがある。
総裁選で誰が選ばれるかは、新総裁に期待される役割によって決まってくるだろう。石破氏と対称的な政策を掲げる人物を選び、変化を対外的にアピールするのであれば、外交、安全保障ではタカ派、経済政策では積極財政、金融緩和支持の高市氏となるだろう。高市氏の場合には、石破政権下で対立していた党内保守派が支持母体となる。ただし保守色の強い高市氏の場合には、野党との調整がより難しくなり、衆参ともに少数派である与党の政策運営は行き詰まる可能性がある。
他方、将来の衆院選挙で議席を取り戻し、自民党の党勢回復を目指すのであれば、国民の間で人気が高い小泉氏が有力となる。ただし、野党との調整や外交面などで経験不足が露呈する可能性もあるだろう。
野党と調整しつつ安定した政権運営を目指し、また、党内の分裂を避けつつ徐々に党勢の回復を図るのであれば、石破氏と同様にリベラル寄りの立場を持つ林氏が適任となるだろう。
総裁選で誰が選ばれるかは、新総裁に期待される役割によって決まってくるだろう。石破氏と対称的な政策を掲げる人物を選び、変化を対外的にアピールするのであれば、外交、安全保障ではタカ派、経済政策では積極財政、金融緩和支持の高市氏となるだろう。高市氏の場合には、石破政権下で対立していた党内保守派が支持母体となる。ただし保守色の強い高市氏の場合には、野党との調整がより難しくなり、衆参ともに少数派である与党の政策運営は行き詰まる可能性がある。
他方、将来の衆院選挙で議席を取り戻し、自民党の党勢回復を目指すのであれば、国民の間で人気が高い小泉氏が有力となる。ただし、野党との調整や外交面などで経験不足が露呈する可能性もあるだろう。
野党と調整しつつ安定した政権運営を目指し、また、党内の分裂を避けつつ徐々に党勢の回復を図るのであれば、石破氏と同様にリベラル寄りの立場を持つ林氏が適任となるだろう。
高市氏への観測が高まれば、債券安、円安、株高となる可能性も
小泉氏、林氏が次期首相となる場合には、経済政策は石破政権と大きく変わらないことから、金融市場はそれほどの警戒は示さないものの、高市氏が次期首相になる可能性がある場合には、より警戒し、その可能性を部分的に織り込んでいくだろう。その場合、積極財政政策、消費税減税の可能性が意識される。また、金融政策面では日本銀行の利上げを牽制する可能性が意識されるだろう。
積極財政政策は、財政規律の低下から長期金利の上昇と円安を生む。また、金融緩和維持への期待が将来のインフレリスクを高めることで、短期金利には下落圧力、長期金利には上昇圧力を生じさせるだろう。つまり、イールドカーブはスティープ化しやすい。
長期金利の上昇は株式市場の逆風となるが、積極財政や金融緩和が経済活動に与える短期的な好影響や円安の影響がそれを上回り、株式市場には全体として追い風となるのではないか。
積極財政政策は、財政規律の低下から長期金利の上昇と円安を生む。また、金融緩和維持への期待が将来のインフレリスクを高めることで、短期金利には下落圧力、長期金利には上昇圧力を生じさせるだろう。つまり、イールドカーブはスティープ化しやすい。
長期金利の上昇は株式市場の逆風となるが、積極財政や金融緩和が経済活動に与える短期的な好影響や円安の影響がそれを上回り、株式市場には全体として追い風となるのではないか。
消費税減税による金融市場の大混乱は起きにくい
しかし、高市政権の下で消費税減税が実施され、財政環境が大きく悪化するとの観測が強まれば、国債の格下げ観測も浮上し、金融市場全体が大きく動揺する可能性がある。その場合には、円安、債券安だけでなく、海外への資金流出懸念から株安ともなり、「トリプル安」のリスクも高まるだろう。
しかし野党が主張する消費税減税案はそれぞれ大きく異なっており、その調整が難しい。また、恒久財源の問題を抱える消費税減税あるいは消費税廃止の議論は、参院選挙後には野党の間でも盛り上がりを欠いている。
この点から、金融市場は高市政権の可能性を部分的に織り込んでいく展開となっても、消費税減税が実現し、金融市場が大きく混乱する最悪シナリオまで一気に織り込む可能性は低いのではないか。
しかし野党が主張する消費税減税案はそれぞれ大きく異なっており、その調整が難しい。また、恒久財源の問題を抱える消費税減税あるいは消費税廃止の議論は、参院選挙後には野党の間でも盛り上がりを欠いている。
この点から、金融市場は高市政権の可能性を部分的に織り込んでいく展開となっても、消費税減税が実現し、金融市場が大きく混乱する最悪シナリオまで一気に織り込む可能性は低いのではないか。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。