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日本維新の会、国民民主党との連立の可能性に言及

茂木前幹事長は9月10日、自民党総裁選に立候補する考えを表明し、記者会見を開いた。そこでの発言で最も注目されたのは、第1に、日本維新の会、国民民主党など野党との連立を視野に入れるとした点、第2に、経済・物価高対策は、給付金や消費減税ではなく、数兆円規模の生活支援特別地方交付金を提唱した点だ。
 
衆参両院で与党が過半数を割っているもと、石破政権はテーマ毎に野党各党の協力を仰ぐ形で政策を進めてきたが、茂木氏は、「個別政策ごとに野党に協力を求めるのでは政治は前に進まない」「外交安全保障、エネルギー政策、憲法など基本的な政策で一致できる政党と新たな連立の枠組みを追求し、力強い政権基盤を固めていく」と述べた。そのうえで、「日本維新の会や国民民主党とはしっかり話をしたい」とし、両党との連立を模索する考えを明言した。野党の中で中道右派的な政党との連携を茂木氏は考えている。

2年で日本経済の再生の道筋を作る

経済政策面で茂木氏は、2年で日本経済を再生の軌道に戻すとして、積極的な経済政策を掲げた。ただし具体性を欠いている感は否めない。昨年の総裁選挙では、当時争点の一つとなっていた防衛費増額のための増税に反対する一方、投資拡大などを通じて成長率を高めることを主張したが、その際も政策は概して具体性を欠いていた。
 
企業の設備投資の一括償却で投資拡大させ、それを賃上げにつなげる、投資拡大を起点とした消費拡大を目指すとしている。また、成長産業を地方に集積させるための投資やハローワーク抜本改革などの働き方改革、物価高対策などを通じて成長率を高め、「3年で年収を1割高め、50万円増やす。その結果平均年収は500万円を超える。名目GDPは現在の610兆円から3年後には670兆円、5年後には700兆円を突破する」との青写真を示した。
 
これは名目GDPが年率3%程度で成長を続けることを前提とした計算のように見えるが、まさに絵に描いた餅のようで、それを実現させるための具体策が提示されていない。

数兆円規模の生活支援特別地方交付金

他方で具体的に掲げた経済政策は、数兆円規模の生活支援特別地方交付金だった。これは、自民党が参院選で掲げた一律2万円の給付金に代わる物価高対策との位置づけだ。地方政府がそれぞれの地域のニーズに合った物価高対策にお金を使うのが良い、との考えであるが、数兆円規模の特別地方交付金をそれぞれの地方自治体がどの程度迅速に政策に利用するのか明らかでなく、またそれぞれが異なる政策となり統一感を欠いてしまうだろう。そもそも地方に丸投げしたとの印象もあり、枠組みとしては問題が多いのではないか。
 
財源については、賃金上昇率が物価上昇率を上回るまでの短期的な措置であるため、税収の上振れ分を充てる、と茂木氏は述べている。

消費減税には否定的

一方、参院選で野党が掲げた消費減税については否定的な発言をしている。減税よりも給与を増やすことで可処分所得を増加させることを目指すのが良い、とした。さらに財政に責任を持つ必要があるとも説明している。

日本銀行の独立性には配慮

日本銀行の金融政策に関連して、日本経済はデフレ脱却に近づいているものの、それは需要主導ではないのが問題であると述べた。それを見極めつつ異次元の緩和から徐々に脱していく局面であるとし、具体的な政策は日本銀行が適切に判断して実施すべきとの考えを示している。日本銀行の利上げにはやや慎重なニュアンスもあるが、日本銀行の独立性を尊重し、利上げを容認する姿勢を示したと言える。
 
茂木氏は、財政政策においてはやや積極財政を支持する一方、財政の健全性にも一定の配慮を見せている。他方、日本銀行の金融政策の独立性を尊重する姿勢であり、国債発行を伴う積極財政と金融緩和継続を主張する高市元経済安全保障担当相とは、これらの点で一線を画している感がある。
 
また関税交渉については、自動車関税引き下げが早く実行されることがまずは重要であるとする一方、関税率が再び引き上げられて企業に追加の打撃が起こらないように米国政府と協議を続けることが必要であるとした。
 
他方で、関税策によって日米貿易不均衡が是正されれば、いずれ関税率の引き下げの可能性も出てくる、と楽観的な見方も示した。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。