金融市場は向こう1年で3%以下までの政策金利引き下げを織り込む
米国労働省は11日、8月CPI(消費者物価指数)を発表した。前年同月比上昇率は+2.9%と7月の+2.7%を上回り、今年1月以来7か月ぶりの水準に達した。変動の大きい食品やエネルギーを除いたコアCPIは、+3.1%と前月と同水準となった。
8月CPIの上昇率は概ね事前予想通りだったが、関税による輸入物価の上昇が小売段階に波及していることを裏付けている。一方、足もとでは雇用情勢の悪化が目立っており、米国経済は、景気停滞と物価上昇が同時に進行する「スタグフレーション」の兆候を強めている。
8月CPIが想定内の結果になったことで、9月16日~17日の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げが実施されることの最後のハードルがクリアされた形だ。金融市場は次回FOMCでの利下げをほぼ確実視している。
他方、関税の影響などによる物価上昇が確認されたことで、0.5%の大幅な利下げへの観測は金融市場で後退している。8月CPI発表後に、金融市場は9月を含めて年内3回のFOMCでそれぞれ0.25%ずつの利下げを織り込んでいる。さらに来年9月までに合計で1.5%弱の利下げを織り込んでいる。これは、政策金利であるFF金利の誘導目標が現在の4.25%~4.5%から、2.75%~3.0%近くに来年9月までに引き下げられることを、金融市場が予想していることを意味する。
政治圧力で利下げがより促されるとの観測
FOMC参加者の中長期のFF金利の予測値の中央値は6月時点で3.0%であったが、向こう1年のうちにそれを下回る水準までFF金利が引き下げられる予想となってきた。これは、トランプ政権による政治介入によって、米連邦準備制度理事会(FRB)が自然体での判断と比べてより緩和的な政策の実効を強いられることを金融市場が予想していることを示唆しているのではないか。
物価の上振れリスクが残る中、FRBが政治的圧力の下で積極的な金融緩和を強いられるとすれば、中長期的な物価上昇率の上振れリスクを高め、ドル安を生むことになるだろう。現在の経済環境及びトランプ政権のFRBへの政治介入は、潜在的なドル安リスクを高めていると考えたい。
11日に、 米上院の共和党指導部は、トランプ大統領の経済アドバイザーである大統領経済諮問委員会(CEA)のミラン委員長のFRB理事指名を巡る上院本会議での採決を、15日に設定した。書類手続きや宣誓などが必要なため、可能性は高いとは言えないものの、ミラン氏が15日に上院で承認されれば、9月16日~17日の次回FOMCに参加し金融政策決定に関与する可能性がわずかに残されている。
一方、トランプ大統領がFRBのクック理事を解任しようとしたことに対し、クック理事が解任は不当だとする訴えを起こした裁判で、首都ワシントンの連邦地方裁判所は解任を一時的に差し止める判断を10日に示した。しかしトランプ大統領は11日に、この決定について15日までに撤回するよう控訴裁判所に申し立て、16日~17日のFOMCにクック理事を出席させないよう求めた。
仮にクック理事が次回FOMCを欠席し、ミラン氏が出席する場合は、FRB理事の出席は6人となり、そのうちトランプ大統領が指名した利下げ積極派が3人と半数を占めることになる。それは、FOMCでの利下げ決定をより確実なものとするだろう。
物価の上振れリスクが残る中、FRBが政治的圧力の下で積極的な金融緩和を強いられるとすれば、中長期的な物価上昇率の上振れリスクを高め、ドル安を生むことになるだろう。現在の経済環境及びトランプ政権のFRBへの政治介入は、潜在的なドル安リスクを高めていると考えたい。
11日に、 米上院の共和党指導部は、トランプ大統領の経済アドバイザーである大統領経済諮問委員会(CEA)のミラン委員長のFRB理事指名を巡る上院本会議での採決を、15日に設定した。書類手続きや宣誓などが必要なため、可能性は高いとは言えないものの、ミラン氏が15日に上院で承認されれば、9月16日~17日の次回FOMCに参加し金融政策決定に関与する可能性がわずかに残されている。
一方、トランプ大統領がFRBのクック理事を解任しようとしたことに対し、クック理事が解任は不当だとする訴えを起こした裁判で、首都ワシントンの連邦地方裁判所は解任を一時的に差し止める判断を10日に示した。しかしトランプ大統領は11日に、この決定について15日までに撤回するよう控訴裁判所に申し立て、16日~17日のFOMCにクック理事を出席させないよう求めた。
仮にクック理事が次回FOMCを欠席し、ミラン氏が出席する場合は、FRB理事の出席は6人となり、そのうちトランプ大統領が指名した利下げ積極派が3人と半数を占めることになる。それは、FOMCでの利下げ決定をより確実なものとするだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。